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最終話 「大地に還る」【Cパート 機械の身体】

 【3】


 マリーヴェルの元から離れ、〈エビルカイザー〉の指揮官機のひとつと交戦する裕太。

 無限復活するメタモスと違い、倒せば壊れてくれるため先の戦いよりはマシである。

 とはいえ、現在こちらはエネルギーを節約しつつ戦っている最中。

 武器本体のバッテリーで駆動するビーム兵器を駆使して立ち回っているため、フォトン兵器を使える相手の方が性能的には一枚上手(うわて)


 しかし、裕太のこれまでの戦いは、格上を相手にしていたことのほうが多かった。

 なにせ最初のジェイカイザーの状態など、10年前の民間機レベルである。

 その状態でも操縦技能で圧倒し、時には知恵を働かせ、工業用キャリーフレームから軍用機まで相手取ったのだ。


 ビームセイバーでフォトンソードを受け止め鍔迫り合いをしながら、ふと裕太は思いついたことをジェイカイザーへと尋ねた。


「……そうだ、ジェイカイザー。お前、生体センサー持ってただろ。指揮官機をそれで見分けられないか?」

『それが無理なのだ、裕太! なぜか……なぜか〈エビルカイザー〉からは生体反応を感じることができぬ!』

「なんだって!?」

『敵はドアトゥ粒子を使った転移で戦場に降り立っている。それに加えてIDOLA(イドラ)の仕様……その両方に人間が介入しなければならないはずなのだが』


「グハハハハッ! 愚かだな光の勇者!」


 正面の指揮官機から突如放たれた通信。

 その品のない笑い声には、聞き覚えがあった。


「その声、その呼び方……! 確か黒竜王軍のワニ怪人!?」

「このゴーワン様の名前を忘れるとは許せんッ!」

「どこ行ったのか忘れかけてたけどよ……ネオ・ヘルヴァニアが黒竜王軍と合併した今、お前はお呼びじゃないぜ!」


 隙を付き、裕太は操縦レバーを切り返した。

 鍔迫り合いの状態から一歩刀身を引くことで、瞬間的にバランスを崩した相手のコックピット部分をかすめる様にビームセイバーを走らせる。

 こうすることでコックピットを保護するクロノス・フィールドが発生し、操縦を切り離された機能が停止する……はずだった。


 裕太の眼前に広がる光景、それはコックピットハッチを切り裂かれた〈エビルカイザー〉の赤熱した傷口から、パイロットシートが見える状態。

 しかし、そのパイロットシートに鎮座していたのは人の姿でもワニ怪人でもなく、無数のパイプでコックピットの外壁と接続された一つの球体。

 何を示しているのかわからない緑色の信号が、その表面で点滅するボール状の装置が、確かに操縦席に座っていた。


「その姿……!?」

「グハハハッ! 笑わば笑え! 死にかけの身を拾われた先で、このような姿へと変えられた我輩を! だが、この永遠の命を持つ身体ならば、我輩の野望も────!」


 受けたダメージが、どこかに蓄積していたのか。

 あるいは自爆装置でもつけられているのか。

 ゴーワンの声がした〈エビルカイザー〉が内側から爆ぜるように膨らみ、爆炎の中へと消えていった。



 ※ ※ ※



「内宮千秋といったか。君、良い腕をしているな。コロニー・アーミィに入らないか?」

「大元帥はん、こないな時にスカウトでっか?」

「君を見ていると、昔の私を思い出してな。アーミィは優秀な若者をいつでも求めているぞ?」

「ありがたい勧誘やけど……全部終わらせてから考えさせてもらんます! うららららぁっ!!」


 マリーヴェルの〈ジエル〉と内宮の〈エルフィス(ストライカー)〉で背中合わせとなり、補助用スラスターで横回転をしながらビーム・スラスターを連射。

 4門の大型ビーム砲身から放たれた無数の光弾が、次々と周囲を取り囲む〈エビルカイザー〉の守りを貫きダメージを与えていく。

 回転を止め、ビーム・スラスターを推進モードへと切り替えると同時に、内宮はフットペダルに力を込めた。


「どうした?」

「うちのExG能力が、指揮官機を捉えたんや! 逃がすかボケェッ!」


 ビーム・スラスターの加速力で一気に詰め寄り、1機の〈エビルカイザー〉へと肉薄する。

 速度を維持したまま射撃モードへと移行、ビーム・スラスターを指揮官機に向けて放射する。

 狙われた〈エビルカイザー〉は直撃を避けるようにフォトンフィールドを形成しつつ体勢を変え、ビームが当たることによりフィールドを失いながらもフォトンソードを構え格闘戦へと切り替えてきた。


 とっさにビームセイバーを構え、その一撃を受け止める内宮。

 同時に、正面の敵機から直接の通信が入っていくる。


「どうかね、内宮千秋くん! 自身の戦闘データの集団と戦う気分は!」

「何やと? 誰や!?」

「僕の声を忘れたのかい? メビウスで何度か話さなかったかな? 社長の三輪みわ勝元かつもとだよ!!」

「三輪社長やて!?」


 一旦、指揮官機から距離を取りつつ、周囲から横槍を入れようとしていた無人の〈エビルカイザー〉へと一撃を入れる。

 そして再び、三輪を名乗った者が乗る機体の方へと意識を向け、〈エルフィス(ストライカー)〉のスラスターを吹かせる。


「三輪社長やったら、黒竜王軍に関与してたいう責任で居なくなったはずやろ! なんでこないなところで、こんなことを!?」

「これも全て、ドクター・デフラグの計画だったのだよ! 我々のような選ばれし者たちは、ドクター・デフラグの手で永遠の命を手に入れ、地球の支配者となるのだ!」

「くだらん夢ほざくなや!! 頭おかしいんちゃうか!?」

「ワハハハハ! ワハハハハハ!」


 高笑いをするだけとなった三輪の搭乗する機体へと、おもむろに内宮はビームライフルを連射した。

 すぐさま回避軌道を取られかわされるも、予め予測していた回避方向へと向けていたビーム・スラスターを間髪入れずに発射。

 コックピットのやや上を貫くようにして、太めの強力なビームが〈エビルカイザー〉をえぐり抜けた。

 本来ならば機能停止していてもおかしくないダメージを受けたはずなのに、首の根元から上と片腕を失った格好のまま〈エビルカイザー〉が腕を突き出して襲いかかって来る。


「内宮千秋ィィぃ!!」

「なっ……!?」


 大柄な腕で〈エルフィス(ストライカー)〉の頭部を鷲掴みにされた格好で、内宮は正面に見えるむき出しのコックピットを見た。

 パイロットシートに固定されている、怪しげな球体の装置。

 その中から、確かに三輪のものと思える存在を感じ取っていた。


「どうかねこの姿は!? 人間を脆弱な肉体から切り離し、その精神だけを機械へと移植するドクター・デフラグの素晴らしいテクノロジーだよ!!」

「何が素晴らしいや!? そないな人間やめてまうような身体なって、ほんまに嬉しいんか!?」

「飢えも無い、老いも無い! 枯れることのない無限の意識と永遠の肉体が、未来永劫この私という存在を生きながらえさせ続けるのだよ!!」

「わからへん、うちには全然わからへん!!」


 目の前のコックピットを潰せば勝てる。

 それは内宮にもわかっていた。

 しかし、人の姿を捨てたとしても確かに人間がそこに無防備に乗っているのだ。

 その命を殺められるほど、内宮は戦士として成熟しては居なかった。


「貴様さえいなければ、ドクター・デフラグの計画の邪魔などさせ───!!」


 それ以上、愚かな男に言葉を紡がせないかのように〈エビルカイザー〉を貫くビームの光。

 三輪そのものであろう球体の装置をも巻き込んだ光弾は、機体を爆発の渦の中へと消滅させた。


「内宮千秋、無事か!」


 援護射撃をしてくれたマリーヴェルの〈ジエル〉に抱きかかえられた格好の〈エルフィス(ストライカー)〉の中で、内宮の腕は震えるばかりだった。



    ───Dパートへ続く

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