第48話「光を動かすもの」【Hパート 挨拶】
【8】
「お疲れさまでした、皆さん」
戦いでボロボロになったΝ-ネメシス。
その艦橋の艦長席から降りた深雪が、艦長帽を外して一礼した。
呼ばれた裕太たちも、反射的にお辞儀を返す。
「それにしても、ファインプレーでしたね、ナインさん」
「なに。大したことではない」
「そういえば、あの危機を乗り切る要因となった極大ビーム……あれは何じゃったんじゃ?」
「そうよぉ。平和を求める心が起こした奇跡だとか言われても、納得しないわよぉ?」
「では、功労者の方と通信をつなぎますね」
「功労者?」
それが誰か、を裕太が尋ねる前に、深雪は艦長席に戻ってコンソールを操作した。
数秒の後、大きなモニターへと移される一人の男の顔。
その顔面を指差して、真っ先に声を上げたのは内宮だった。
「あーーーっ!? キーザはん!?」
「何だ、内宮千秋。私では不満かね?」
「何故に、この男が功労者なのじゃ? この男は火星にいるはずじゃが……」
「火星……?」
裕太は、その言葉でネオ・ヘルヴァニアとの戦いを思い出した。
火星宙域を舞台として、激しい戦いが繰り広げられたあの戦いを。
そして思い出す、戦闘の中核となった巨大構造物。
「まさかあのビーム……コロニー・ブラスターだったのか!?」
「ご明答だ。突然ナインからメッセージが届いてな。送信した方角へ向けてコロニー・ブラスターを照射しろと」
「なるほど、ナインがあのとき妙に黙っておったのは、角度計算を行っておったのじゃな?」
シェンにそう言われ、ナインが得意げに胸を張る。
ドヤッという表情で誇らしく立つ彼女の姿は、初めて見るものだった。
「私とて、ナナ姉の恋の顛末を見ずに地球が滅亡するのは忍びなかったのでな」
「ナナねえ?」
「あっ」
しまったとばかりに口に手を当てるナイン。
その言葉の意味がわかったからか、レーナがニヤニヤ顔をしながらナインを肘でちょちょいと突く。
「ねえ、それって私を呼んだのよね? やっとお姉ちゃんって認めてくれたんだ! もう一回言って、ナナ姉って!」
「こ、断る! せいぜい一週間後に恋愛の決着とやらが付いてから、貴様がメソメソ鳴いてたりしたら慰めのために呼ぶかもしれんがな!」
「もー、意地悪!!」
微笑ましい喧嘩を繰り広げる姉妹をよそに、進次郎が一団の前に出てキーザへと頭を下げた。
「今回の戦いにおける火力支援、本当にありがとうございました。この戦いで救われた地球の人々を代表して、お礼を述べます」
「ふむ、君がレーナの想い人であるという岸辺進次郎少年か。君も、ご苦労だったと聞くぞ」
「……一週間後、僕はレーナちゃんとサツキちゃんをつれて火星を訪れるつもりです。積もる話は、その時にでもしましょう」
「ふふ、そうだな。関わりは薄いが、間接的に血の繋がった娘の思い出話……興味がないわけではないからな」
「おいおい、育ての親のオレを放置してエンディングかな? 連れないねえ」
「あ、パパ!!」
割り込むようにして艦橋に入ってきたのは、この戦いの中一度も姿を見せなかったナニガン・ガエテルネン。
腰を労るようによろめきながらモニターの前に歩いた彼に、レーナが支えるように手を添える。
「よう、キーザ。子どもたちは元気にしているか?」
「ええ、もちろんですよ元親衛隊長どの。元気すぎて大変なくらいで」
「オレも腰がぶっ壊れてなかったら、ちょっとは戦いに貢献したかったんだけど……歳を取るのは意外と辛いねえ」
「もう、パパ無理をしちゃだめよ。これ以上腰痛が酷くなったら、歩けなるなるかもって船医さん言ってたわよ?」
「男には無理して出なきゃならん時もあるんだよね、どっこらしょっと……」
レーナの手を借りながら、副艦長席に腰掛けるナニガン。
「それにしても、地球を焼こうとしてたコロニー・ブラスターで地球を救うとは、感慨深い結果だねえ」
「ナインのお陰ですよ。よっぽどあなたの教育が良かったんでしょう」
「いや。お前さんのほうが、ナインとの付き合いは長いだろう?」
「ハハハハ」
「ワッハハハ」
しばしの、大人同士での笑い合い。
その後はキーザのもとにいるレーナとナインの妹たちが何か問題を起こしたとかで、通信は唐突に打ち切られた。
話が終わり、ナニガンはゆっくりと進次郎の方へと顔を向ける。
「オレはね、若いものの色恋沙汰に口を出す趣味はないけれど、娘の話となったら事情が別なんだよね」
「はい」
「君はさっき、娘とあの嬢ちゃんを一緒に連れて挨拶に行ってたと言っていたが……どういうことなんだい?」
「僕に考えがあるんです。みんなが幸せになる方法が」
「……その言葉、親として信じて良いんだな?」
「ええ。もちろん」
「そう、か」
どこか、寂しそうな顔で天井を見上げるナニガン。
娘の将来を案じてのことか、それとも別のことを考えているのか。
定かではないが、ただひとつ言えるのは幸せそうであったということだ。
「艦長! マリーヴェル大元帥より通信が入っています!」
「わかりました。繋いでください」
通信士の報告を聞き、コンソールを操作する深雪。
先程までキーザが映っていたモニターに、大元帥の顔が映し出される。
「少年少女諸君、この度のエイユウ作戦での健闘、まことに感謝する」
どこか誇らしげなマリーヴェルの表情。
彼女の礼の言葉に対し、深雪が冷静に返答をする。
「彼らに代わって、こちらからもお礼を述べます。大元帥閣下、そちらの被害は大丈夫ですか?」
「ボロボロにされた連中もいるが、幸いにも戦死者はゼロだ」
「それは良かったですね」
「改めて今度、Ν-ネメシスには挨拶に伺おうと思っている。こちらも片付けをせねばならぬからな。だからこそ────」
「だ、大元帥閣下!!」
戦いの最中に何度か聞いた、マリーヴェル大元帥を呼ぶ通信士の声。
彼が慌てて呼び出す時は、必ず良くないことが起こる時。
「なんだ、通信中に。後にしてくれないか?」
「緊急事態です! メタモスのものとは違うワープ反応! 同時に、オープンチャンネルにて謎の通信が一帯に流されています!!」
「謎の通し────」
大元帥との通信が突然途切れ、彼女の顔の代わりに「SOUND ONLY」という文字が画面上に浮かぶ。
そして通信越しに響き渡る老人の声。
「フハハハハハッ!! 地球人諸君、誠によい戦いぶりであった!! あの原子級粒子生命体をもってしても滅ばぬとは誤算だった」
「あなたは、何者ですか?」
冷静に、深雪が通信へと質問をぶつける。
顔も見えず、聞いたことのない声だけの存在である老人。
しかし、裕太にはこの時点でこの人物が何者なのか、察しが付いていた。
「艦長、ワープ・アウト反応を確認! ジェイカイザーの転移現象に酷似しています!」
「モニターに出してください」
深雪の命令を受けた通信士がコンソールを操作すると、モニターに宇宙空間の一角が映し出された。
そこに映っていたのは、かつてのブラックジェイカイザーとは異なる意匠の、邪悪な装飾が施された黒いジェイカイザーのような機体。
「舐められたものですね。メタモスとの戦いの傷は癒えていませんが、コロニー・アーミィが随伴しているこの状況に1機だけとは……」
「ワープ反応、なおも増大中! 数は、推定数百!!」
「なんですって?」
次々と宇宙空間に出現する、黒く邪悪なジェイカイザー。
裕太はいても立ってもいられず、ジェイカイザーが待つ甲板へ向けて環境を飛び出した。
「さあ地球人よ、宴を始めよう! ワ・ハ・ハ・ハ・ハ・ハ!!!」
老人の笑い声がスピーカーから響き渡る廊下を、裕太は一目散に駆け抜けた。
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登場マシン紹介No.48
【スレイヴ・クィーン032号】
全高:1.52メートル
重量:秘密
水金族の少女、サツキがマザーから受け継いだ女王権限を用いてメタモスを取り込み、戦闘形態へと変身した姿。
一見すると人間大の少女の姿だけであるが、その周辺に常に視認不能なほどの大きさをした微粒子レベルのメタモスが浮遊している。
攻撃の際にはこれを取り込み、変容させることで無から武器を生み出したかのような現象を発生させている。
外見は白と水色を基調としたスペースルック(旧世紀のSF作品に登場する宇宙服のようなコスチューム)となっており、首に巻いてある真っ赤なスカーフがアクセント。
人間体時のチャームポイントであった三編みのおさげは、この形態の時は根本で束ねただけで編み込んでいないまっすぐなおさげとなっている。
メタモスとしての特徴を活用し、変幻自在な攻撃を繰り出すことができる。
また、華奢な外見からは想像できないほど耐久性や馬力も向上しており、巨大戦艦級メタモスに噛みつかれ10万トンほどの圧力をかけられても、両手両足の踏ん張りだけで長時間耐えることができた。
劇中で用いられた攻撃方法は、スカーフの余った布部分を硬質化し、刃として振るい対象を切断する「スカーフ・カッター」。
メタモス粒子が持つエネルギーを、破片状の飛翔体を介して全方位の敵へと直接流し込み爆発させる「全方位・スティンガー」。
銀河のような渦巻状の鋭いカッター・プレートを両手から放ち、広範囲の敵を薙ぎ払う「ダブル・ギャラクシー・ブーメラン」。
硬質化した指先を相手に突き刺し、直接ビーム・エネルギーを打ち込む「フィンガー・ビーム・ブラスター」。
両手を合わせ、10本の指から放たれるビームを収束させて貫き、敵を切り裂く「ハイパー・ビーム・スラッシュ」の5つの攻撃でメタモス艦隊を薙ぎ払った。
【ガイアディア】
全高:約13,000,000メートル(約1万3千キロメートル)
重量:計測不能
地球をグアーゼ・メギマから守るために、サツキが説得したメタモスたちと合体した決戦形態。
あえて正式名称をつけるならば、「地球絶対防衛用 水金族融合超惑星級 人型決戦兵器 ガイアディア」。
名称の由来は「地球の守護者」を縮めたもの。
地球を超えるほどの巨体であることを除けば、外見はスレイヴ・クィーン032号を大人体型にし、よりメカメカしくさせたような風貌となっている。
その姿は、かつて進次郎と共にサツキが見たSFアニメ作品のヒロインからイメージを拝借している。
スレイヴ・クィーン032号と同様に、メタモスの特性を使い多種多様な攻撃を可能とするが、巨大であるがゆえにエネルギー伝送の関係で武器に変容可能な部位が腕部、および脚部の先端に集中してしまっている。
そのため、激しい攻撃を防御するなどして腕部が立て続けにダメージを受けると、攻撃方法が大きく制限されてしまう弱点を持つ。
劇中で用いられた攻撃方法は、前に突き出した両腕を巨大なビーム砲身へと変容させビームを発射する「ハイパー・ビーム」。
鋭利な形状に変容させた足先や腕で対象を切り裂く「スティンガー・アタック」。
両腕から超巨大ミサイルを連続発射する「ハイパー・ミサイル・マイト」。
推進機による加速と地球の重力を合わせた超加速で、ドリル状の脚で対象を貫く「ハイパー・スピニング・キック」。
ドリル状の手先を敵に突き刺し、内側へとハイパー・ビームを直接注ぎ込む「ファイナル・ハイパー・ビーム」の5種類の攻撃でグアーゼ・メギマ相手に戦った。
防御兵装として時空間操作とクロノス・フィールドの原理を応用した「インフィニティ・フィールド」を持つが、構造上近接攻撃を防げないという欠点を持つ。
地球の直ぐ側で戦っているにも関わらず、地球の重力や気候、公転軌道や地表などに影響が出ていないのは、この防御兵装を応用し、リアルタイムで物理法則を調整しながら戦っているからである。
【グアーゼ・メギマ】
全高:約15,000,000メートル(約1万5千キロメートル)
重量:計測不能
スレイヴ・クィーン032号の攻撃で第2メタモス艦隊が壊滅したことを受け、サツキの説得に応じなかった第2艦隊の粒子と、第3艦隊の個体が融合したメタモスの切り札。
擬態元となった存在はかつてメタモスが飲み込んだ、とある惑星文明が作り上げた惑星破壊兵器。
そのため本来の名称はその文明の独自言語によるものであるが、地球言語に翻訳した「グランドアース級惑星絶対滅亡銀河魔神」縮めてグアーゼ・メギマとサツキは呼称していた。
ちなみに名称内に記されているグランドアース級惑星とは、地球のような大きさと気候を持つ惑星のことである。
8面体や立方体などの、シンプルな形状の立体を組み合わせ人型にしたような外見をしているが、立体の間に存在する空間はなにもないわけでなく、常に間を流れ続ける膨大なエネルギーがワイヤーのように各部位を繋げている構造となっている。
腕や頭部の先端から放たれる光線「惑星破壊光線」を惑星が受けると、惑星中心の内核を膨張させることによって空気を入れすぎた風船のように惑星が膨らみ、やがて爆散してしまう。
この光線の技術のみが旧ヘルヴァニア銀河帝国に流れ着いており、ヘルヴァニアの母星グリアスを爆散させる惑星破壊兵器の元となった。
敵に威圧感を与えるという目的のために、虚空の大地を踏みしめ歩くかのような動きをすることが可能となっている。
また、この歩行時の動きは非常にゆったりとしたものであるが、格闘戦を行う時は非常に機敏に動くことが可能であり、光速を超えることはないものの巨体に見合わない速度で動くことができる。
壮絶な巨体故に、地球人類の兵器ではダメージを与えられないが、同じく惑星を破壊するほどの威力を持つコロニー・ブラスターのビームではダメージが通った。
【次回予告】
男には生命を燃やす時がある。
アニメの中の熱血青年が言っていた台詞を思い出すのは
今が私の生命を燃やすときだからであろう。
自らの生まれと、それによる因縁を果たすために。
次回、ロボもの世界の人々 最終話「大地に還る」
────裕太。楽しい思い出を、ありがとう!




