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第48話「光を動かすもの」【Gパート 黄金戦役】

 【7】


「さ、サツキちゃぁぁぁぁん!!」


 ハイパージェイカイザーのコックピットから飛び出した進次郎は、Ν(ニュー)-ネメシスの甲板で、遥か彼方で崩れ落ちる〈ガイアディア〉へと叫んだ。

 いつの間にか機体ごと帰投し、進次郎の元へと駆けつけた裕太が、進次郎の肩を掴む。


「見ろ! メタモスが集まっていく……!!」


 裕太が指差した先へと、進次郎は視線を向ける。

 その先には宇宙に浮かび、徐々に大きくなっていく黄金の球体。

 ゆっくりとその質量を増していくメタモスの塊は、やがて巨大化をやめて形を変容させていく。


「また、あの巨人になるのぉ!?」

「いや……何や様子がおかしいで!?」

「あれは……!?」


 球体から変化するメタモスであったが、その丸みを帯びたフォルムは変わらず、耳のような突起が上部に生まれていた。

 前方下部からは、ヒレのようにも見える平べったい形状の手のような器官。

 少しだけ伸びた後方には、先端に魚の尾びれのような二股の部分が出来上がる。

 そして笑顔のような細い目と、猫のような口を形成したそれは、やがて見覚えのある姿を完成させた。


「……なんで、なんでネコドルフィンなんだ!?」


 宇宙に浮かぶ、黄金に輝く巨大なネコドルフィン。

 争いとは無縁な、穏やかな愛玩動物の姿からは、何一つとして驚異を感じることはない。


 呑気の塊のような物体の中からひとつ、煌めく小さな光が飛び立った。

 宇宙空間を駆けるように飛び回ったその光は、やがてΝ(ニュー)-ネメシスの方へと近づいていく。

 その姿が近づくにつれ、進次郎は大粒の涙を流しながら目を見開いた。


「サツキちゃん!!」

「進次郎さーーーーーーんっ!!」


 飛び込んできたサツキを抱きしめ、受け止める進次郎。

 宇宙服のヘルメット越しに、見慣れた微笑みを浮かべるサツキの顔へと笑顔を返す。


「本当に……本当に無事で良かった……!」

「はい……はいっ! 私、サツキは五体満足、順風満帆です!!」

「メタモスとの戦い……終わったんだよな!」

「もちろんです! あのネコドルフィンは、彼らなりの平和の表現なんです!」

「でも、なんでネコドルフィンなんだろう……?」

「銀河中に生息しているネコドルフィンの存在は、メタモスたちも知っていたんですって!」

「そ、そうなのか……。まあ、いいや」


 ネコドルフィンのことはさておきと、進次郎はまっすぐにサツキの目を見つめる。


「君に、伝えたい言葉があるんだ。今からすぐ、一緒に地球に帰って……」

「それは、できないんです」

「えっ……」


 悲しそうな顔で進次郎から離れるサツキ。

 宇宙に浮かぶネコドルフィンを見上げながら、震える声を背中越しに発する。


「今も銀河のどこかで、さっきまでの彼らのように惑星を襲っているメタモスがいるんです。だから私は……彼らとともに、新しい生き方をメタモスたちに教えてあげなければならないんです」

「そんな……サツキちゃん!」

「でも、安心してください! 私はちゃんと、進次郎さんの元へと必ず帰ってきますから!!」

「サツキちゃん……」

「だから、待っていてください。私は、あなたから愛の言葉を聞くために……地球へと戻ってくるその日まで!」

「ああ、もちろんだ! 僕は待つよ、君が帰ってくるまで、いつまでも……!!」


 進次郎の言葉を聞いたサツキが、振り返り笑顔を向ける。

 その目尻から、大粒のナミダを宇宙へとこぼしながら。


「さようなら、進次郎さん。さようなら、皆さん! また……150時間後に!!」


 Ν(ニュー)-ネメシスの甲板から飛び立ち、小さな光となって巨大ネコドルフィンの元へと飛んでいくサツキ。

 そのまま、地球に背を向けるようにして離れていくネコドルフィンが見えなくなるまで……進次郎はずっと彼女の向かう先を見つめ続けていた。


「……ん? 待てよ……」


 別れの感動が過ぎ去った当たりで、進次郎は冷静になった。

 一日は24時間である。

 そして、24に7をかけると、168。

 つまり、サツキが言っていた150時間とは、一週間に満たない期間でしかなかった。


「あ、意外と早く終わるんだね……説得。ハハハ……あはははははっ!!」


 その場に膝をつき、進次郎は大いに笑った。

 この数日間、緊張で溜め込んでいた感情を吐き出すように。

 その笑いは笑いを呼び、進次郎の周りに集まった皆も、いつの間にか笑っていた。



 かくして、後に「黄金戦役」として歴史に残る戦いは終結した。

 子供たちが、コロニー・アーミィと協力して成し遂げた、地球を救うための戦い。

 そして、ひとりの少年と少女の愛が、人類を救った物語。


 後世に伝記として語られる、大いなる物語が幕を閉じた歴史的瞬間は、溢れんばかりの笑顔で締めくくられたのだった。

 




    ───Hパートへ続く

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