第48話「光を動かすもの」【Dパート ガイアディア】
【4】
眼前で虚空の大地を踏みしめ接近する超巨大メタモス。
マザーから受け継いだ記憶の中に微かに残る、あの巨人の容姿。
それは、水金族が、メタモスがかつて滅ぼした宇宙文明のひとつから吸収した存在。
地球言語で表すなら「グランドアース級惑星絶対滅亡銀河魔神」略して〈グアーゼ・メギマ〉という名で呼ぶにふさわしい破壊神。
その古の巨人に対抗するための策なら、一応存在する。
けれども、相手が明確に地球を攻撃しようという意思を持ち接近する中、背後の惑星を守りながら戦うことなどできるのだろうか。
いや、できるかどうかではない。やるしかないのだ。
やり遂げることができなければ、地球も、そこに住む人々も、愛する人も、全てが失われてしまう。
サツキは地球に背を向け、腕組みをし、大地に足をつけるように両足を広げた。
彼女の意思のもと、先程まで戦っていたメタモスたちが。
第一波としてサジタリウス艦隊へと襲いかかった元水金族の人々が、ゆっくりと集まってゆく。
一箇所に集結し、集まってゆく金色の粒子。
数に数えることが途方も無い偉業となるほどの原子級生物メタモスの一つひとつが、一人の少女を中心としてその形を変えてゆく。
ゆっくりと、そして確実に巨大化していく少女の体躯。
その大きさは人を超え──
キャリーフレームを超え──
家を超え──
ビルを超え──
戦艦を超え──
コロニーを超え──
月を超え─────。
そして、地球をも超えた惑星級サイズの黄金の球体。
それが縦に細長くなるようにしてから、人の形へと徐々に変容していく。
女性らしい曲線となだらかな胸部を有する胴体。
全体から見ると細く見えるが、スペースコロニーの直径をも超える太さの逞しい腕と脚。
指の一つひとつが大型戦艦をも凌駕し、月をも片手で掴み投げられそうなサイズの手。
地球に経てば大陸ひとつが丁度よい台座になるほどの大きさのブーツ上の足。
そして、月をも超える大きさの顔面に、キリッとしたサツキの逞しい顔が浮かび上がる。
後頭部より伸びる2本のおさげが風を受けて揺らめくようにしなる。
その根本たる髪のような部分は、まるで稲妻が弾けるように金色に輝き、激しく発光していた。
それは、決して現実に存在したものではない。
かつて愛する人と一緒に鑑賞した、大仰な設定のフィクションSFで描かれた、故郷の惑星を守る女性型の守護者。
その意匠と、地球を守りたいという想いから生まれた、地球絶対防衛用 水金族融合超惑星級 人型決戦兵器。
「ガ・イ・ア・ディ・アァァァァーーーーッ!!」
地球の守護者、〈ガイアディア〉とサツキは名付け、その名を咆哮した。
確保できる質量の関係で、その全長は約1万3000キロメートルと、〈グアーゼ・メギマ〉に2000キロメートルほど大きさでは負けている。
しかし、惑星を超えるサイズ同士のぶつかり合いでは、2000キロという途方も無い距離ですらも誤差に過ぎなかった。
不意に、〈グアーゼ・メギマ〉が足を止める。
それは相対するにふさわしい敵が現れたと察知したのか、あるいは地球を破壊するに足りる距離へとなったのか。
おもむろに片腕を上げたメタモスの巨人が、その腕先たる円錐の先端から、青白い光線を発射した。
光の速度には届かなくとも途轍もない速度で飛来する光の矢に対し、〈ガイアディア〉は両腕を胸の前でクロスし防御を固める。
「インフィニティィィィ・フィィィィイルドッ!!」
サツキの叫びとともに前方数百キロメートル離れた位置に形成される、超巨大バリアー・フィールド。
時空間の操作と停止を織り交ぜることによって生み出された半透明の障壁に光線が当たり、枝分かれした光がフィールドの正面を沿うように〈ガイアディア〉の脇を通り過ぎる。
それは地球に直撃こそしなかったものの、公転軌道を周回する無人の人工衛星のいくつかを飲み込み、爆炎という形で一瞬の瞬きへと昇華させた。
反撃に移ろうと〈ガイアディア〉が腕を動かそうとするが、〈グアーゼ・メギマ〉の方が上手だった。
先ほどとは狙いを変え、ギリギリ地球へと当たり、かつフィールドからそれる絶妙な位置へと光線が放たれる。
位置と距離からフィールドで受け止めることを不可能と察したサツキは、左腕を伸ばし光線を手のひらで受け止めた。
直撃した着弾点から巻き起こる大爆発。
爆炎の跡には、ちぎれ飛んだように〈ガイアディア〉の片手が消失していた。
急いで構成粒子を調整することで手を修復しようとするが、再び放たれる光弾はそれを待ってはくれなかった。
無事な方の右腕をとっさに伸ばし、地球を狙う光線を受け止める。
両手を消し飛ばされた格好になったが、連続で光線を発射したからなのか動きを止める〈グアーゼ・メギマ〉。
この隙にとばかりに、サツキは両腕を正面へと突き出し、両腕を構成する質量を合わせて一本の砲身を生み出した。
敵の中枢があるであろう胴体めがけ、エネルギーをチャージする。
光が砲身の中へと集まるように吸い込まれ、内側が激しい発光を行う。
「ハ・イ・パァァァァァ………ビィィィィムッ!!」
極大の、直径を測ることすら馬鹿らしい程のスケールのビームが〈グアーゼ・メギマ〉へと放たれた。
僅かな時間で着弾し、途方も無い大きさの爆発がその胴体から巻き起こる。
しかし……。
「!?」
爆炎を突き抜けて放たれたのは、〈グアーゼ・メギマ〉の鋭いパンチ。
音速を有に超えた速度の8面体の鋭角が、〈ガイアディア〉の砲身を切り裂いてゆく。
後方に背負う地球のために、回避することはできない。
そう思ったサツキは、自らの胸部を犠牲にしその一撃を受け止める。
左腕の質量を犠牲にして急いで修復した右手で〈グアーゼ・メギマ〉の腕を掴み、引き剥がそうとする。
しかし、その腕までもが〈グアーゼ・メギマ〉のもう片方の腕に貫かれ、胴体に縫い込まれるようにして動きを封じられた。
一歩も退けない状態で両腕を止められ、そして眼前の敵は頭部でエネルギーのチャージを開始している。
その攻撃の矛先が〈ガイアディア〉にせよ、地球にせよ、放たれた一撃が滅びの光になることは確定していた。
───Eパートへ続く




