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第48話「光を動かすもの」【Bパート サツキの戦い】

 【2】


 一定周期ごとに、サジタリウス艦隊へと砲撃を繰り返すメタモス艦隊。

 その先陣で警戒していた兵士級メタモスが、サツキの気配を察知したのか素早く振り向いて向かってきた。


 巨大なカマキリそのものの凶悪な体躯が、少女そのものの姿のサツキへと覆いかぶさるように襲いかかる。

 しかしサツキは一切慌てることもなく、堂々と正面からメタモスを迎え撃つ。


「スカーフ・カッター!!」


 首に巻いた真紅のスカーフが、腕組みをしたサツキの声とともに硬質化。

 鋭い刃と化した布が躍動し空間を一閃すると、兵士級メタモスが中央からパックリと割れ、断面を顕にする。


(──あなたたちは、こんな事をしなくても生きて行けるんです!)




 少女の思念波が宇宙を駆け、黄金塊となったメタモスの中へと浸透する。

 その巨体を構成する分子レベルの生命体が、送り込まれた意志に戸惑い、狼狽うろたえていく。

 やがて統制の取れなくなった集合体は、解散した隊列のごとく霧散。

 そしてサツキの心に賛同した粒子たちが、彼女のもとへと集結した。


 外敵の存在を認識し、一斉にこちらへと身体を向けるメタモスたち。

 サツキは先の一撃で集結した「仲間」へと願いを送る。

 滞留していた粒子の一つひとつが、彼女を包み込むように渦巻き、バリアフィールドのように半透明のオーラを形成。


全方位オール・レンジ・スティンガー!!」


 真空中へと思念、あるいは通信波長で放たれた少女の叫びに呼応し、黄金のオーラが炸裂した。

 飛翔した欠片の一つひとつが無数の鋭い針となり、光の尾を引きながら高速で空間へと飛び散っていく。

 そして周囲のメタモスたちへと刺さったその刃は、入り込んだ傷口の内側から秘めていたエネルギーを開放。

 広大な宇宙空間にメタモスが弾け飛ぶ球体の爆炎が、空間を振動させながら次々と形成されていった。


(──争い合わなくたって!)



 朽ち果てちりになるように消えていく無数のメタモス。

 その跡からキラキラと太陽の光を反射して輝く微粒子のいくつかがサツキへと集結する。

 彼女の危険性を感じ取ったメタモスの一団が、包囲網を狭めるように一斉に少女を取り囲まんと加速を始めた。


 その動きを感じ取ったサツキは、新たに集結した友たちを広げた両腕の、その手先へとそれぞれ終結させる。

 指の先で渦巻くように光の螺旋を描いていく光の粒子が、集まった仲間の数に応じてその渦をどんどん巨大化させていく。

 少女の指先に形成された粒子の集合体は、まるで渦巻く銀河を象ったような、鋭く巨大な円盤へと変貌していった。


「ダブル・ギャラクシー……!」


 より巨大に成長し、より早く回転していく指先のふたつの銀河。

 先行して攻撃を仕掛けようとした兵士級メタモスが、その奔流に巻き込まれ粒子の渦を構成する要素に加えられていく。

 そして、サツキの身長の何十倍にもその直径を膨れ上がらせた光の螺旋が、彼女の手を離れ空間に放たれた。


「……ブゥゥゥメランッッ!!」


 少女の手から離れた一対いっついの円盤。

 その一つひとつが暴れまわるように暗黒の宇宙を駆け巡り、その進路上に存在したメタモスを次々と巻き込み、飲み込んでいく。

 ひとつ、またひとつと金切り声のような断末魔とともに巨体が切り裂かれ、爆散。

 

(──悲しみを産まなくたって!)




 サツキの頭上で、撃ち漏らした戦艦級メタモスの数体がひとつに融合。

 3倍ほどの大きさの怪獣となったメタモスが、サツキへと巨大すぎる顎を開き襲いかかる。


「ぐうっ……!!」


 擬態のモデルとなった生物が捕食をするための器官であろう巨大な口内。

 しかしメタモスによって少女一人を噛み潰すために変容したこの内側は、プレス機のごとく圧力をかけるための平面の壁となっていた。

 両腕で上顎を押さえつけ、両脚で迫りくる下顎を踏み支える。

 上下から圧殺せんと重みを増していく巨大メタモスの口を、細い四肢を震わせながらサツキは歯を食いしばり耐えていた。


(──私達は!)




 サツキの指、その一つひとつがメタモスの上顎にめり込み、突き刺さる。

 それは少女の意志が、気合が、精神が、メタモスの力を上回ったことにほかならない。


「フィンガー・ビーム・ブラスタァァァッ!!!」


 硬質化した平面を貫いた指先がまばゆく光り始める。

 その輝きは地球人類の叡智、その科学によって生み出されたビームの瞬きそのものであった。

 そして、収束した光が一気に放出され、光が幾何学模様を描くようにメタモスを発光させていく。


(──宇宙に生きるひとつの生命体として!)




 芯からビームで焼き刻まれ崩壊していく上顎から、サツキは意識を脚底が食い込んだ下顎へと向ける。

 一矢報いるためなのか、サツキに向けて鋭い針状の物体が平面から突き出始める。

 自身の喉元へと向かって伸びたその凶器を、サツキは空いた手でつかみ止め、強引に捻じ曲げた。


(──生きて……!)

 



 足の裏からジェット噴射をし、下顎の底面を蹴って飛翔するサツキ。

 そのまま両手を頭上で合わせ、合わせた指先を真下の巨大メタモスへと素早く向ける。


「ハイパァァァァ・ビィィィムッ!!」


 少女の腕ほどのか細く、けれども力強く鋭い光線が収束した手先から発射された。

 その針のような光の刃は、まるで豆腐に突き刺さる爪楊枝のように、いとも簡単に硬質化したメタモスの下顎を貫いてゆく。


「スラァァァッシュ!!」


 そしてサツキが両手をそれぞれ上と下に振り分けると、連動して放たれた光線がメタモスを切り裂くように一閃。

 真っ二つに切り裂かれた巨大メタモスが、その形状を維持できずに断面から連鎖爆発を起こす。


(──生きて、いけるんですッ!!)



 地球人類へと追い打ちをかけるべく放たれたメタモスの第二波。

 その艦隊が送り込まれたその場所に今立つのは、腕組みをし空間に仁王立ちする少女一人。

 鮮やかな金色の残骸が浮かぶ中に威風堂々と佇むサツキのおさげと首のスカーフは、風のない宇宙にも関わらずゆらめき、はためいていた。





    ───Cパートへ続く

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