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第47話「天の光はすべて敵」【Aパート 宇宙へ昇る】

 【1】


「ライフリアクター、始動!」


 深雪の掛け声で、Ν(ニュー)-ネメシスの艦橋に光が灯る。


「フライホイール接続!」

「フライホイール接続!」


 動力炉が上げる唸り声と共に、動力室のクルーが通信越しに復唱をする。


「出力上昇! 80……90……100!」

「ライフリアクター回転数良好!」

「重力アンカー解除! Ν(ニュー)-ネメシス、抜錨ばつびょう!」


 反重力システムの働きによって、巨大な船体が土埃を巻き上げながら東目芽(めが)高校の校庭の大地を離れた。

 眼下で手をふる警察チームとカーティス達を見ながらぐんぐんと高度を上げ、モニターに映し出される町並みが小さくなっていく。


「艦長、前方にワープアウト反応! 戦艦級メタモスです!」

「マザーの言う通り、このタイミングで出現しましたね。裕太さん、エリィさん、お願いします」


「了解!」


 深雪の正面コンソールの映像が、Ν(ニュー)-ネメシスの主砲とその砲塔にしがみつくハイパージェイカイザーを映し出す。

 ハイパージェイカイザーから伸びた結晶が主砲にまとわりつき、緑色の強い輝きを放った。


「主砲エネルギー、出力200%!!」

「では空間わ……コホン。ディメンショナル・フォトン・バースト、発射!」


 深雪の命令と同時に、緑色の輝きをまとった光の渦が砲身より放たれる。

 通常の空間歪曲砲よりも何倍もの太さを誇るエネルギーの柱が伸びていき、戦艦級メタモスを飲み込んでゆく。

 金切り声のような鳴き声を発しながら霧散して消えていくメタモスを突っ切り、Ν(ニュー)-ネメシスは空を駆け抜けた。


 山よりも高く飛翔し、雲を突き抜け、速度を上げながら大気圏へと突入する。

 船体の外部装甲が高温になりつつも高度を上げていき、やがて窓の外の景色は宇宙になった。


 大気圏を突破して一息付いたところで、通信士がこちらへと振り向き声を張り上げる。


「艦長、前方に艦隊を捕捉! コロニー・アーミィ主力艦隊です!」

「マザーの言うことが正しければ、戦いまで少し時間があるはずです。私自ら挨拶に出向くので、スペースボートの準備をお願いします」

「了解!」


 深雪は艦長席から立ち上がり、ひとつ小さなため息を付いた。

 半年戦争のとき、アークベースに乗ってヘルヴァニアへと遥かな旅に出た父もこういう気持ちだったのだろうか。

 そんな事を考えながら小さな艦長は艦橋を後にした。



 ※ ※ ※



『見たか、裕太! 裕太たちが操縦するとディメンショナル・フォトン・バーストの出力が30%も向上したぞ!』

『正確には170から200なので17.647%ほどエネルギー効率が向上いたしました』

「そうか、そうか」


 ハイパージェイカイザーのコックピット内。

 出力の上昇が腕の差によるものなのかは考えずに、裕太はふたりの報告に適当な相槌を打った。


「エリィ、フォトンエネルギー残量は?」

「えっとぉ……残り78%ってところかしらぁ?」

「こっから数十分の充填に入ると仮定すれば……まぁ、足りなくはないか」


 裕太の懸念材料は、あと一時間もしないうちに始まるメタモスとの決戦。

 その最中にガス欠が起こるか否かの心配であった。

 フォトンリアクターによるエネルギー充填は、放置していれば勝手に行われる。

 永久機関というわけではないのだが、未知のテクノロジーによってほぼ無尽蔵に生み出されるエネルギーは、補給のヒマがない今においてはありがたい存在ではある。


「とにかく、だ。コロニー・アーミィのお偉いさんに顔見世する必要があるらしいから、さっさと動くか」

「たしか、大元帥さんだっけ?」

「ン……多分そうだったかな」


 コロニー・アーミィ。

 それは太陽系を股にかけるスペースコロニー及び宇宙空間の防衛組織。

 今となっては当たり前のように無数に浮かぶコロニーであるが、その一つひとつの規模はせいぜい日本の都道府県一つ程度である。

 この規模の集合体すべてが防衛用の軍事力を保有・維持をし続けるのは現実的ではない。

 それは例えるなら、地方自治体が各個に軍を保有するようなものであるからだ。

 そのため、コロニー指導者は防衛費用を支払うことで、コロニー・アーミィの庇護ひごを受けているのである。


 そんなコロニー・アーミィは大きく分けて地球圏、木星圏、金星圏の三ヶ所にそれぞれ大元帥と呼ばれるリーダーを置き、その三人の合議制によって成り立っている。

 ……というのが深雪から話半分で聞いたコロニー・アーミィの構造らしい。


 これから顔合わせにいくのは、その中の地球圏防衛を担う大元帥。

 要するに地球圏を守る軍隊の一番偉い人なのである。

 その現実離れした階級の人物に謁見するという状況で裕太が特に緊張していないのは、既にエリィを始めとした姫だの最高権力者だのに付き合いなれていることが大きい。


(贅沢な慣れだよな、きっと)


 そんなことを考えながら、前方で光信号を送る白い戦艦へと向け、裕太はフットペダルに力を入れた。




    ───Bパートへ続く

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