第6話「死闘! 海中決戦」【Aパート 海だ水着だ海水浴だ!】
【1】
青い海、白い砂浜。
雲一つない快晴の大空に浮かび真珠のように輝いた太陽は、たまらなく眩しい日差しで海水浴場をジリジリと焼くかのごとく照りつけていた。
古びたトタン張りの更衣所からこげ茶色の扉を開いて飛び出した裕太と進次郎は、おろしたての海パン一丁で砂浜へと踏み込んだ。
「海だーっ! 熱っ!」
「イヤッホーウ! 熱っ!」
勇んで飛び出したものの砂浜の熱に足の裏を焼かれたふたり。
苦悶の表情を浮かべながら手に持ったビーチサンダルをほぼ同時に砂の上に叩きつけ、急いでその上に乗って難を逃れた。
陽の光を受けて輝く灼熱の砂がせせら笑うようにキラキラと虹彩を放つ中、小刻みなステップで足裏の熱を放出したふたりは、永遠のように長い数秒を経てようやく熱砂の地獄から開放された。
「ふたりとも、何やってるのよぉ!」
微笑みながら呆れた様子で更衣所から出て来たエリィ。
空の色を映したかのような鮮やかな青色のビキニを身に纏い、白いバッグを片手にサンダルで砂を鳴らしながらゆったりと裕太たちのもとへと歩いていく。
左右に揺れる彼女のダイヤモンドのような輝きを見せる銀色の長髪が、あたかも写真撮影の反射板のように働きエリィのグラマラスな体躯を強調していた。
女子高生にしては豊満なエリィのバストが、太陽に照らされて輝く肌により一層目だって見えたので、思わず裕太は見惚れてしまい言葉を失った。
裕太といえど思春期の健全な男子高校生である。
目の前に魅力的な水着姿の美少女が現れれば、視線が釘付けになるのも無理のない話であった。
口を半開きにして動きが止まっている裕太の顔を、エリィがルビー色の目で心配そうに覗き込む。
「笠本くん、どうしたの?」
「い、いやその……綺麗だな、と思って」
エリィの水着姿をボーッと見つめていた裕太は、思わず本音を言ってしまい、自分の言ったことが突然気恥ずかしくなって無意識に視線をエリィから逸らした。
一方エリィも不意に裕太から褒められたのがたまらなく嬉しかったのか、あるいは照れくさくなったのか頬を赤らめながらその場で小刻みに飛び跳ねて喜びを全身で表現する。
「ええい公衆の門前でイチャつくんじゃない。このバカップルどもめ……」
ふたりのやり取りを見ていられなくなった進次郎は、ボソリとひとり呟いて、辺りをキョロキョロと見回した。
エリィと一緒に更衣所に入っていったサツキの姿を探しているのだと裕太にはすぐに分かったが、肝心の彼女の居場所はわからなかった。
「それより銀川さん、サツキちゃんは?」
「岸辺くん、サツキちゃんならもうすぐ来るって……」
唐突に口を噤み、エリィはハッと後ろを振り返る。
背後から聞こえてくる金属同士のこすれるような不気味な音。
裕太と進次郎もまた恐る恐る振り返ると、そこにはなぜか片腕にドリルを付けた重装甲の潜水服。
錆だらけの関節を唸らせながらゆっくりとこちらに歩いてくるそれは、金属の軋むような音を立てて裕太たち目の前まで迫り、やがて頭部のヘルメットに開けられた底の見えないガラス窓の向こうからくぐもった声を出した。
「お待たせしました~」
潜水服から聞こえてくるサツキの声に、示し合わせたかのように一斉にずっこける3人。
確かに、こんな場で素っ頓狂な格好をしてくる可能性があるとすれば彼女しかいないのであるが、あまりのインパクトに彼らの思考は止まっていたのであった。
「サツキちゃん! なんて格好をしているんだ!」
「え? 海ではこういう格好をするんだと聞いたんですけれど……」
「あのねぇ、それは海は海でも海底の格好よぉ。海水浴でする格好じゃないわ」
「海水浴では……ほら、ああいった感じの格好でいいんだよ」
進次郎が浜辺を歩く水着の女性を指差すと、潜水服もといサツキが上半身を傾けるようにしてコクリと頷いた。
そしてその場でくるりと横に回転すると、あっというまにフリフリのついた白色の可愛らしい水着を着たサツキへとその姿が変化した。
『いかーーーーん!』
裕太の手に持つ携帯電話から、唐突に放たれたジェイカイザーの野太い声。
急な咆哮に驚いた裕太は手を滑らせて携帯電話を落としそうになるが、その場であわあわと手ですくうようにしてなんとか握り直した。
「突然何だよ、ジェイカイザー!」
『こういった場合サツキ殿のような少女が着るのはスクール水着だと相場が決まっているのではないのか!』
声を荒げるジェイカイザーに、エリィがやれやれといったふうに口を開く。
「あのねぇジェイカイザー。あなた、ギャルゲーの遊びすぎよぉ。こういった場で女の子にとって水着っていうのは精一杯のオシャレの対象なの。そこで野暮ったいスクール水着なんて普通は着ないわよぉ」
『そんな馬鹿なぁぁぁぁ!』
エリィに論破され慟哭するジェイカイザーをよそに、砂浜の空いてるところを見つけた裕太と進次郎は、その場所にレジャーシートを広げ、パラソルを組み立ててその横に突き刺した。
そしてシートの上に各々のカバンや着替え、携帯電話などの私物を置いて身軽になる。
「サツキちゃん。僕がひ、日焼け止めを塗ってあげようか?」
彼なりに勇気を振り絞って言ったのだろう。
進次郎が日焼け止めのボトルを差し出しながら、サツキに若干噛みつつもそう提案したが、無情にもサツキの首は横に振られた。
「私の肌は既に耐紫外線コーティング加工をしているので必要ありません!」
「お、男のロマンが……」
サツキに笑顔で断られ、がっくりと項垂れる進次郎を尻目に、エリィが水着の肩紐をひとつ解きながら艶めかしい目線を送りながら裕太に近づいた。
「えへへ。笠本くん、あたしに日焼け止めを塗って……」
「エリィさん、私が塗ってあげますね!」
「え? ぎゃぁぁぁ!」
腕の先を放水ホースのように変形させたサツキに日焼け止めと思しき霧状の液体を勢い良く噴射され、たまらず絶叫するエリィ。
水のダマひとつなくエリィの肌の表面が日焼け止めでコーティングされ、太陽の光を受けてキラリと輝く。
「これで日焼け止めはバッチリです!」
「お、女のロマンがぁ……」
進次郎と同様にガックリ肩を落とすエリィを、裕太は乾いた笑いで誤魔化すことしかできなかった。
───Bパートへ続く




