第46話「星を発つ者」【Gパート 勇気の戦い】
【5】
「くっ……あれもメタモスっていう化け物だってのかよ!」
照瀬は〈ハクローベル〉のコックピットの中で、発射トリガーを連打しながらぼやく。
ショックライフルを何度も打ち続けているが、相手が巨大すぎるからかそもそも効いていないのか、攻撃になっているとは思えなかった。
「全然効いている気配が無いであります!」
「だとしても、今オレ達にできるのはこれくらいだ! 自衛隊が来るまでの時間稼ぎくらいはしねぇと……!」
照瀬がそう言うやいなや、怪物の巨大な目玉がはっきりとこちらへと向いた。
と同時に巨大メタモスの底部のイボというイボが光りだし、無数の光線が放たれた。
「なにいっ!」
「うわーっ! であります!」
間一髪でその光線を回避するも、着弾した道路が赤熱し融解する。
ビームほどではないが、それに匹敵する熱量エネルギー。
防護システムのない〈ハクローベル〉で喰らえばひとたまりもない。
「気をつけろ富永! こいつを食らっただお陀仏だぜ!」
「と言うでありますが、もういっかい来るようであります!!」
「んだとぉっ!?」
再び上空から降り注ぐ光の雨。
回避が間に合わずもうだめだと思ったところで、大きな影が照瀬の機体を庇うように割り込んだ。
緑色に輝くバリアーのようなもので光線を受け止めた巨体は、まさに照瀬たちにとっては救世主のような存在だった。
「ジェイカイザー……! ってことは笠本の坊主か!」
「いえ、僕です!」
「……進次郎くんでありますね!? どうして笠本くんではないでありますか?」
「いろいろと事情がありまして……とにかく、お手伝いします!」
※ ※ ※
「かっこよく参戦できたまではいいけど……ここからどうしようか」
『敵巨大メタモスより高熱源反応』
「進次郎さま! また光線が飛んできますよ!」
「ええと、こういう時はこれだ!」
進次郎はコンソールを操作し、ハイパージェイカイザーの拳へとフォトンエネルギーを集中させた。
緑色のエネルギーの奔流が手先へと集まり、光が渦巻いていく。
「えーと……ロケットパンチ!」
『フォトンナックルだぞ!!』
「いいじゃないか技名くらい! ええい、喰らえっ!」
進次郎が力いっぱい操縦レバーを押し込むと、ハイパージェイカイザーが拳を振りかぶり、真っ直ぐに上空へと突き上げる。
その勢いのまま放たれたフォトンエネルギーの拳がメタモスへと接近、巨大な底部に爆発を起こした。
衝撃でメタモスの巨体が少し傾き、光線の発射が中断されたのか輝きが消えた。
「やったぁ! さすが進次郎さま!」
「攻撃は止められたけど……見て」
「ああっ!?」
フォトンナックルが直撃した部分、メタモスの破損した底部に金色の液体のようなものが集まっていた。
そして僅かな時間で傷がふさがり、綺麗サッパリと攻撃を受ける前へと戻る。
ひときわ大きくメタモスが咆哮し、今度は全身を回頭させ、進次郎たちの方へと巨体の先端を向けた。
ゆっくりと少しずつメタモスの先端が展開し、その奥が光り輝く始める。
『先ほどとは比較にならないエネルギー反応です』
『Ν-ネメシスを撃ち抜いたビームを放つつもりだ!』
「ということは、対艦ビーム級よね。ハイパージェイカイザーで防ぎきれる?」
「……無理なんじゃないかなぁ」
『進次郎どのが弱気になってどうする! 無理でもやらねばならんのだ!』
「……そうよ! エネルギー同士をぶつけ合えば!」
「ええと……剣を肩にぶっ刺すランチャーだ!」
『ダブルフォトンランチャーだッ!!』
コンソールを素早く操作し、2本のジェイブレードを空中へと放つ。
同時にウェポンブースターが起動し、ハイパージェイカイザーの全身をフォトン結晶が包み込み、鎧のように形状を変化させる。
二本のジェイブレードが宙に浮き、ガイドワイヤーを伸ばす肩部へと、吸い込まれるように移動した。
「ダブル……なんとかランチャー、発射!!」
『ダブルフォトンランチャーだと言っているッ!!』
ジェイカイザーのツッコミと同時に放たれる、エメラルドグリーンに輝く2本のエネルギー波。
その光の帯は迎え撃つように放たれた巨大メタモスの大口径ビームと衝突。
メタモスの眼前で大爆発を起こした。
「やったか!?」
『それはやっていないフラグだっ!』
『縁起でもありませんね』
「見て、メタモスが!」
上空に浮かんだまま、展開した先端部分が爆発によって大きく変形した巨大メタモス。
その歪みをただそうとしているのか、傷ついた部分が一度金色の液体状に融解していく。
「ほら言わんこっちゃない! ……ああっ!」
その瞬間、白い光の嵐がメタモスの先端をかすめるように飛来し、その歪んだ先端部分をえぐり取るように消滅させた。
同時に入る、Ν-ネメシスからの通信。
「おふたりとも。ネメシス復帰までの時間稼ぎ、ご苦労さまでした」
「遠坂深雪ちゃん! もう大丈夫なのかい?」
「先の攻撃による衝撃で起こった、エネルギーの送電線の破損は応急処置でなんとかできました。けれども、あの大型の敵……マザーいわく、戦艦級メタモスを倒すには出力が若干不足しています」
「エネルギー不足……だったら!」
空中で再生しようとしている戦艦級メタモスをよそに、進次郎はペダルを踏み込みハイパージェイカイザーを飛翔させた。
その動きを追うように、メタモスの先端がハイパージェイカイザーを捉え回頭する。
「進次郎さま、何を?」
「エネルギーが足りないんだったら、ネオ・ヘルヴァニアの宇宙要塞を支えたときのように……!」
操縦レバーを巧みに操り、Ν-ネメシスの空間歪曲砲近くの甲板へとハイパージェイカイザーを着地させた。
そしてウェポンブースターを再び起動し、両腕を取り巻くフォトン結晶をそのまま砲塔へと伸ばしまとわりつかせる。
コンソールを操作し、残り少ないジェイカイザーのエネルギーを、全て空間歪曲砲へと送信した。
「深雪ちゃん! これならどうだ!!」
「……バッチリです。素の出力の170%を記録しています」
「やっちゃえ、Ν-ネメシス!!」
「では皆さん、対ショックおよび対閃光防御をお忘れなく。空間歪曲砲……」
『せっかく私が強化しているのだ! そのままの武器名では芸がないだろう!』
「それもそうですね。ではディメンショナル・フォトン・バースト、発射します」
『ナイスネーミングだ!! うおおおっ!! いっけぇぇぇっ!!』
「……一人で盛り上がってら」
ジェイカイザーの唸り声と同時に、緑色の輝きをまとった光の渦が砲身より放たれた。
通常の空間歪曲砲よりも何倍もの太さを誇るエネルギーの柱が伸びていき、戦艦級メタモスを飲み込んでゆく。
金切り声のような鳴き声を発しながら、粉になるように消えていくメタモス。
エネルギーの放出が止まり、ガス欠となったジェイカイザーが甲板に膝をついた頃には、空は静かになっていた。
「ふぅ、助かった……」
「助かったんじゃない、助けたのよ! 進次郎さまが、その手で!」
「……そうだな。僕がやり遂げたんだ。……うおぉぉぉぉっ!!」
コックピットの中で、進次郎は両手を高く上げながら叫んだ。
それは、愛する者を救う戦いへ赴く覚悟を固めた、男の咆哮だった。
───Hパートへ続く




