第46話「星を発つ者」【Fパート 覚悟の出撃】
『うおおお! 良いことを言ったぞレーナちゃん! 君にもまさしく勇者のソウルが燃え上がっている!!』
「うわっ、びっくりした! ジェイカイザー……君、ここで整備を受けていたのかい」
Ν-ネメシスの隣で、かがんだ格好のまま海賊団の整備員たちに弄り回されているハイパージェイカイザー。
その格好のまま、巨体の中からスピーカー越しに声が溢れ出る。
『合体を解き忘れたので野外で整備を受けざるを得なかったのだ!』
『一大事でしたから、ご主人さまも慌てていたようです』
「そうか……ジェイカイザー。君は、僕にサツキちゃんを救うことができると思うかい?」
『もちろんだ! 進次郎どのもまた、勇者の一人であるからな!』
「僕が……勇者?」
言い切ったジェイカイザーへと、思わず問い返す。
『進次郎どのは、いつも我々の危機に対して勇ましい活躍をしていたではないか!』
『修学旅行で水金族と戦った時、あなたは危険も顧みずに戦場に降り立ちました』
「そういや、そんなこともあったっけ……」
『央牙島への道中、拳銃で敵要塞を怯ませたこともありました』
『そして何より……ジュンナちゃんにメイド技能を与えてくれた!』
『それは関係ないですし、教えてくれたのは岡野さんです』
『ワハハハハ! とにかくだ、進次郎どのはかけがえのない我々の仲間だ!』
「ジェイカイザー……」
底抜けに明るい、親友の相棒にベタ褒めされ、進次郎の心が少し暖かくなった。
今にして思えば誰かに才能の裏付けをしてほしかったのかもしれない。
決して無力ではない自分を、そうだと言ってほしかったのかもしれない。
少しずつ、心の奥底で淀む不安が、徐々に薄れていくのを感じる。
その時だった。
一瞬の空の光、響き渡る爆音。
Ν-ネメシスから爆炎が登り、その船体が周囲の大地とともに大きく振動する。
「進次郎さま、Ν-ネメシスが!?」
「一体何が……!?」
黒煙が立ち上る艦の脇を走り抜け、進次郎は空を見上げた。
「あれは……!!」
「メタモス!? でも、さっき倒したのよりずっと大きいわよ!?」
遠くの空中に浮かぶ巨大な物体。
一見すると戦艦にも見えるシルエットのそれは、遠目でもはっきりと分かる側面の眼球をギョロリと動かしながら、前進を包み込む外殻を震わせて鳴いていた。
数秒後、地上から光弾──ショックライフルのものと思われる攻撃が巨大メタモスへと放たれ、細かい光が底部で点滅を繰り返す。
「警察の人たちが攻撃しているのか……?」
「わたし達も手伝わないと! でも……」
振り返り、煙が昇るΝ-ネメシスを見上げる。
窓越しに見える内部の奥は真っ黒になっており、照明が落ちていることが察せられる。
「停電しているの?」
「さっきの攻撃でどこかやられたのか? ん、電話……?」
不意に震え始めた自分の携帯電話を手に取り、画面に映る通話ボタンを指で押す。
「進次郎、無事か! お前今どこにいるんだ!?」
「裕太か。ネメシスの外だが……巨大なメタモスがΝ-ネメシスを攻撃したみたいだ」
「それでか……停電で扉が閉まって出られないんだ! 遠坂艦長に聞いたが、格納庫も開かないし、復旧には数分かかるらしい! 頼む、それまでジェイカイザーでΝ-ネメシスを守ってくれ!」
「僕が……!?」
今まで、ジェイカイザーに乗ったことはあった。
しかしそれは、移動させるだけとかサブパイロットとしてだけであり、自分が戦闘で操縦したことは一度もない。
眼前に浮遊する未知の巨大怪獣を相手に、戦えるのか?
戦って、Ν-ネメシスを守りきれるのか?
(怖い……だけど)
ギュッと、拳を握りしめた。
ここで戦わずに、サツキを救えるわけがない。
隣に立つレーナが、進次郎をまっすぐに見つめ深く頷いた。
「……わかった。僕が、戦うよ。だって僕は……」
「ああ、お前は……」
「「天才だからな!!」」
電話を切り、進次郎はジェイカイザーへ向かって走り出した。
コックピットハッチを登り、パイロットシートへと滑り込む。
後を追うようにレーナが後方のサブパイロットシートへと腰掛け、コックピットハッチが静かに閉じる。
ジェイカイザーの起動プロセスを順に進め、操縦レバーを握りしめて神経接続を果たしたところで、気がついてしまった。
「レーナちゃん。勢いに任せて乗り込んだけど、これ……レーナちゃんがメインパイロットの方がいいんじゃ……?」
「……言われてみれば、それもそうですね。だけどもう進次郎さまが神経接続しちゃいましたし……? 今から接続し直すとまた再起動しなきゃいけないから……」
『ええい! 大丈夫だ! 進次郎どのならできる!』
『珍しく正論ですね、ジェイカイザー。さあ、リアクターも温まったところで行きましょうか。時間もないですし』
「わかった。よし……岸辺進次郎、ハイパージェイカイザー、出る!!」
周辺の整備員が退避したことを確認してから、進次郎はフットペダルを力いっぱい踏み込んだ。
───Gパートへ続く




