第46話「星を発つ者」【Eパート 少年の恐れ】
「そもそもジェイカイザーの人格が兄から抽出したものだと気づいたのは、遺体を検死にかけたからなのだ。その時、頭蓋骨にマイクロ単位の穴が空いていて、人格抽出のために端子を脳に接続した跡が見つかってな」
「なるほどねぇ。それで?」
「問題はそのマイクロ単位の穴が、複数箇所に見受けられたのだ。これは、一つの脳から複数回人格を抽出したことに他ならない」
「ってことは……」
「ジェイカイザー以外にも、兄の人格を載せた存在がいるということだ。そしてその存在が、地球にメタモスを呼び寄せた存在である可能性が高い」
「なんだって……!?」
驚愕する裕太の顔をまっすぐに見据え、訓馬は説明を続けた。
「マザーを襲った人物は、“地球がヘルヴァニアという穢れから解放される”と言ったそうだ。私が知る中で、ヘルヴァニアという存在を“穢れ”と評した人物は……ただ一人、デフラグ・ストレイジだけなのだ」
「じゃ、じゃあ……」
「ジェイカイザーを作った人が、地球を滅ぼそうとしているのぉ!?」
その情報は、まさにジェイカイザーに最も知ってほしくない情報だろう。
地球を護るために生まれた自分の片割れが、地球を気機に陥れている。
その事実を知った彼が、正常でいられる保証はない。
「本人でない以上、真意はわからぬよ。メタモスという存在をコントロールできると思っているのか、あるいはヘルヴァニア人ごと地球を消すつもりなのか……。ただ一つ言えることは、地球を守ることに使命を燃やすジェイカイザーの片割れが、地球を滅ぼそうとしていると彼に知られるのは好ましくないということだ」
「そうだな……あいつ、ああ見えて意外と繊細な所あるしな。……うわっ!?」
その時、突然大きな振動が裕太達を襲った。
艦そのものが何かしらの衝撃を受けたのか、電灯が振動に呼応するように点滅し、そして光を失う。
「何事だ?」
「メタモスの攻撃か!? くそっ、扉が開かない!」
「あたし達、閉じ込められちゃったのぉ!?」
【4】
裕太たちのいた部屋が振動に見舞われる十数分前。
一人でΝ-ネメシスを飛び出した進次郎は、ひとり校庭の隅にあるベンチに腰掛け頭を抱えていた。
(どうして、僕が……)
今まで、まるで漫画やアニメの主人公のように活躍する友人・裕太を側で応援する立場だった自分。
それが今、世界に主役をやれと言われてしまったような状況となっている。
確かにサツキを助けられるのであればそうしたい。
これが今までのように黒竜王軍だとか、ネオ・ヘルヴァニアだとか、そういった実体のある勢力が相手ならば、彼がここまで恐れることもなかっただろう。
しかし、相手取らなければならないのは、現在進行系で地球全土に危機を振りまいている怪物・メタモス。
成功させなければ地球の滅亡という未来は、一人の少年が背負うにはあまりにも大きすぎるプレッシャーだった。
「進次郎さま……」
不意に頭上からかけられた声に驚き、とっさに頭を上げる。
「んぎゃっ!?」
「うがっ!?」
そして、少女の顎に頭頂部がクリーンヒットする形で互いに痛みでうずくまる羽目になった。
「あいたたた……ごめん、レーナちゃん」
「もう、痛かった~! ええと、進次郎さまが思いつめてたようだから、心配で追いかけて来ちゃいました」
そう言って、レーナは進次郎の隣へと腰掛けた。
ほのかに香る少女の香りが、進次郎の心を少しだけ安らげる。
「レーナちゃん、僕は……怖いんだ」
うつむいたまま、進次郎は独り言のように言葉を放つ。
「大丈夫ですよ! 進次郎さまはみんなで……」
「違うんだ。僕が失敗すれば地球がどうにかなってしまう。そんな状況で、サツキちゃんを取り戻すことができるか、自信がないんだ」
「進次郎さま……」
いままで、人前で弱音は吐かなかった。
常に自分は天才だと、不可能はないんだと自己を鼓舞し、強い人間として振る舞っていた。
しかし、重すぎるプレッシャーは去勢で身を固めていた等身大の少年から、自信を喪失させるのには十分すぎた。
初めて弱音を聞かせてしまった少女が、顎に指を当て「うーん」と考え込む。
「自信がないのなんて、みんな同じですよ」
「え……?」
「では進次郎さま。ひとつ聞きますが、いつもわたしが戦いに赴くときに勝てると確信していると思いますか?」
「レーナちゃんは……強いから」
「ぶっぶー、外れです。私も戦いの度に、怖いと思っていますし、絶対に勝てるという自信はありません」
「レーナちゃんでも?」
顔を上げ、隣に座る少女の方へと視線を向ける。
「宇宙海賊同士の戦いとか、宙賊との戦いとか、今までい~っぱい経験してきました。これまでは勝てているからいいけれど、負けたり宙賊の捕虜になったらどうなると思います?」
「……わからない」
「自分で言うのも何ですけどほら、わたし可愛い女の子ですから。まあ酷いことをされると思います。最悪、殺されちゃうかも」
「レーナちゃん……」
「でも、戦わなきゃいけないんです。パパや仲間を、大事なものを守るために。最悪のことを考えたら、キリが無いんです。そういう世界で、わたしは戦っているんです」
彼女は、決して進次郎の恵まれた環境を疎ましく思っているのではない。
たとえ負けたら酷い状態になっていても、戦わなければいけない時があるのだと言っているのだ。
自信を喪失している人物を鼓舞する言葉として、この発言は決して百点満点ではないだろう。
けれども、女の子にここまで言われて何も感じないほど、進次郎は女々しくはなかった。
───Fパートへ続く




