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第46話「星を発つ者」【Cパート シェンとナイン】

 【2】


姉様あねさま姉様あねさまは大丈夫なのか……?」


 医務室のベッドに横たわり、弱々しく呼吸をするマザー。

 その傍らで、彼女の手に自らの手を重ねたシェンは船医へと問いかける。


「なにしろ、身体構造自体は人間だが擬態してその姿になってるって話だからなあ。一応検査はしたが、例えるなら老衰による細胞の機能低下のような症状が全身で起こっている」

「では、このままでは姉様あねさまは死んでしまうのか!?」

「このご婦人の、何を持って死とするかってところだがな。本人に聞かねえことには、人間専門の医者としてもどうしようもねえよ」


 そう言って、医務室の奥の方へと引っ込んでしまう船医。

 シェンが強く手を握りしめマザーの無事を祈っていると、背後で扉の開く音がした。


「シェン……」

「ナイン、わらわはどうすればよいのじゃ……?」


 不安で満ちた感情を抑えきれずに、ナインの胸へと泣きつくシェン。

 困ったような表情で、ナインが優しく押し返す。


「私に聞かれても困る。自分で考えてくれ」

「それも……そうじゃな。ナインは厳しいのう」


 自らの指で涙を拭い、椅子に座り直す。

 けれども不安は拭いきれず、抱え込んだ感情をナインへと吐露する。


姉様あねさまは……結果的にとはいえ地球を危機へと陥れてしまう元凶となってしまった。わらわは、他の者達が姉様あねさまの存在を非難すると思うと、耐えきれないのじゃ」

「……まるでメタモスとの戦いには勝てると信じているような言い方だな」

「勝てねば終わりじゃろう? であれば勝てると信じ、勝った後のことを考えるのは自然ではないのか?」

「どうもお前は妙に達観しているな……」

「まあのう、おぬしよりも12年は長く生きておるからの」

「肉体年齢は同じだがな」


 ナインが立ち上がり、傍にあったウォータークーラーから紙コップへと水を注ぐ。

 そして喉を鳴らす音を2,3度ならした後、シェンの方へと振り返った。


「ではシェン、お前に問うが……お前は私のことが憎いか?」

「憎い? なぜ、わらわがナインを憎まねばならぬのじゃ?」

「私は光国グァングージャで反政府側へと付き、キャリーフレームで襲撃をかけた張本人だった。それを思い出して、私を非難するか?」

「そういえばそうじゃったのう……。けれどもこのひと月、共に過ごしてきてナインという人物を友人と思うたからの。もはや憎しみなど微塵も感じではおらぬよ」

「それと同じではないか?」

「なぬ?」

「ヘルヴァニアという存在も、かつては地球侵攻を企てた勢力だった。だが今となっては、もはや地球人と扱いはそう変わらない。地球のことわざに熱さを過ぎればというものがあるが、お前の姉君が地球のために尽力したのならば、時間がすべて解決してくれるはずだ」

「ナイン……」


 彼女の言葉は、まさにシェンが求めていた言葉そのものであった。

 そうなって欲しいと願うのと、第三者からそう言われるのとは、言葉の重みが違う。

 たとえシェンの不安を紛らわすための優しい嘘であったとしても、今のシェンには何よりもありがたい救いであった。


「わらわは果報者じゃ。ナインのような友を得ることができたからの」

「気持ちが落ち着いたところで、現状の問題への対応も考えないとな。彼女が目覚め、対抗策の一つでも教えてもらえれば良いが」

姉様あねさま……どうか目を覚ましてくれ……」


 シェンは、優しくマザーの手を握り、強く祈った。




    ───Dパートへ続く

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