第45話「終末の光」【Hパート 異界の伝説】
【8】
「ニュースを視聴中のみなさん、ご覧ください! これは現実の映像です! 世界各地に突如、金色に光る怪物が姿を表しました!」
「現場より中継です、現在ここニューヨークでは、アメリカ軍キャリーフレーム部隊による怪獣鎮圧作戦が行われている最中です! しかし怪獣はいかなる攻撃を受けても倒れることなく大通りを我が物顔で闊歩しております!」
「モスクワより中継です! 突如現れた謎の兵器群はロシア連邦軍と交戦中!」
「日本では東京に現れた重機動ロボと自衛隊による交戦が開始されました!」
「怪物の出現の直前、人や物が金色に溶けて無くなってしまう怪事件も世界各地で発生しました。アメリカ軍によって“メタモス”と名付けられた怪物と、怪事件との間に関連があるかどうかが焦点となりそうです」
ピッと、壇上の深雪がリモコンでテレビの映像を正面の大スクリーンから消した。
そして椅子に座る裕太たちの方へと顔を向き、コホンとひとつ咳払いをする。
先程の戦いあと、裕太たちは〈Ν-ネメシス〉へと乗艦した。
意識の戻らないマザーも医務室へと運ばれ、現在治療を受けている。
そして今、ブリーフィングルームにて深雪から話があると集合をかけられたところだった。
「この様に、地球中で同様の事件が多発しております。近辺でも、警察や自衛隊が怪物の対処に追われている状態です」
「なあ深雪はん、あの“メタモス”っちゅう怪物は一体何なんや? やっぱ水金族の仲間なんか?」
「それに関しては恐らく……同一の存在と見て間違いないでしょう」
深雪がリモコンを操作すると、見覚えのある図面が正面の大スクリーンに映し出された。
それは、裕太達が初めて〈Ν-ネメシス〉へと入った時、艦橋で見つけたもの。
そして、その図面に描かれている一つの存在を見て、裕太は「あっ」と声を漏らした。
「あの図面に描かれている目玉の怪物、もしかして……」
「勘付いたようですね。こちらが、レーナさんから送られてきた怪物の初期の姿です」
図面の横に写真が表示される。
写っている怪物・メタモスは、金色に輝く巨大な目玉。
図面に描かれている怪物もまた、巨大な目玉の姿をしていた。
思い返せば、あの時サツキは図面の怪物を“かわいい”と形容していたような覚えがある。
「私達は以前より、説明書の図面に描かれている怪物について調査を行っておりました。併せて、金海サツキさんが異常なまでにこの艦を怖がる理由も調べていました」
「サツキちゃんの……あれって、船酔いをしていたわけじゃないのか!?」
サツキのことが話題に登り、立ち上がりながら叫ぶ進次郎。
彼としては最愛の彼女が行方知れずとなった現状、落ち着いては居られないだろう。
隣に座るレーナが、進次郎をなだめながら座らせると、深雪が説明を再開した。
「説明書に記されていた“金食い虫”という艦の名称が引っかかっていたんです。慣用句としてみれば、費用がかかりすぎるモノを指し示すものですが、これがもしも文字通り“金を食べる虫”であったなら」
「あ……水金族」
「そうです。この艦は恐らくですが、水金族……及び、メタモスを倒すために作られた戦艦なのではないかと考えられます。サツキさんは本能的に、この艦が自身を破壊する存在として恐れていたと考えれば辻褄が合います」
「それは変じゃのう?」
腕を組んだままのシェンが、制服姿のまま発言した。
深雪がリモコンを指示棒代わりに彼女へ向け、発言の許可を出す。
「水金族というのは、姉様が生み出した存在じゃろう? 聞けばこの艦は異なる次元に存在する世界で生まれしもの。そのふたつが繋がることがあるのじゃろうか?」
「この説を今まで話せなかった理由がそこなのです。異世界という隔たりが、どうしても解決の糸口を隠してしまうのです」
「……終末の光伝説だ」
「え?」
裕太のつぶやきに、一斉に視線が集中する。
その視線の圧に怯むことなく、裕太はガイの方へと顔を向けた。
「ガイのオヤジ。タズム界で伝えられていた終末の光伝説が、今回の出来事をそっくりなぞっていたんだよな?」
「あ、ああ……そうでござる。天より輝きが落ちし時、輝きの家族は空へと昇り、やがて終末の光が降り注ぎ世界は終焉を迎える……」
「オヤジ、もしかして他にも、伝説が残っているんじゃないか?」
「う、うむ……拙者も専門家ではない故にすべてを知っているわけではないが……」
ガイが数秒黙り、考え込み始めた。
おそらく必死に思い出そうとしているのだろう。
しばらくして立ち上がり、大きな声で朗読を始めた。
────無数の虫蟲が彼方より至り、暗黒に浮かぶ住居滅せり。蟲離れ、暗黒の彼方へと飛びされり。
────光の国に現れし厄災、凶弾にて女王を討ち滅ぼし国の滅亡を招きけり。国の民、地の星へと移るも安住ならず苦しみに滅す。
────火の星より滅亡の光、放たれり。かの星より来たる人々は大地に安住の地を得たり。
「……これが、拙者が覚えている伝説でござる。何か参考に……」
「待って、今ガイさんが言ったことまとめてるから」
レーナが手帳に手際よく述べられた伝説を文章にまとめ、携帯電話のカメラで撮影した。
そしてその写真をメールで深雪に転送し、深雪が携帯電話からモニターにその文章を映し出す。
───Iパートへ続く




