第45話「終末の光」【Bパート 朝食の香り】
「……のう、レーナ。あれが地球流の夫婦の愛し方なのかの?」
「違うからね? あれはあの二人が変態バカップルなだけだからね? あれが地球のデフォだと光国に伝えたらダメだからね?」
リビングでバカップルがはしゃぐ様子を、リビングと廊下を隔てるガラス扉越しに眺めながら、シェンに言い聞かせるレーナ。
地球観光の宿代わりに、部屋が余っているからとカーティスの屋敷にナインも含めて三人で泊まることにしたのは良かった。
おかげで旅費が節約でき、予定に入れていなかったテーマパークへの来訪や、ちょっと奮発した食事が遠慮なく可能となったからだ。
ところが、このカーティスとロゼの、籍こそ入れてはいない実質夫婦が厄介だった。
日の高い内から人目をはばからずにイチャつき合うのはまだ我慢ができなくもない。
ところが夜には二人で寝室で盛り上がっている音を、壁越しに聞こえるほどに豪快に鳴らし続けるのだ。
この騒音被害については、シェンとナインに限っては個室が少し離れた部屋であることもあり、外の物音だと勘違いしてそもそも行為に気がついていないのが幸いである。
ところが隣室でかつ、彼ら二人が何をしているかを知識として理解しているレーナにとってはたまったものじゃなかった。
かといって一宿に限らない恩義に背くこともできず、レーナはいろいろなものを我慢し続け、若干寝不足になりつつあったのだった。
「ロゼさんは、まともな人だと思ってたのに……。まあ、あのふたり同士で好き勝手やってるだけだから、身を守る必要はないのがいいんだけどね……」
「何から身を守る必要があるのだ、ゼロナイン?」
寝間着姿で仁王立ちするナインが、首を傾げながら尋ねる。
どう答えようかと少し悩み、率直に返すことにする。
「あのカーティスって男からよ」
「はて? 彼は敵ではないではないか。かといって急に裏切るほどの不義理な男でもない。何を心配しているというのだ?」
「……もう良いわよ。シェン、ご飯にしましょうか」
「そうじゃのう。いい匂いを嗅ぎ、わらわは腹ぺこじゃ!」
意気揚々とガラス戸をシェンが開ける。
来訪者の登場に気がついたカーティス、ロゼ夫婦はハッとした感じに抱き合うのをやめ、ぎこちない笑顔でシェンへと朝の挨拶を交わした。
「あ、おはようございますわ。シェンさん」
「お、起きるの遅かったじゃねえかてめえら」
「おはようなのじゃ、ご両人。昨日の夜は遅くまでテレビゲェムなるもので白熱しておったのでの」
「えっと、朝ごはんですわね? スクランブルエッグはいる?」
「おお、あるのなら欲しいぞ! わらわはあれが大好物じゃ!」
食卓に座り、はしゃぐシェンの隣に、レーナも腰掛ける。
正面の席にはナインが座り、牛乳パックから牛乳をコップに注ぎ入れて喉を潤していた。
ロゼがタマゴをフライパンに割り入れ、ジュウジュウという音を鳴らす中で、レーナはカーティスを呼び寄せた。
「何だよ、レーナ嬢」
「あの二人が勘違いするから、あまりお熱い姿を見せないでくれるとありがたいんだけど」
「ったく……文句あるなら出ていけよっての。善意で泊めてやってんだから文句言うんじゃねえ」
「せめてやるなら、人目を気にしてよって言ってるのに……」
聞く気がないカーティスの態度に、深いため息をつくレーナ。
この悶々とする感情と疲労感を癒やすには、愛しの進次郎に会うしかない。
たしか今日は、ネオ・ヘルヴァニアとの戦いの際に欠席した分の補習授業のために学校に行っているはずだ。
今日という日に特に用事を用意していなかった過去の自分にグッジョブを送りつつ、レーナは運ばれてきた朝食に向けて箸を手にとった。
───Cパートへ続く




