第45話「終末の光」【Aパート 静かなる始まり】
【1】
スペースコロニー・光国を照らす疑似太陽の光が落ち、人工の夜の帳が下りる。
公務を終えたマザーは、毎晩の愉しみとしている夜景鑑賞のため、手に取った提灯が宿す蝋燭に火を灯す。
宮殿の中に広がる暗い廊下を、僅かな灯りだけで静かに進み……そして異変に気がついた。
「これは……!」
廊下に倒れる複数人の警備兵。
うめき声が聞こえるため命は奪われてないようだが、この光景は紛れもなく何者かの侵入を表していた。
「おやおや、女王様が護衛もつけずにひとりとは。少々、不用心ではないかな?」
背後から聞こえた聞き慣れぬ声に、マザーは咄嗟に振り向きざまに指を変形させる。
鋭い針のような形状になった指が真っ直ぐに声の主を捉え、貫いた。
……はずだった。
「さすがは水金族のマザー。巧みな擬態能力、賞賛に値しますな。だが──」
胴体を貫かれても微動だにしない黒衣の人物。
彼は何やら針の付いた小さな道具を取り出し、自身に突き刺さったマザーの指を掴み道具を押し当てた。
「うっ……!?」
自身の中から何かが吸い出されるような不快感が、マザーを襲った。
咄嗟に指を切り離したものの、全身から力が抜けるような強い疲労感に、その場に崩れ落ちる。
「あなたは……いったい……!?」
「これで良い。これで、地球は──」
マザーの問いかけを無視するがごとく、謎の人物は高笑いした。
「地球は、ヘルヴァニアという穢れから解放される……!!」
【2】
爽やかな朝の日差しが差し込む土曜日のリビング。
カーティスはコーヒーのグラスを傾けながら、程よい苦味に舌鼓を打つ。
「ふぅ……今日もお前の作った朝食は最高だったぜ」
食器を自動洗い機に入れ終えたロゼへと、クールに礼を述べた。
エプロンを外した彼女が、その言葉にニッコリと笑みを浮かべる。
「お粗末さまでした。ねえ、カーティス……」
「ン? なんだロゼ?」
「これって、何ですの?」
そういってロゼが懐から取り出したのは、一枚の女性用パンツ。
若干くすんだ白色をしたそれを、カーティスには見覚えがあった。
──そうだな、女子高生のパンツでも貰えたら考えが変わるかもしれんなあ!
──わかったわぁ。
あれは半年前。
裕太から協力を要請されたカーティスは、面倒くさがった末に諦めてもらう口実として、冗談半分に女子高生のパンツを要求した。
ところが、彼の隣にいたエリィが快く了承し、脱ぎたての下着を献上したのだ。
その結果、カーティスは否応なしに協力せざるを得なくなり、そのおかげで裕太は助かったわけであるが。
「え、えっとだな……それは無理やり押し付けられたと言うか、仕方なしにだな……」
言い訳を考えようとして、うまく言葉が出てこない。
どうやって言いくるめれば納得してもらえるか、必死に思考を巡らせながらしどろもどろしていると、ロゼがひとつため息をつく。
「もう、しょうがないですわね……」
そう言ったロゼは、頬を赤らめながら自らのスカートの中に手を入れ下着を下ろした。
そしてそのパンツを手に持ち、そのままカーティスへと差し出す。
「……脱ぎたての下着が欲しいのでしたら、わたくしのを差し上げますのに」
「ロ、ロゼ……!」
「カーティスが望むのであれば、わたくしはできることであればなんだってして差し上げますわ」
「うおおーい! なんていい嫁なんだお前はーっ!」
「やだ、カーティスったら。まだ朝ですのに……」
感極まってロゼに抱きつくカーティス。
彼女も決して嫌がることなく、恥ずかしがりながらも抱擁を返す。
そのまま二人で、アハハウフフと言い合いながらリビングでくるくると回っていた。
───Bパートへ続く




