第44話「ネオ・ヘルヴァニアの落日」【Gパート 掴み取った平和】
【7】
積もった雪が太陽の光を照り返す昼間。
厚手のコートに身を包んだ裕太は、夜空を見上げて語るカーティスの話から耳をそらしていた。
「……んでだ。俺が安風俗でひでー目にあってゲンナリして帰るとな」
「ロゼさんと同棲しながら風俗店に行ったのか、とんだクズだな」
「まあ聞けよ、そしたらロゼの奴が裸エプロンで出迎えてよ。どうも嬢たちに対抗意識を燃やしてるみたいでさ。かわいいだろ?」
「何で俺はオッサンの、品の無いのろけ話を聞かなきゃならないんだ……」
『いいじゃないか裕太! それでカーティスどの、ロゼどのとはその後……!?』
「はいストーップ、そこまでよぉ!」
スパーンと、エリィの振るった丸めた雑誌がベンチに座るカーティスの頭でいい音を出す。
叩かれたエロオヤジはというと、大げさに痛がるリアクションをしながら彼女の方へと顔を向けた。
「いってぇなあー」
「んもう、往来でなんて話をしてるのよぉ!」
『止めないでくれエリィどの! これから大人の夜の話へとシフトし……』
「それをやめてって言ってるのよぉ! これからシェン達と一緒にパーティの買い出しをするんだから、問題ごとはダメッ!」
渋々といったふうに立ち上がるカーティスに続くように、裕太も立ち上がる。
今夜は、シェンとレーナ、それからナインが地上に遊びに来るので、歓迎会を含めたパーティをする予定なのだ。
あれから……ネオ・ヘルヴァニアとの戦いから1ヶ月が経過した。
火星での戦いは関係者に配慮し、広くは語られない事になった。
実際、都市伝説や噂として語られることはあれど事件そのものは大衆に知られていない。
結果、地球を救うための死闘に勝利した裕太達も英雄ともてはやされることもなく、今もこうして取り戻した日常生活を謳歌している。
「待っておったぞ、裕太たち! さあ、わらわ達をハンカガイへと案内するがよい!」
「あれ? 進次郎さまはどこ?」
「ゼロセブン、彼ならば会場で料理作成に従事していると聞いているが」
「もー、ナインったら早くレーナって名前覚えてよ! あとお姉ちゃんって呼んで!」
「断る」
「あいかわらず、姉妹仲が良いわねぇ」
「本当だよ。一ヶ月前は敵味方だったとは思えないぜ」
「おいお前たち、無駄話しねぇでさっさと買い物済ませちまおうぜ。寒くってかなわん」
『ところでこの若人の集まりに、なぜカーティス殿が同行しているのだ?』
『彼には出資者としての役割がありますから』
「俺は財布役だってのかよ、ったく……」
ぼやくカーティスをよそに、繁華街へと向けて歩き始める裕太たち。
何気ない、けれどもかけがえのない平和を楽しみながら、脚を踏み出していった。
※ ※ ※
「バカな、こんなことが……」
座っていた椅子を弾き飛ばさんばかりの勢いで立ち上がる訓馬。
兄の残した地下研究所で、彼は自身が導き出した推論に、思わず額を抑えた。
「兄上、いや……デフラグ・ストレイジ……! あなたはこんなとんでもないことを、しようとしていたのか……!?」
思考の中で繋がる点と点。
これまでの疑問が、一つ一つ論理として結びついてゆく。
「これが真ならば、ジェイカイザーとは……!!」
この考えが誤りであることを願い、訓馬は情報の言語化をすべく、コンピューターへと向き直る。
世界がこれから迎える運命に勘付いていたのはいま、この一人の老人だけであった。
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登場マシン紹介No.44
【ハイパージェイカイザー・ドラゴニックモード】
全高:14.7メートル
重量:不明
ハイパージェイカイザーがフォトン結晶を用い、雹竜號を背部に合体させた形態。
エネルギーというカテゴリーにある存在ならば掌握し増幅することができるフォトンの特性を用いた無理やりな合体なため、設計上想定された合体ではない。
それでも問題なく動作がするのは、ハイパージェイカイザーに元々別のマシンとの合体が予定されていたためにシステムだけが合体に対応できる仕組みになっていたためである。
氷属性の魔法エネルギーが循環しているため、機体から放射されるフォトン結晶の輝きが緑色から空色へと変化している。
とはいえ、魔法エネルギーは不安定な存在であるため、雹竜號の中からエネルギーのコントロールが必要となっている。
この形態ではジェイブレードの刃に氷が形成され、切断面を凍結する追加効果が付与される。
これにより、断面から再生を行うブラッド・ノワールに致命傷を与えることができた。
また、ダブルフォトンランチャーもエネルギーの性質の変化により、魔法エネルギーの放射攻撃となるツインドラゴニックランチャーへと変化し、破壊力が増大している。
なお、合体のためには断面を固着化され胴体部だけとなった雹竜號が必要である。
そのため今後この形態が使われることは、状況的に難しいと考えられる。
【次回予告】
いつか、こうなるのではないかと、誰かが思っていたのかも知れない。
真実から目を背け、今ある幸せを当たり前だと思っていたから。
だからこそ、知りたくない現実が目の前に現れた時、彼らは己の無力を悔いた。
次回、ロボもの世界の人々第45話「終末の光」
────最終章が、幕を開ける。




