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第44話「ネオ・ヘルヴァニアの落日」【Dパート 繋がる想い】

 【4】


「力を貸そう、光の勇者」

「ネオノア、お前……!」


 徐々に落下速度が増してゆく要塞の下部に、突然現れた意外な人物に裕太は驚愕した。

 しかしエリィは彼が来ることを信じていたようで、手早く要塞を持ち上げる手順を説明する。


「……なるほど。攻撃の反動で持ち上げる、と」

「計算によれば、ここにいるみんなとあたし達で十分な力が確保できるはずなの! だから、お願い!」

「わかった。指定されたポイントへと向かおう。合図は任せたぞ」


 黒い翼が羽ばたき、言うとおりの場所へと移動する。

 彼の素直な姿を見て、感嘆の声を上げたのはフィクサだった。


「兄上が人の言うことを聞くの、初めて見たかもしれない」

「人間、修羅場をくぐれば変わるもんだ。なあ、グレイ?」

「なぜ俺に振る、笠本裕太!」

「うふふっ、そうよ。人間って変われるものなのよぉ!」

『微笑ましい会話は結構ですが、間もなく要塞の落下速度が危険域に突入します』

「っと、ネオノアの方もオッケーみたいだな。ジェイカイザー、フォトンリアクター全開!」

『おう!!』


 残りエネルギーをすべて使い果たすつもりで、フォトンエネルギーを全開にする。

 両肩にジェイブレードを接続し、ランチャーへと推移。

 同時に指示を出し、ネオノアや他キャリーフレームのパイロットたちにも攻撃の準備をさせる。


 次々とキャリーフレーム達が背を要塞の底部につけ、各々の射撃武器を火星へと向け構える。

 向こう側へと行った〈ブラッド・ノワール〉もまた、必殺技を撃つ準備を整えていた。


『ご主人さま、総員攻撃準備完了しました』

「よし、全員一斉発射!! 銃身が焼き付いても撃ち続けろォッ!」

『ツインドラゴニックランチャー、発射だァァァッ!!』


 裕太の合図と同時に、要塞の底部から無数のビームが放射された。

 ネオノアの〈ブラッド・ノワール〉も、漆黒の5連竜巻を同様に放射する。

 ネオ・ヘルヴァニアも、宇宙海賊も、皇帝も、勇者も、皆が一体となっていた。

 一体となり、要塞の中に住まう命、地上に生ける人々を救うために。


 しかし……。


『ご主人さま、降下速度は低下しつつありますが、依然として落下は続いています』

「どうしてぇ!? パワーは十分なはずよぉ!」

『裕太! 他のキャリーフレームのエネルギーが持たないようだぞっ!!』

「クソぉっ!! ダメなのかよ!」


 要塞を持ち上げる前にエネルギーが尽きる。

 それは想定内だったとはいえ、あまりにも早すぎた。

 このままでは力が足りずに要塞が落下するという事実からは逃れられない。


「何か……何か手はないか!?」


 裕太は周囲を見渡した。

 トリガーを握る手から手を離さず、冷や汗の垂れる顔を左右に揺り動かした。

 そして、要塞から少し離れた場所に浮かぶ、〈Ν(ニュー)-ネメシス〉が視界に入った。


「艦長! 〈Ν(ニュー)-ネメシス〉で要塞を支えましょう!!」

「無茶を言うな! 船体が潰れるだけだぞ!」

「だからって、何もしないんじゃネメシス海賊団の名折れですよ!!」


 通信越しに聞こえる艦橋の喧騒。

 その時、エリィが「ああっ!!」と大声を出した。


「なんだよ、いきなり耳元で叫んで!?」

「裕太、フォトンを使ってみんなにエネルギーを伝送してあげればいいのよ!」

「伝送ったって、そんなエネルギーをどこから!」

「んもうニブチン! 〈Ν(ニュー)-ネメシス〉から分けてもらうのっ!」

「……そうか!!」


 裕太は急ぎコンソールを操作し、一時的にフォトンエネルギーを腕へと回した。

 そのままフォトン結晶を細長く伸ばし、〈Ν(ニュー)-ネメシス〉へと接触させる。


「遠坂さん! ネメシスのエネルギーをフォトン結晶へと送ってくれ!」

「……突然ですね。そんな事が可能なんですか?」

「いいから俺を信じてくれ! 時間がないんだ、早く!!」

「わかりました。操舵長、艦上部を結晶の先端へ向けてください。クラスタービームの発射口から直接エネルギーを伝送します」

「了解ッ!」


 グン、という勢いで回転を始める〈Ν(ニュー)-ネメシス〉。

 そのまま上部を裕太たちへと向ける形まで向きを変え、細長いフォトン結晶の糸へと砲身をつける。

 直後、ジェイカイザーのエネルギー量がとんでもない勢いで跳ね上がりだした。


『裕太! はち切れんばかりのエネルギーが来たぞッ!!』

「よし、フォトンエネルギーは結晶の生成に回せっ!」

『フォトン結晶、展開します』


 ハイパージェイカイザーの背面から、まるで要塞の底面に沿って水が流れるように結晶が伸びていった。

 その緑色に輝く道は、要塞を支えようとするキャリーフレームの背部へと次々と繋がり、戦艦から送られたエネルギーをくまなく送信していく。

 緑色に輝く膜が、要塞の底部を覆い尽くさんといったところで、転機が訪れた。

 ビームが切れ切れになっていた各機の武器が、元気を取り戻すように勢いよくビームを再び放射し始める。

 同時に、要塞の落下速度が徐々に落ちていき、やがてマイナスへ……上昇へと転じていく。


「みんな、もう一息だ! 頑張ってくれぇぇぇ!!」

「「「「うおおおおおおおっ!!!」」」」


 無数の光の帯が、要塞を持ちあげるために伸び続けた。

 勢いで機体がひしゃげ、形状が歪もうが皆ビームを撃ち続けた。


 そして────






『要塞より伝達。自力での軌道修正可能域へと到達、これより静止軌道へ調整を開始する……とのことです』

「「「よっしゃぁぁぁぁつ!!」」」


 もしも宇宙で音が伝わるならば、歓声がこの宙域を包み込んでいただろう。

 ここにいるすべての者達で掴み取った“勝利”だった。




    ───Eパートへ続く

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