第43話「血塗られし漆黒」【Gパート 勇者VS黒竜】
【7】
「おい笠本裕太! なにがドラゴニックモードだ!! 勝手に俺たちを合体パーツにしやがって!」
「落ち着けグレイ。俺もお前もネオノアを倒すのが目的だろ。この戦い限りの……共闘だ!」
「ちっ……勝手にするが良い。くれぐれも壊すなよ!」
「わかってるって!」
搭乗者からのお墨付きをもらい、裕太はパワーアップしたハイパージェイカイザーで再び〈ブラッド・ノワール〉を見据える。
この合体システムは、デフラグ博士の地下研究所で見つけられた設計図に隠されていた機能だった。
おそらく、本来ならばハイパージェイカイザーを更に強化するサポートメカのようなものが作られる予定だったのだろう。
しかし、デフラグ博士の寿命が持たなかったのか、合体のシステムだけ残されたままとなっていた。
このフォトンを用いた無理やりな合体機構は、フォトンとは異なるエネルギーを持つ機体と組み合わせて初めて真価を発揮する。
「粋なことをしてくれるね。それでこそ……私の敵だ!!」
事ここに至っても、冷静さを失わないフィクサ。
裕太はそんな彼に向かって、声を張り上げた。
「覚悟しろ、ネオノア!」
裕太がペダルをいっぱいに踏み込むと、バーニアの代わりに〈雹竜號〉の翼がおおきく羽ばたく。
羽ばたきとともに急加速し、一気に〈ブラッド・ノワール〉へと肉薄。
同時に氷の大剣を力いっぱいに振り下ろすが、暗黒の剣がその一撃を受け止めた。
膨大な魔力同士のぶつかり合いが、刃が触れあう部分で何かしらの反応を起こし、激しくスパークをする。
『ぬおおおおっ!?』
「負けるな、ジェイカイザー!」
「大変! ジェイカイザーのエネルギーが乱れてるわよぉ!」
『剣を通して流れ込む敵の暗黒エネルギーがフォトンと反発し、拒否反応のようなものが起こっているようです』
「なんだって!?」
エネルギーの乱れとともに徐々に押し返される大剣。
このままではパワー負けしてしまう……と思った途端、急にエネルギーが安定化をし始め力が入る。
同時にコンソールに、グレイの横に座るフィクサの顔が映し出された。
「裕太くん、敵から流れ込むエネルギーはこちら側で中和する!」
「フィクサ!? お前そんな事ができるのか!」
「僕だって、伊達に黒竜王軍を率いちゃいない! グレイ、君は氷の魔法エネルギーを調節してくれ!」
「手間を掛けさせやがって。これで敗北したら貴様を一生恨んでやるからな、笠本裕太!!」
「負けるもんかよ! うおおおっ!!」
力いっぱいレバーを押し倒し、暗黒の剣を押し返す。
弾かれたように後方へ吹っ飛んだ〈ブラッド・ノワール〉は、素早く体勢を立て直しながら勢いそのままに距離を離してゆく。
そして、宇宙要塞の近くで動きを止め、剣から手を離すと同時に両肩部のユニットを展開した。
『裕太! あの動きは〈雹竜號〉がデュアルブリザードを撃つときと同じだ!』
「大技を撃ってくるつもりよぉ!」
『敵機のエネルギー反応、増大していきます』
「だったらこっちも大技で迎え撃つぞ!」
大剣から手を離させ、裕太はコンソールを操作してウェポンブースターを起動した。
ハイパージェイカイザーの全身を、フォトン結晶が包み込み、鎧のように形状を変化させる。
二本のジェイブレードが宙に浮き、ガイドワイヤーを伸ばす肩部へと、吸い込まれるように移動した。
「ダブルフォトンラ……」
『ツインドラゴニックランチャー、発射準備完了だッ!!』
「ジェイカイザーお前、ドラゴニックって言葉好きだな」
『かっこいい響きじゃないか! エネルギー充填ッ!!』
「エリィ、照準補正頼んだぞ!!」
「ええ!」
操縦レバーのトリガーに指をかけ、息を呑みながら発射のタイミングを見計らう。
発射のタイミングが早すぎればエネルギーが不足し、遅れれば相手の攻撃が発射前に届いてしまう。
同系列のエネルギーを撃ち合う都合上、同時に発射しなければ相殺することはかなわないのだ。
「喰らうがいい! クインテッド・ダークネス・キャノン!!」
「ツインドラゴニックランチャー、発射ァァッ!!」
ネオノアと裕太の声が同時に響き渡った。
黒竜から発射された5つの赤黒い竜巻と、勇者より放たれた青白く輝く2つのエネルギー波が漆黒の宇宙でぶつかり合う。
魔力同士のぶつかり合いが為せる業なのか、真空の宇宙が大きく振動するような錯覚に見舞われコックピットが激しく揺れ動く。
「「いっけぇぇぇぇ!!」」
『うおおおおっ!!』
『声を出しても、エネルギーは増幅されませんよ?』
空気を読まないジュンナの冷静なツッコミを無視し、裕太はトリガーに力を込め続けた。
短くも長く感じるようなエネルギーのぶつかり合いの果てに、巻き起こる大爆発。
辺りが一面の閃光に包まれる中、裕太は前が見えないままペダルを踏み込んだ。
「ネオノア、これで終わりだぁぁっ!!」
「ぬおおおっ!!!」
光に紛れて接近し、肩から外した剣をそのまま握り、氷の刃を振り下ろす。
爆発で怯んでいた〈ブラッド・ノワール〉は回避も叶わず、その袈裟斬りを胴体で受けてしまう。
巨大な羽と両腕を巻き込み、黒い巨体が切り裂かれた。
その断面は即座に氷に覆われ、暗黒物質がが触れることを阻害し再生を防ぐ。
「……俺達の、勝利だ!!」
戦闘能力を奪われた黒竜の前で、裕太は高らかに叫んだ。
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登場マシン紹介No.43
【ブラッド・ノワール】
全高:16.4メートル
重量:不明
黒竜王の亡骸から作られた魔術巨神。
亡骸はネオノアの息のかかった者たちによって秘密裏にアメリカ軍から運び出された。
コックピットはキャリーフレームのものが使われおり、
黒竜王が本来持っていた暗黒・闇を操る能力を持ち、宇宙においては空間を埋め尽くす暗黒物質を自在に操ることが可能。
暗黒物質は別種の魔法エネルギーやフォトンなどのエネルギーに触れると、操るための魔力が阻害され霧散する。
武装としては暗黒物質を剣の形に固めた暗黒剣。
両肩と胴体の5つの放出ユニットから魔力そのものを武器として打ち出すクインテッド・ダークネス・キャノンが存在する。
黒竜王の持つ能力の全てを引き出せているとは言い難く、未知のポテンシャルが眠っている機体である。
【次回予告】
巨星墜つとき、一方は勝利し、一方は敗者と成る。
愛する者を救うため、我が身を省みず尽くす男たち。
彼らの思いが交錯するとき、人類は一つとなるか。
次回、ロボもの世界の人々第44話「ネオ・ヘルヴァニアの落日」
────勝ち取れ、望んだ平和の時を。




