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第42話「宇宙要塞攻略戦」【Gパート 激闘・激闘・激闘】

 【7】


 宇宙空間を飛び回る無数のミサイル。

 内宮は〈エルフィス(ストライカー)〉の運動性で引き離しては反転して弾頭を狙撃することでそれをさばいていた。

 しかし背後ではレーナとナンバーズによる死闘が、前方に見える要塞内では裕太達が戦っているはずである。

 足元に火星の重力圏が見える以上、内宮は限られた空間内での攻防を強いられていた。


「こなクソっ!!」


 隙を見てキーザの重機動ロボ〈ディカ・ノン〉へとビームを放つが、巨大な機体に幾重にも施されているのであろう耐ビーム構造によりかき消されていた。

 お返しとばかりに再び放たれるミサイルの群れ。

 ビームセイバーで弾頭を切り落とし、ビーム・スラスターで撃ち落とし続けているが、キリがなかった。


「どうした、内宮千秋。先程までの威勢は?」

「うっさいわボケェ! こっちとて真剣バリバリや!!」


 ミサイルをいなし、反撃。

 効かず、放たれるミサイル。

 決定力に欠ける〈エルフィス(ストライカー)〉で、内宮は攻めあぐねいていた。



 ※ ※ ※



「ゼェ……ゼェ……」

「ゼロセブン、そろそろ限界かな?」


 コックピットの中で息を切らせながらも、レーナは操縦レバーを握る手を緩めずにいた。

 覚えている範囲で10機は〈クイントリア〉を落としたはずであるが、それでもまだ半数以上は残っている。

 被弾も重なり、辛うじてビームシールドを持つ左腕は残っているものの、右腕は手の部分が完全にバカになっていた。


「そっちこそ……1対20以上のくせに、押され気味なんじゃない?」

「貴様を倒せれば、犠牲が出ようと知ったことではない!」


 オーバーフレーム〈(デルタ)・ヘルヴァ〉から幾多ものガンドローンが放出され、レーナに襲いかかる。

 こちらも〈ブランクエルフィス〉の背部のガンドローンを放出するも、数では圧倒的に不利。

 それでも、前で頑張っている内宮たちや、背後で見守っている進次郎たちのことを思えば、泣き言は言えなかった。



 ※ ※ ※



「ご主人様、下がって」


 機関銃を内蔵した警備ロボットが角から飛び出した瞬間、ジュンナが飛びかかる。

 攻撃の前動作か、駆動音を鳴らすロボットの横っ面をガトリングの腕で横から激しく殴打。

 ふらついたボディに返す腕で往復ビンタの如く銃身で引っ叩き、バランスを崩したロボットへと轟音とともに無数の弾丸がねじ込まれる。

 蜂の巣となり動かなくなった敵を蹴り倒したジュンナが、手で裕太を招き寄せた。


「ジュンナ、お前めっちゃ強いんだな……」

「お褒めに預かり光栄です。ご主人様、この扉の先におそらくマスターが」


 廊下の一角にある白い扉の前で、ジュンナが構える。

 互いに頷き合図をし、二人で扉を開くと同時に一斉に踏み込んだ。


「裕太!!」

「エリィ!!」


 そこにいたのは、無機質な白い部屋の中で椅子に座らされたエリィの姿。

 そしてその側には、仮面をつけた男……ネオノアが立っていた。


「エリィ姫のフィアンセか、ようこそ我が要さ──」

「ご主人様、伏せてください」

「え?」


 裕太がジュンナの指示を理解する前に、彼女の腕の銃身が火を吹いた。

 話途中だったネオノアの方へと放たれた銃弾だったが、部屋の中央をまたいだ辺りで何かに弾かれ、霧散する。


「……バリアーですか」

「人の話は最後まで聞きたまえ。君たちは我々に触れることはできん」


 ガトリングを向けられたのにもかかわらず、余裕の声を出すネオノア。

 しかし、状況をみて彼がなぜ余裕を保っていられるのかが、裕太にはわからなかった。


「おい、ネオノア! エリィを解放しろ!」

「断る。言われて解放するのなら最初から誘拐などせんよ」

「ですがそのバリアーの内側に引きこもっていても、あなたに事態を好転させる方法はありませんよ」


 そう、こちらから手出しができないのなら向こうも手出しができないのだ。

 現在、兵士はジュンナが操作した防火壁で隔離しており、未だそのコントロールの再奪取は行われていない。

 時間を稼ぐことが目的なのか、そうだとしてもジュンナにハッキングを許せばバリアーも容易く解除されてしまうはずだ。

 ジュンナが周囲を見渡しているのも、操作端末を探しているのだろう。


「フッフフフ……」

「何がおかしい!」

「いや、なに。君たちは私が反撃する手段を持っていないと思っているのが愉快でたまらなくてね」

「ご主人様、警戒を。何かを隠してる可能性があります」

「あまり勿体ぶっても、せっかくの姫様が退屈してしまうだろう」


 ゆっくりと、ネオノアが何も持っていない片手を上げた。

 その行動の意味を考える間もなく、エリィが叫ぶ。


「裕太、ジュンナから離れて!!」

「えっ、何で」

「ヘルヴァニアが王、ネオノア・グーが命じる! その男を抹殺せよ!」


 ネオノアが発現するやいなや、ジュンナの目が赤く光った。

 そして突然、彼女の片腕が裕太のヘルメットを弾き飛ばし、そのまま首を掴み上げぐぐっと持ち上げる。


「がはっ……!? ジュンナ、何を……!?」


「SD-17だったか。まさかこんなところで再会できるとはな」

「裕太!! こうなったらあたしが……!」

「君が命令しても無駄だよエリィ姫。SD-17は元々、私が地球を統治するときのために送ったセキュリティドロイド。私の命令権限が最上位に設定されているのだからな」

「そんな……!? あなたは、一体……!」


 首を絞め上げられ、息が苦しくなる裕太。

 持ち上げられ浮かんだまま手足をばたつかせ苦しみに悶える中、ネオノアは仰々しく名乗った。


「我が名はネオノア・グー。ヘルヴァニア帝国摂政グロゥマ・グーの長男にして、ヘルヴァニアの王となる男だ」


 裕太としてはネオノアの正体など、今はどうでも良かった。

 ネオノアの命令を聞き、初めて会った時のように抹殺モードになっているジュンナを、どうやってもとに戻すか。

 それ以前に、徐々に締める力が強くなっている首を握る指を、どうやって緩めるかが問題だった。


「ジュ……ンナ……、やめ……ろ……!!」

「いやぁぁっ!! 裕太が死んじゃう!!」

「おとなしく投降したまえ。そうすれば、命は助かるぞ?」


 エリィが泣き叫び、ネオノアが嘲笑する。

 裕太は辛うじて拳銃を握っていた腕を持ち上げ、ジュンナへと向ける。


 向けるが、撃てなかった。


「ぐ……あ……」


 遠ざかる意識の中で、ジュンナと共に生活した思い出が蘇ってしまう。

 側で健気に尽くし続けてきた彼女に引き金を引けるほど、裕太は戦士ではなかった。

 無愛想ながらもマジメで、ジェイカイザーと夫婦喧嘩をし、コールタールを飲む姿が浮かんでしまう。


「ジュンナ、やめて! お願い!!」

「さて、降参するが先か。首が折れるのが先か? それとももう声も出せぬか?」


 バリアーを隔てた向こうで、せせら笑うネオノア。

 裕太は、ジュンナを撃てない自身の不甲斐なさに涙を流していた。


「お前……俺を守るって……言ってたじゃ……ないか……」

「……………………」

「俺が……お前に殺されたって……ジェイカイザーが知ったら……あいつ……悲しむぞ……」

「……………………」


 語りかけても、ジュンナは無表情のまま裕太を締め上げ続けていた。

 いよいよ裕太の視界がぼやけ始め、限界が近づいてくる。


「ジュ……ンナ………………!」


 裕太の流した涙が、首を絞めるジュンナの腕へとポタリと落ちる。


 その瞬間だった。


「………………ご主人様、お許しを」




  ────Hパートへ続く

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