第42話「宇宙要塞攻略戦」【Fパート 渦中へと向かう】
【6】
「……なあ内宮。あいつらの言ってることの意味、わかるか?」
「わからんくはないけど、わかりたくはないわ。あーもう、こないなときにツマラン意地張らなええのに……」
『私にはわかるぞ! 私はBLよりも百合派だが、受け攻めの逆転が許せない気持ちは痛いほどによく分かる!!』
「状況を弁えてください。上下より大量のミサイル郡来ます」
「ミサイル!?」
レーダーに映るミサイルを示す光点に目をやり、頭部バルカンで迎撃する。
その側で内宮の〈エルフィスS〉がミサイルに向かって前方に回したビーム・スラスターを連射。
爆炎の中から撃墜しそこなったミサイルが飛来するも、フォトンフィールドで防御。
無傷のまま煙の中から飛び出た裕太と内宮の前に、見覚えのある重機動ロボが立ちはだかった。
裕太にとっては、3ヶ月前に痛めつけられた苦い思い出のある敵。
「重機動ロボ……キーザとかいう奴か!」
「キーザはんやて?」
「その機体……まさか、スグルではあるまいな」
通信越しに重機動ロボから聞こえてきた男の声。
その声に真っ先に返事をしたのは内宮だった。
「キーザはん……久しぶりやなぁ」
「その声は……えーと。誰だ!?」
「内宮や内宮!! メビウスであんだけ一緒におって、忘れたとは言わせへんで!!」
ギリリと歯ぎしりをしながら、モニター越しに「早く行け」と目配せする内宮。
内宮がキーザの気を引いているうちに、裕太は通信で会話を聞きながらもこっそりとその脇を抜けて要塞へと向かっていった。
「内宮千秋、貴様がその機体に乗っているとはな」
「いろいろあってな。昔の馴染みで通したっては……くれへんよな?」
「無論だ。今の私はネオ・ヘルヴァニアの将軍だからな」
「うちとやるつもりか? 模擬戦やとうち、あんさんに負けなしやで?」
「キャリーフレームと重機動ロボの違いを加味してはいないだろう。悪いが仕留めさせていただく!」
ミサイルの発射音とビームの射撃音が通信越しにこだまする中、裕太はハイパージェイカイザーを要塞内へと潜り込ませた。
※ ※ ※
「怪我したくなかったらどけぇーっ!! 加減なんかできねえぞ!!」
キャリーフレーム用のエアロックから要塞内へと突入した裕太は、まず床部分に当てないように気をつけながらハイパージェイカイザーの頭部バルカンを乱れ撃った。
整備員や兵士たちが突然の攻撃で逃げ惑う中、搭乗者がいないキャリーフレームを次々となぎ倒す。
無傷な機体が無いように念入りに暴れまわった後、背後のサブパイロットシートに座っていたジュンナがケーブルを収納しながら立ち上がった。
「ご主人様、外で敵兵が銃撃しています。私が対処しますのでコックピットハッチを少しだけ開けてください」
「あ、ああ。いいけど……殺すなよ?」
「善処します」
片腕をガトリング状に変形させたジュンナの合図で、裕太はコンソールを操作した。
僅かに開いた隙間からジュンナが銃撃し、燃料が入っていたと思われるボンベを撃ち抜き爆発。
格納庫が炎上する中、外の兵士たちが後退していくのが見えた。
すかさずコックピットから飛び降りるジュンナ。
そのまま格納庫の壁から飛び出た端末へと体内から伸ばしたケーブルを接続し、数秒の後に裕太の方へと通信を入れる。
「要塞内地図と敵兵の居場所を示す光点の取得、及び防火シャッターの操作権限を奪取しました」
「えらくスムーズだな。もっとセキュリティとかあるんじゃないのか?」
「私は元々、旧ヘルヴァニア帝国に属する人間ですから、権限が使えました。あ、私は人間ではありませんでしたね」
「お前は立派に人間だよ、ジュンナ。よっと……」
裕太もかがませたハイパージェイカイザーから飛び降り、炎を避けつつジュンナと合流する。
パイロットスーツは高い耐熱性はあるが、燃えている火はやっぱり怖い。
「ジェイカイザー、何かあったら自力で対処を頼む!」
『了解した……が、裕太! 危険ではないのか?』
「エリィは捕まって怖い思いをしてるんだ。ここでジュンナに全部任せたら申し訳が立たないよ」
「ご安心ください、ジェイカイザー。ご主人様は私が必ず守り抜きますので」
『わかった……ジュンナちゃん、裕太を頼んだぞ!』
ジェイカイザーの言葉に片手を上げることで返答とし、ジュンナが端末を操作してすぐ隣のシャッターを開く。
「この開閉で敵兵を隔離しました。あとはマスターが囚われている部屋へと向かうだけです。ご主人様、これを」
「これって……拳銃?」
ジュンナがメイド服のポケットから差し出した物を手に取り、恐る恐る問いかける裕太。
ずっしりとした金属の重みが、パイロットスーツ越しに手へと伝わる。
「クレッセント社製自動拳銃・M102スプリガンです。Ν-ネメシスの方から借りました」
「でも、俺は拳銃なんて……」
「万が一のためです。どうかお持ちください」
「……わかったよ」
受け取った拳銃を手に持ち、同時に渡された予備弾倉をポケットにねじ込む。
裕太は恐怖と不安に押しつぶされそうになりながらも、ただエリィのためにと自身を奮い立たせ、開かれたシャッターの奥へと足を踏み入れた。
────Gパートへ続く




