第42話「宇宙要塞攻略戦」【Cパート 余裕と決意】
【3】
「ご機嫌いかがかな? エリィ姫様」
無機質な白い部屋の一角。
壁と同じ白い椅子に座らされたエリィへと、扉を開けたネオノアが声をかける。
「機嫌が良いわけないでしょう? こんな何もない部屋に一人で閉じ込められて、退屈で参っちゃうわ」
「無礼に対してはご容赦いただきたい。あなたに機械類のひとつでも渡せば、何をしでかすか分からないからな」
ネオノアが言っているのは、隠れて裕太たちへとメッセージを送ったことだろう。
伝言と共に送った情報が彼らの役に立ったかどうかは、この要塞内の慌ただしさが物語っている。
スパイのような真似をされても、ネオノア達がエリィに対して乱暴な手に出られないのはわかっていた。
しかしこうも長時間、退屈に苛まれるならもう少ししっかり証拠を残さずにやるべきだったかもとエリィは後悔していた。
「もうすぐ、裕太たちがあたしを助けに来てくれるから。そうなったら、あなたの計画はご破産よ!」
「君のフィアンセが迫っていることは重々承知している。だが、彼らがここまで来れるかな?」
「来るわよ、絶対。だって、あたしの大好きな人だもの!」
エリィの啖呵に、クックッとネオノアが笑う。
流石に今のは恥ずかしかったかなとエリィは自らの発言を恥じつつも、そう言い切った自分を誇らしく思っていた。
裕太が助けに来てくれたときのイメージを浮かべ、徐々に頬が熱くなってくる。
「裕太が助けに来てくれてぇ、再開の感動でハグしちゃったりしてぇ! そして……あーダメッ! キスはもうちょっと後のほうが良いわよね? でもここでしといたほうが雰囲気的に……」
「妄想力豊かなのは結構だが、愛の力とでも言うのかね? だが奴らは我々には勝てぬよ。勝てぬ理由があるのだ」
「まさかのツッコミ無しぃ……!?」
「自らの状況をわきまえたまえ。ふむ、そろそろ戦いが始まりそうだ。ではエリィ姫、後ほどまた」
そう言って部屋を立ち去るネオノア。
一人残されたエリィは、彼の発言の真意を読めずにただただ不安をつのらせていた。
※ ※ ※
「ナイン、ゼロナイン!」
「む……これは、キーザ将軍閣下」
格納庫でキーザが呼びかけると、ナインは振り向き敬礼をした。
パイロットスーツを着た同士、慌ただしく走り回る整備班たちの側で立ち止まる。
「私に何か御用ですか?」
「いやなに、新しい機体で出る事に不安はないかと思ってな」
「オーバーフレーム〈⊿・ヘルヴァ〉を私へと回してくれて感謝します。必ずやゼロセブンを仕留め、勝利をもたらして見せましょう」
「そうか、そうだな……」
同じナンバーズ同士で戦うこと。
それは姉妹同士で殺し合うこと以上に、ギーザにとっては自身の遺伝子を受け継いだ娘同士が戦うことにほかならない。
考えないようにと思ったが、その戦いでどちらかが犠牲になるような事態になってほしくないなと、ギーザは思っていた。
「……どうかしましたか? 奴の精神攻撃に対してなら、完璧とは行かないまでも対策は施してありますよ」
「対策だと?」
「日がな一日、ドクターに取り寄せてもらった“フムーケドージンシ”なるものを他のナンバーズとともに読み漁り、“ゲーポ・ルーノ”なる映像作品の鑑賞会を頻繁に行ってました」
「う、うむ……それは凄いな」
ゼロナインの発言に対し、コメントはしづらかったが対策に余念がないのは評価できた。
とはいえ、キャリーフレームのパイロット保護能力は完璧というわけではない。
そのことは、ロザリーを取り巻いていた出来事からも伺い知れる。
「ゼロナイン、死ぬなよ」
「無事に生還いたしますとも。キーザ将軍も、ご武運を」
月並みな言葉しかかけられないことを憂いつつも、コックピットへと向かうゼロナインの背中を見送る。
そしてキーザは自らが搭乗する重機動ロボへと視線を移し、見上げた。
「無事を祈られることなど、初めてかもしれぬな。ドクターや娘たちのためにも、生き残らねば」
ヘルメットを被りながら、キーザは自分へと言い聞かせた。
────Dパートへ続く




