第41話「火星の嵐」【Cパート 突入、火星の大地】
【4】
コックピットの中で発進シーケンスを進めながら、カーティスはロゼに渡しそびれた指輪を指で摘み上げる。
これを渡せるか、あるいは拒絶されるか。
内心、不安をいだきながら指輪をケースに仕舞う。
「カーティスの旦那ぁ、本当にこの飛行機で地上に降りれるんですかぁ!?」
「ああ!? 連中が降りれるっつってんだろ? だったら俺たちゃ信じるしかねえだろ!」
キャリーフレームの輸送支援機という未知の存在たる〈ダイザー〉への、モウブが叫ぶ不信感はわかる。
しかし、使ったことのないパラシュートや機体の保護機構に頼っている身としては、今更な話である。
「ビービー言ってる暇があったら覚悟決めろい! あのシェンとかいう小娘に遅れを取るぞ!」
「腹ぁ括ってますが、やっぱ怖えもんは怖えッスよ! なあジン!」
「ん、ああ……そうだな」
煮え切らないようなジンの声。
わざと通信機に入るように、カーティスはコンソールを殴りつけた。
ガンッという重い音がコックピットに響き、通信先が静まり返る。
「今更、降りるなんてナシだぜ?」
「わ、わかっちゃいますよ。ただ、作戦が本当に成功するか……」
「なんじゃなんじゃ、いい歳の大人が怖気づきおってからに」
これまで無言でいたシェンが、突然声を荒げる。
年端も行かぬ少女からの喝に、ジンとモウブが黙り込む。
「我らがやらねば地球の危機。勝てば万々歳じゃろうが。できるとか、できないとかではない。やるしかないんじゃよ」
「そ、そうだよな」
「ああ、頑張ろうぜ!」
「よし、行くぞテメェら!!」
覚悟を決めた4人を乗せた、それぞれの〈ダイザー〉が噴射口から炎を吹き、次々と宇宙へと飛び出していく。
そのまま高度を落とし、火星の大気圏へと突入。
予め決められた降下地点へ向けて、自動的に〈ダイザー〉が位置を調節しつつ地上へと向かっていった。
「……たしかに、こいつは怖えがよッ!」
ガタガタと揺れる〈ヘリオン〉のコックピット内で、カーティスは手を震わせた。
〈ダイザー〉から送られる情報から、機体底部が高温であることが通知される。
その温度は並のキャリーフレームであれば一瞬で爆散する数値。
この薄っぺらい航空機から一歩踏み外せば、一瞬にしてあの世行きという事実が戦い以上の恐怖を与えてくる。
カメラ越しに映る機体底部の風景が暗闇を抜け、雲を抜け、薄っすらと赤茶色に包まれた地上が見えて来た。
と、同時にレーダーに映る赤い光点。
鳴り響くアラート。
「全員回避しろぉッ! 待ち伏せだッ!!」
地上から放たれる無数のビームが〈ダイザー〉の底面を貫き、機体の側面をかすめる。
攻撃を逃れようと防御を固めつつ、風穴だらけの板っペラから飛び降りバーニアを吹かせる。
他の3機と共に赤土の岩板に着地した時点で、周囲は完全にネオ・ヘルヴァニアのものと見られる〈ザンドール〉に包囲されていた。
───Dパートへ続く




