第40話「ヘルヴァニアの民」【Gパート 這い上がり】
【6】
こちらを敵と見定めた相手が、手に持つビームライフルを向け引き金を握る。
裕太はビームセイバーを握る手を回転させその光弾を防ぎつつ、頭部機関砲で反撃。
しかし、赤いバリアーにその弾丸が打ち消されダメージを与えることもままならない。
「ご主人様、敵機の情報が出ました。クレッセント社製キャリーフレーム〈エイジス〉です」
「名前だけ知れても仕方ないだろ。ジュンナ、合体をするぞ!」
「はい。あ、ジェイカイザー。私と合体という言葉から、邪な考えはしないように」
『ううむ、仕方がない。ハイパー合体!!』
ジェイカイザーの叫びとともに、ブラックジェイカイザーの四肢が分離し、巨大な手足へと変形する。
転送された合体パーツがジェイカイザーの足を火花を上げながら包み、そこに変形したブラックジェイカイザーの脚が接続。
今度は合体パーツがジェイカイザーの腕を通し、一体化。
足のときと同じようにブラックジェイカイザーの変形した腕が装着される。
エネルギーが通り光のラインを浮かび上がらせる腕から、金色に光る手が伸び力強く宙を握る。
残されたブラックジェイカイザーの胴体が上下に分離し、上半分が仮面をかぶせるようにジェイカイザーの頭部を包み込む。
残りのパーツが次々と舞い上がり、ジェイカイザーの胴体を覆っていく。
最後に残されたブラックジェイカイザーの胴体がコックピットハッチを守るように装着され、胸に輝くエンブレムが現れた。
そして、仕上げとばかりにジェイカイザーの口元が鋼鉄のマスクで覆われる。
『ぬぅぅん!! ハイパージェイカイザー、降臨ッ!!』
「……している間に、エレベーターがはるか遠くな件について」
『なにぃいいいっ!!?』
どうやら合体中は高度が維持されるらしい。
長々とした合体プロセスの最中に、車両と敵は遥か上空へと過ぎ去っていた。
「急いで追いつかなくっちゃなあ……。よし、ダブルフォトンランチャー発射準備!」
『待て待てぇぇい! 移動用に使われる最強必殺兵器の気持ちを考えたことがあるか!?』
「黙りなさいジェイカイザー。ご主人さま、フォトンエネルギー充填完了です」
ジュンナの報告を受け、裕太は正面のコンソールを操作しウェポンブースターの起動と同時に、反動を抑えるためのスラスター自動噴射機能を止めた。
ハイパージェイカイザーの全身を、フォトン結晶が包み込み、鎧のように形状を変化させる。
腰部から射出された二本のジェイブレードが宙に浮き、ガイドワイヤーを伸ばす肩部へと、吸い込まれるように移動した。
そのまま銃身を地球へと向けるように、機体ごと真下へと向ける。
ダブルフォトンランチャーの有効射程距離は約1000キロメートル。
地上では驚異的な飛距離であるが、宇宙においてはわずかにしか過ぎない。
高度にして6万キロメートルをゆうに超える現在地から地球へと向けて放つには、何の問題も無い。
「いっけえぇえ! ダブルフォトンランチャー!!」
操縦レバーのトリガーを引くと同時に、ハイパージェイカイザーが持ち上がる。
発射の反動をモロに受けた形の機体が徐々に加速し、離れた軌道エレベーターを追いかける。
ぐんぐんと近づいていく車両。
再び〈ザンク〉と撃ち合っていた〈エイジス〉がこちらに気づき、ビームライフルを連射する。
裕太はダブルフォトンランチャーの発射をやめ、勢いに乗ったまま上方へと振り向きフォトンフィールドを発生させビームを防ぐ。
この時点で、ジェイカイザーのフォトン残量は残り10%ほど。
これ以上長期戦にはできない。
「ジュンナ、あの機体の弱点は何だ!?」
「バリアフィールドは鉄壁ですが、発生に用いるエネルギーのコントロールが難しいと書いてありました。どうやらエネルギー調整が不安定のようです」
「……なるほど、勝ち筋が見えたぜ!」
裕太は再びコンソールを操作し、ハイパージェイカイザーの手にフォトンエネルギーを集中させる。
結晶がまとわりついた手はまるで鋭い爪を得たように尖り、あふれるエネルギーで翠色に発光する。
敵が攻撃をやめ、フィールドを全面に集中させる。
──それが裕太の狙いだった。
「フォトンエネルギー解放! 敵のバリアフィールドをオーバーロードさせるっ!!」
フォトン結晶に包まれた手で敵のバリアを握りしめる。
エネルギー増幅効果のあるフォトンが、触れた対象のエネルギーを否応なしに膨れ上がらせるのはここ3ヶ月の間に行った実験で証明されていた。
デリケートなエネルギー調整が必要なバリア装置が、急に増大したエネルギーに対応できるはずがない。
裕太の狙い通りにバリアフィールドが弾け、〈エイジス〉肩部の発生装置が小爆発を起こした。
「こいつでトドメだッ!」
無防備になった敵機の片腕をビームセイバーの素早い剣撃で切り落とし、そのまますれ違いざまに蹴り落とす。
腕が切り落とされたことで左右のバランスを崩し、さらに蹴られたことでよろめいた〈エイジス〉は、噴射したままのプロペラントタンクに乗ってあらぬ方向へと飛び去っていった。
役目を終えたフォトン結晶が剥がれた手で、軌道エレベーターの車両を掴み一息つく。
「よし、俺たちの勝利だ」
戦いを終えた裕太の頭上には、目的地であるペントハウス・ステーションが見えていた。
───Hパートへ続く




