第40話「ヘルヴァニアの民」【Fパート 並走しながらの戦い】
【5】
『……事情はわかった。しかし、裕太が危険を犯す必要はあるのだろうか?』
「どういうことだ?」
エレベーターが格納庫へ向けて上昇する中、状況を聞いたジェイカイザーが疑問を呈した。
『我々はこれから、ネオ・ヘルヴァニアという一大勢力と戦う。それなのに、賊と戦って消耗しては……』
「宙賊を退治しないとどのみち宇宙には出られない。それに、ここでやられるようじゃネオ・ヘルヴァニア軍なんかに敵いやしないからな。病み上がりのリハビリには丁度いいだろ」
「では、私もお供させて頂きます」
「『なっ!?』」
エレベーターの扉が開いたところで待っていたのは、すました顔のジュンナだった。
「敵を速やかに倒すためにも、ハイパージェイカイザーへと合体したほうが合理的かと」
「いや、まあありがたいけどさ……俺たちが乗る前、下の客車に確かにいたよな?」
「ご主人さまへと追いつくべく壁を蹴って加速を繰り返し、走りまくってまいりました」
「アクションゲームのタイムアタックかよ……」
ツッコミを入れつつも、軌道エレベーターに搭乗する前に着込んだ宇宙服のヘルメットを被る。
そのまま裕太はジェイカイザーへ、ジュンナは〈ブラックジェイカイザーウィングネオカスタム〉のコックピットへと乗り込んだ。
「ジュンナ、お前は人間じゃないからキャリーフレームと神経接続できないんじゃないか?」
「心配は無用です。私は機械の制御系を掌握する術を持っていますから」
「あれか……」
ジェイカイザーの起動プロセスを進めながら、裕太はジュンナと出会ったときのことを思い出した。
彼女は自身の体から触手のように無数のケーブルを伸ばし、コックピットの機械類に突き刺すことで、キャリーフレームの制御系を奪い取り操縦することができる。
本人曰く「見た目が不細工になるので、あまりやりたくありません」と言っていたが、今日に限ってはそのリスクを無視できるほどに本気のようだ。
「よし、合体は外に出てからだ。ハッチを開けるぞ!」
『……む? 裕太、腕を伸ばせ!』
「うおっ!?」
宇宙へと通じる扉が開けた瞬間、上方からザンクが落下してきた。
間一髪その腕をジェイカイザーの手で掴み取り、落下を阻止しそのまま引き上げる。
「すまない、助かった。君は、何ヶ月か前にヨハンを助けてくれた……」
「宙賊は俺に任せてください。俺たちなら落っこちても帰れます」
「うむ……客人に助けられるとはガードの名折れだが、君になら頼めるだろう。気をつけろ、奴らの機体は妙なバリアを持っている」
「妙なバリア……? わかりました」
バトンタッチといったふうに機体の平手同士を打ち付け合い、裕太はジェイカイザーの身を車両から乗り出させる。
直上にある護衛機用の格納車両から、エレベーター・ガードの〈ザンク〉たちが機関砲で応戦する中、彼らが狙っている敵機がその射線上で飛行していた。
背部に長い円筒形のうの推進剤増槽を装備した赤茶色のキャリーフレーム。
機体肩部から張り出した突起から発せられる、赤く半透明な球状のフィールドに包まれたその機体は、〈ザンク〉の攻撃を物ともせずに徐々にこちらへと近づいていた。
「初めて見る機体だな……エリィがいたら一発で解説してくれるんだろうけど」
「ご主人様、ネットワークで情報を検索しておきます。手遅れになる前に応戦を」
「よしわかった、行くぞ!」
慣性に乗りながら、バーニアを吹かせつつ宇宙へと飛び出す。
突然の鮮やかなカラーの機体の登場に面食らったのか、敵機が一瞬動きを鈍らせた。
裕太はその隙に速度を落とし、すれ違いざまにバリアを突き抜けて露出していた敵機のプロペラントタンクを、ビームセイバーで斬りつける。
内部燃料に引火し、炸裂するプロペラントタンク。
加速力を失った1機が徐々にエレベーターから離れていき、やがて離れるように飛び去った。
最下段の客車を掴み、ジェイカイザーが再び慣性を得て車両と並走状態となる。
「残るは……お前だけだ!」
残った1機を見据え、裕太は気合を入れた。
───Gパートへ続く




