第40話「ヘルヴァニアの民」【Dパート 保留】
「でも地球に国を作るって、それはつまり地球に攻め込むってこと?」
「何も暴力で無理やり奪い取るわけではない。コロニー・ブラスターを向けて、地球人と会談を行うだけだ」
「コロニー・ブラスター……?」
「その一撃で惑星をも貫く、地球人が考えた光の矢だよ。君も火星に降りる直前に、見たのではないかね?」
コロニーを冠した名前から、エリィは着陸前に宇宙で見た、スペースコロニーのような巨大建造物を思い出した。
あれそのものが巨大なビーム砲の砲身だとすれば、地球を貫くという言葉も嘘ではないことがわかる。
「……それは、紛れもない暴力だわ」
「理性的な脅しさ。旧世紀に、地球人は自らの惑星を滅ぼしかねない核兵器を向けあって、国々は会談をしていたというではないか。それと同じだよ」
仮面の奥に光るネオノアの目は、本気だった。
言うことを聞かなければ見せしめに何でもしてみせようと、決意を固めている眼差しであった。
「でも、あたしに政治なんてできないわ。お母様にだって、何も習ってないもの」
「君は何もしなくても良い。ただ人々の希望の象徴として、笑顔を振りまく存在でいれば良いのだ」
「だとしても、今すぐに答えなんて出せないわ。下手をしたら一生を決めるような選択だもの。あなたが何者なのかも、あたしはわからないし」
「フム……では、私の顔を見せよう」
立ち上がり、ネオノアが両手でゆっくりと仮面を外す。
その隠されていた顔を見て、エリィは目を見開いた。
「あ、あなたは……!?」
「ふふ、見覚えがあるだろう。そう、私は……」
「……誰?」
「のおおっ!?」
壇上で、男が派手にずっこける。
いくら記憶をたどっても、その顔にエリィは見覚えがなかった。
「エリィ姫、本当に私を知らないのか? ネオノアという名前に聞き覚えはないのか? シルヴィア殿下からなにも聞いていないのか!?」
「ごめんなさい、本当にわからないわ。ネオノアって名前なら、この間お父様がネオ・ヘルヴァニアの王の名前って言ってたけど……」
「おのれ地球人め……まあ良い、仕方がない。長旅の疲れで決心がつかぬと言うなら、部屋を用意させてある。我らのもとで民たちの姿を見、決意を固めるがいい。……ゼロナイン!」
ネオノアが指を鳴らし呼びかけると、軍服姿のナインがエリィの背後から姿を表した。
……その手に一冊のBL同人誌を持ったまま。
「お呼びでしょうか、ネオノア陛下」
「……ゼロナイン、その本は何だ?」
「ゼロセブンの精神攻撃に耐性をつけるための書物でございます。お呼びがかかるまでの時間を訓練に費やしていました」
「はぁ……そうか。それは、良いことだなウン。ゼロナイン、エリィ姫をお部屋にお連れしろ」
「はっ!」
本を持っていない方の手で敬礼をし、指でエリィに付いてくるように呼び掛ける。
歩き始めたナインの後を負いながら、その手に持つ同人誌にエリィは注目した。
「あ、刀剣コレクションの本ね。好きなの?」
「嫌いと言えば嘘になる。訓練のためにと手を出したが、なかなか興味深いからな。だが、実写ポルノ映像についてはまだ訓練が足りない」
大真面目に訓練と言い、BL同人誌を握るナインの姿に、エリィはどんな顔をすればいいかわからなかった。
───Eパートへ続く




