第40話「ヘルヴァニアの民」【Bパート ヘルヴァニア人ふたり】
【2】
「そういえば……ヘルヴァニア人のおじさん達は、どうして俺たちの話をすぐに信じたんだ?」
裕太は病室のベッドに横たわったまま、カーティスとのトランプ勝負に付き合っているジン・タッパーとモウブ・ヘイジの二人へと疑問を投げかけた。
「あん?」
「俺たちが?」
「いや、だってネオ・ヘルヴァニアが……というか、二人の勢力が地球を大型兵器で焼こうとしている、なんて突拍子もない話をよく信じてくれたなと」
現在の状態は戦争と言うには少し違う状況ではある。
しかし、言うなれば「お前たちの軍が大量殺戮をやろうとしているぞ」と敵に言われたに等しい状況で、彼らがそれを信じすぐに寝返ったことにが疑問だった。
問いかけられ、色黒の顎を指で掻きながら考えるモウブ。
その傍らで、カーティスがカードをテーブルにバッと広げる。
「ほい、フルハウスだ! ハハハッ! ざまぁ見やがれ!」
「ああっ! 旦那、そりゃないっすよ!」
「くそっ! 俺なんてワンペアだ! ……えーと、お前たちを信じた理由だっけか?」
カード遊びをお開きにし、椅子に座ったまま身体をこちらへと向ける二人。
ジンが、細い顔にかけたメガネを指で押し上げる。
「まあ……強いて言うなら前々からうちの、というかネオ・ヘルヴァニアの動きに疑問を持っていたからってところかな」
「疑問を?」
「反ヘルヴァニア人組織になりすましてヘルヴァニア人を襲えとか、裏ルートで資材を調達しろ、とかだな」
「しかもその資材も、建物を作るというよりはキャリーフレームや重機動メカなんかより……もっとドデカイ何かを作るものだったしな。しかもそれについての情報は無しときた」
目的も目標もわからずに、上から不可解な指示が飛んできていた事が、彼らに疑念を抱かせていたらしい。
ふたりの口ぶりからすると、地球にも大勢ネオ・ヘルヴァニアの協力者がいるのだろうが、そんな彼らに「地球を焼く兵器の材料をとってこい」とはおいそれとは言えないだろう。
「そこで、カーティスの旦那が必死な顔で俺の胸ぐら掴み上げただろ? それで、謎だったピースがハマったってところだな」
「捨て駒にされるのはゴメンだ。それに、上が間違いを犯そうというのなら正すってのが、真の臣民と古いヘルヴァニアの慣用句でも言うからな」
「そうだったのか……おじさんたち、ありがとうな」
裕太は、深く頭を垂れた。
その礼に含まれるのは自勢力を裏切ってまでこちらについてくれたことと、エリィ救出へと協力してくれることに対する感謝。
しかし、裕太のその行動にジンとモウブが苦笑を返す。
「そんなに立派なものじゃないぜ。お前さん、エリィ姫様の想い人なんだろ?」
「えっと、そうだけど……エリィを知っているのか?」
「知っているも何も、俺達の憧れのアイドルみたいなもんだ。未来の女帝たる姫君の想い人なら未来の皇配にも等しいだろ?」
「そんなお偉い人間と共闘できるとかいうカッコいいシチュエーション、二度とあるかどうかもわからねえからな!」
ハハハと笑い合う二人の前で、脱力する裕太。
ネオ・ヘルヴァニアの中で自分たちがどう思われているのかが、この時なんとなくわかったような気がした。
───Cパートへ続く




