第39話「男たちの決意」【Hパート 役者は決まる】
【7】
病室に戻った裕太とカーティスは、見舞いに来ていたレーナや内宮たちと、ジンとモウブを交えて作戦会議を始めた。
異様な人数が押しかけた病室の様子を、扉の向こうから看護師たちが白い目で眺めている中、裕太はベッドに拳を突き立てた。
「まずは情報交換だ。おじさんたち、さっきの襲撃の概要から教えてくれ」
「ああ、わかった」
細身の方のヘルヴァニア人、ジンが大きく頷く。
彼は手錠を外されてからも特に抵抗はせず、こうやっておとなしく話の輪に加わっているのを見るに信用できる人物のようだ。
「昨日だったか、火星の本土から“姫君の同意を得た”という報せがあったんだ」
「それと同時に、あの妙な力を使う男とキグルミ野郎を襲って無力化しろという指示も受けた。あのふたりには、悪いことをしてしまったな……」
太っちょのモウブが言ったその“男とキグルミ”というのは、ガイと魔法騎士エルフィスのことだろう。
事実、そのふたりは重症とはいかないまでも傷を負い、特にガイの乗る〈赤竜丸〉はとても戦いができるような状態ではなくなっている。
「……申し訳ないと思っているなら、その償いは俺たちへの協力という形でやってくれ」
「ああ……」
「昨日いうたら、ちょうど銀川はんが連れ去られた時期やな?」
「でも姫様に近かった50点や千秋を狙うとかじゃなくて、あのふたりを狙え……っていうのも変な話ね」
「お、俺たちもその理由までは知らないんだ、すまない……」
「末端の兵士には情報絞ってんのか……しっかりしてやがるぜ」
確かに、二人は最低限の情報しか与えられておらず、ネオ・ヘルヴァニアの企てに関する情報は全然得られなかった。
しかし、その後にジンとモウブから聞き出せた情報は、決して少なくなかった。
ネオ・ヘルヴァニアという組織が、火星に領土を持つ正式な国家として成り立ったこと。
反ヘルヴァニア組織、愛国社とネオ・ヘルヴァニアは裏で内通しており、地上で活動する際の隠れ蓑とする代わりに活動資金やキャリーフレームを提供していたこと。
地上で活動するネオ・ヘルヴァニアの兵士たちには、最終目標は地球の緑豊かな大地に領土を獲得するものだったということ。
エリィとその母シルヴィアは、今に至ってもヘルヴァニア人たちにとっては憧れの存在であり、信奉している者も少なくないこと。
その中でもシルヴィアは明確に地球や地球人への愛を表明していたため、少々過激になる活動へ協力は得られないであろうと組織の中で結論が出ていたこと。
戦闘直後の話の通り、エリィが無理やり誘拐されたことやコロニーブラスターについては本当に知らなかったこと。
「しかし、火星を盾に活動するっていうのが賢いな……ネオ・ヘルヴァニアを討つために大規模な軍隊を動かせば火星の国家すべてを敵にすることになる」
「つまりだ進次郎。エリィ救出、ならびにコロニーブラスターの発射阻止は……俺たちだけでやるしかない」
「情報を広めて、協力者を募るとかはできないのか?」
「おいメガネ小僧、これはヘルヴァニア人による明確な地球への敵意なんだ。下手に情報を広めれば、あの銀髪の嬢ちゃんみたいに地球で普通に住んでいるヘルヴァニア人達が迫害されかねえぜ?」
カーティスの言うことが、必ずしもそうであるとは限らない。
しかし人類の歴史を鑑みれば、特定の民族による反逆を過剰に危惧した結果その民族を討ち滅ぼそうと大衆が正義に走った事例は少なくない。
ネオ・ヘルヴァニアは敵ではあるが、元三軍将で現在は娘とともに喫茶店をしているアトーハとスーグーニ夫婦や警察の整備士トマス、レーナの義父ナニガンなどヘルヴァニア人には知り合いも大勢いる。
彼らの社会的立場を脅かさないためにも、裕太たちの手でネオ・ヘルヴァニアを止めるしか無いのだ。
「レーナ、また頼ることになっちまうがΝ-ネメシスにジェイカイザーを運び入れてくれ。それから──」
裕太は、ベッドの上で頭を下げた。
それは世間一般で言う土下座の格好。
恥を忍んだ、最高級の請願の意。
「みんなお願いだ。地球の……エリィのために、力を貸してくれ!」
「50点、あんたバカでしょ?」
「なっ!」
呆れるようなレーナの声に、裕太は思わず額を上げた。
「わたしたちの顔、見てみなさい」
レーナの言われたとおりに、裕太は周りの人達の顔を見る。
彼ら彼女らに浮かんでいたものは決して否定の意など無く、戦いに赴く覚悟と裕太への協力を惜しまない決意に満ちた表情だった。
「裕太はわらわの国を救ってくれた恩人。いまこそ恩返しの時じゃ!」
「うちもやったるで! いっぺんは惚れた男に、これ以上悲しい顔はさせへんからな!」
「この天才である僕も手を貸そう! ……といっても戦力には、なれないかもしれないが」
「私も、進次郎さんと一緒にご協力いたします!」
「ご主人さま。私も含め皆、頼まれなくても助力しますよ」
『もちろん私もだ!』
「俺も、地球の同胞のために一肌脱がせてもらうぞ!」
「俺もだ! 地球には家族がいるからな!」
「ジンさんやモウブさんも、みんな……!」
「ガキンチョ。俺もネオ・ヘルヴァニアに乗り込んで、ロゼに一発言ってやらなきゃならねぇからな。手ぇ貸すぜ」
「カーティスのおっさん……! ありがとう、ありがとう……!」
「馬鹿野郎、泣くのは全部終わってからだ。準備が済むまでの数日、俺達はおとなしく療養しようぜ」
「ああ……!」
朝には絶望に満ちていた裕太の瞳に、今は決意と闘志が宿っていた。
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登場マシン紹介No.39
【ザンドール】
全高:8.3メートル
重量:10.6トン
JIO社製の新型軍用キャリーフレーム。
ネオ・ヘルヴァニアが量産機として採用している。
歴史の長いキャリーフレーム・ザンクの順当な後継機であり、ザンクの良さをそのままにスペックの底上げ、ならびにオプション兵装の充実さを長所としている。
パーツの補修、修理の大半にザンクのパーツが流用できる仕様となっており、ザンクを運用している組織に対し、徐々に買い換えてもらおうという意図が見受けられる。
汎用装備としてビームライフルとビームアックスが付属し、オプション兵装としてバックパックに取り付けるガンドローン放出器や、対CFバズーカ砲など様々な武器が選択可能となっている。
【次回予告】
火星のネオ・ヘルヴァニア基地へと連れてこられたエリィは、そこでスラムを形成して細々と生きるヘルヴァニア人たちを目の当たりにする。
今まで知らなかった、地球圏で苦しむヘルヴァニア人たちの苦悩。
責任を感じるエリィに、ネオノアが怪しい笑みを送る。
いっぽう裕太たちは、軌道エレベーターで宇宙を目指していた。
次回、ロボもの世界の人々第40話「ヘルヴァニアの民」
────少女は悩み、少年は猛った。




