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第38話「束の間の安息」【Hパート ふたつの喪失】

 【9】


「んじゃな、ガキンチョども」

「帰り道には気をつけてくださいね」


 家の前で裕太とエリィのカップルと別れ、ロゼとともに玄関をくぐるカーティス。

 今日の試合について語り合いながら、ロゼが夕食を作るのを手伝う。

 手早く調理を進める彼女の背中を見て、無意識に上着のポケットに手を伸ばす。


(雰囲気か……)


 裕太に言われたことを気にしつつ、指輪を取り出すタイミングをはかる。

 つけっぱなしのテレビがくだらないバラエティー番組を映し出す中、静かに夕食を取る。

 ロゼが作ったシチューは、今日も絶品だった。


 腹を満たし、片付けが済み、テレビを消してゆっくりと語らう。

 タイミングは今しかないと、カーティスは勇気を振り絞った。


「なあ、ロゼ」

「なんですか? カーティスさん」

「……お前に、プレゼントがあるんだ」



 ※ ※ ※



 カーティス達がまさに夕食を食べている頃。

 裕太は公園へとエリィを誘い、一緒にベンチでひと休憩をしていた。


「今日の試合、すごかったわよぉ」

「ああ。レーナの奴には悪いことをしちまったなあ」

「笠本くんだって、よく〈アストロⅡ〉で渡り合えたものよねぇ」

「……エリィを守るために強くなんなきゃって、思ってさ」


 ポツリと呟くようにいった言葉。

 何気ないセリフが、エリィの表情に驚きを浮かばせた。


「今、笠本くん……あたしのこと、エリィって」

「今日さ、内宮に……告白の返事をしたんだ」

「告白の……」

「断った。いつかはしなきゃいけないことだし、あいつには悪いと思いつつも……俺は自分の気持ちに嘘はつけないから」

「笠本くんの、気持ち……」


 ベンチから立ち上がり、一歩、二歩あるいてから振り返り、エリィの方へとまっすぐ向き直る。

 裕太の覚悟に答えるように、エリィも立ち上がり胸の前で手を組んだ。


「エリィ……俺、俺は」


 いつもは当たり前のように顔を突き合わせて喋っているのに、言葉が詰まってなかなか出てこない。

 緊張で震える手足を、気合で抑え、大地を踏みしめる。


「かさも……裕太くん」

「エリィ、俺はお前のことが────」


 少年が振り絞った、一世一代の告白。

 しかしそれは────



「がっ……はっ……!?」


「裕太……くん!?」



 一発の銃弾によって、発せられることはなかった。



 まるで焼け付くように右足が痛み、赤い血を吹き出す。

 裕太はその場に倒れ、どくどくと鮮血が溢れ出る傷口を手で抑えようとする。


「裕太く……うっ!?」


 駆け寄ろうとしたエリィの後ろ首を叩く、いつの間にか背後に表れていた黒服の男。

 気を失った彼女を荷物のように持ち上げたそいつは、拳銃を握った別の黒服と言葉をかわす。


「この男はどうする」

「捨て置け。じきに地球ごと焼け消える定めだ」


「待て……よ……!」


 地面を這いずるように、裕太は男たちを追おうとする。

 しかし足を撃たれた少年を、黒服たちは難なく振り切り建物の影へと消えた。

 

「エリ……ィ……」


 取り戻そうと延ばした手から力が抜け、裕太の意識はそこで途絶えた。



 ※ ※ ※



「あ……ああ……!?」

「ロゼ、どうした……? ロゼ!?」


 遠くから響いた一発の銃声。

 それがロゼの、ロザリー・オブリージュとしての記憶を呼び覚ました。


 脳裏に浮かぶのは、愛する祖父の最期。

 助からないことを悟り、ロザリーに楽にしてくれと拳銃を握らせる姿。

 涙を流して引き金を引いた、あの夜の出来事。


 終戦を迎え始まった、辛く苦しく貧しい地球圏のコロニーでの生活。

 ヘルヴァニアの銘のもと送られてきた招集状。

 憧れの将軍、キーザとの邂逅。

 ゼロセブン失踪の報。そして出撃。


 憎き仇、エルフィスとそのパイロット、スグルとの戦い。


 そして──────。






「ロゼ、おいしっかりしやがれ! ロゼ!」

「わたくしははロゼなどではありませんわ! わたくしは、ロザリー・オブリージュ! 誇り高きネオ・ヘルヴァニアの戦士!」

「お前、記憶が……」


 ロゼは、ロザリーは身を翻し、戸棚の隠しスペースにしまってあった拳銃を握り、その銃口をカーティスへと向けた。


「汚らわしい地球人め! よくもこのわたくしを……穢し、弄んでくれましたわね!!」

「ロゼ……」

「わたくしは、ロザリー・オブリージュですわっ!!」


 乾いた音とともに、鉛玉が宙を走った。

 その弾丸はカーティスの脇腹を貫き、彼の背後の壁に穴をあける。

 傷口から血を吹き出して、倒れるカーティス。


「わたくしは、わたくしは……!」

「よかったな……ロゼ……。記憶、戻ったんだ……な……」


 動かなくなったカーティスの脇を通り、屋敷の出口を目指し走り出すロザリー。

 その彼女の胸中には、得体のしれない感情が渦巻いていた。


(なぜ……あの男は、撃たれたのに「良かった」と……?)


 慌ただしく屋敷を飛び出す彼女の足音。

 それをかき消したのは、けたたましい救急車のサイレン音だった。



───────────────────────────────────────


登場マシン紹介No.38

【アストロⅡ】

全高:7.9メートル

重量:7.5トン


 江草重工製の汎用キャリーフレーム、アストロの後継機。

 アストロの特徴であった安価に見合わないスペックの高さをそのままに、反応速度・追従性を現行の軍用最新機レベルまで引き上げた機体。

 その煽りで、装甲の耐ビーム性はアストロより強化されているものの現行ビーム兵器を防ぐには足りず、あくまでもフレームファイトなど競技用としての用途に特化している。

 大部分のパーツをアストロと共有しているため、間に合せの修理・補強に旧型機のパーツを使っても問題が少ない。


 最新型のパーツを使っており、なおかつ動力炉は旧来のものと同じものである都合上、兵器に回せるエネルギー量に問題がある。

 これは最新の核融合炉に載せ替えれば解決する問題であるが、手を加えてない状態ではビーム兵器に回すエネルギーが不足してしまう。

 その欠点を補うため、標準武装の内、傾向射撃武器がビームライフルからハンドレールガンへとランクダウンされている。



【アストロ・キャノン】

全高:7.9メートル

重量:8.8トン


 江草重工製の汎用キャリーフレーム、アストロにオプション兵装として両肩に37ミリ口径カノン砲を備え付けたカスタムタイプ。

 あくまでも競技用の機体であり、キャノン砲の威力は実戦で使うには不足している。

 キャノン砲がついている都合上、アストロよりも動きは鈍重。

 さらに積載量の関係で携行武器がビームセイバーのみとなっている。



 【次回予告】


 鮮血の夜が明け、病院で目覚める裕太とカーティス。

 共に愛する者を奪われた彼らに伝えられる、ネオ・ヘルヴァニアが動いたという報。

 それは地球という惑星を脅かす、恐ろしい作戦計画を知ることでもあった。

 故郷を奪われた者と、愛する者を奪われた者による戦いの火蓋が、切って落とされる。


 次回、ロボもの世界の人々39話「男たちの決意」


「笠本はんが……好きな女を目の前で奪われて平気なはずないやろっ!!」

「内宮、かわってくれ……。銀川の親父さん、俺が責任を取ります」

「責任って……」

「俺が、エリィを必ず助け出します……! だから────」

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