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第38話「束の間の安息」【Gパート 戦姫舞い勇者飛ぶ】

 【8】


 上空から降り注ぐ光弾の嵐をかいくぐり、素早く狙いを定め空中のガンドローンへと射撃。

 ガンドローン側も回避しようと動きつつ反撃をするが、止まった一瞬の隙にレールガンの弾が直撃し爆散した。


「これで、ガンドローンはあと1機……!」


 もはや試合の体を成していない戦況の中、裕太の目的は完全に対ExG能力者機への演習にげ替わっていた。

 この数ヶ月で体に染み込ませたガンドローン対策の動きの習熟を、身体で実感する。

 もちろん、予選大会でガンドローン使用機が出てくるはずもなく、空いた時間にこれでもかとやったシミュレーションによる練習の成果なのであるが。


「腕、かなり上げたようね50点」

「ありがとよ。お陰様でいい訓練だ」

「その生意気なセリフ、この攻撃を食らっても言えるかしら!」


 レーナの〈ブランクエルフィス〉が幅広のビーム剣を抜いた。

 スラスターを猛噴射しながら接近した敵機は、ビームブロードとか呼ばれていたその光の剣を勢いよく振るう。

 裕太はビームセイバーで一瞬受け止めようとして、即座にペダルを踏み込み後方へ飛び退いた。


「っぶね……その出力じゃ、通常のビームセイバーじゃあ受け止めらんねえだろうよ」

「引っかかると思ったのに。一筋縄では行かないわね……けどねっ!」


 距離を詰めながら放たれる袈裟斬りが、かがんだ〈アストロⅡ〉の頭上を通り抜け背後の岩をバターのように斜めに切り裂く。

 裕太は〈アストロⅡ〉赤熱した断面を光らせながら崩れる岩を飛び越えさせ、距離を取りつつハンドレールガンを連射した。

 的確に〈ブランクエルフィス〉の頭部を狙った弾丸群を、ガンドローンから放たれたビームの一閃が薙ぎ払い空中で蒸発させる。

 余波の光線が裕太の足元の岩盤を貫き、融解した岩床いわどこに〈アストロⅡ〉の片足が一瞬とられ機体が横に傾く。

 その隙を見逃さず、接近してビームブロードを振るうレーナ機。


「まだ、まだぁっ!!」


 傾きを立て直すのではなく、利用する方向にスラスターを噴射。

 側転のような動きで斬撃を回避しつつ、体勢を立て直して〈ブランクエルフィス〉の脇へと回る。

 ハンドレールガンで狙うは、ガンドローンの充電器となっている背部ユニット。

 がしかし、引き金を引こうとした〈アストロⅡ〉の左腕が手首から先をガンドローンのビームで溶断される。


「あっはは! 勝ったわ!」

「それは……どうかなっ!」


 裕太は残った右腕のビームセイバーを空中へと放り、一瞬にして手首の付け根から白い球状の物体を取り出し投げつける。

 背部ユニットへと放物線を描き飛んだそれは、狙いすました場所へと吸着し……そして爆ぜた。


「なっ!? 吸着手投げ弾!?」

「隙あり! 貰ったぁぁっ!」


 放り投げたビームセイバーの柄を握り直し、ペダルを踏み込んでバーニア全開。

 反撃とばかりに振られたブームブロードの幅広の光が〈アストロⅡ〉の腕を貫くと同時に、〈ブランクエルフィス〉が腰部から切り裂かれた。


 崩れ落ちる〈ブランクエルフィス〉。

 両腕を失いつつも自立する〈アストロⅡ〉。

 勝敗が決したことを知らせるホイッスルが鳴り響き、裕太の勝利を高らかに宣言した。



 ※ ※ ※



「負ーけーたー!! 負けた上にズタボロになったァァァ! ヒンジーさんに殺されるぅぅぅ!」


 戦いが終わり、上下半身が切り分けられた無残な姿の 〈ブランクエルフィス〉を前に、レーナが項垂れる。

 裕太とレーナの他の選手たちは、反対側で互いに健闘を称え合っていた。


「高級機で殴り込むからこうなるんだよ。フレームファイトで、エルフィスみたいな機体が出てこない理由まで勉強しとけよな」

「ぐぬぬぬーっ! 今日は50点の勝ちにしておいてあげるわ! けれど次はそうは行かないからっ!」

「いいぜ。ただし、次はこっちジェイカイザーに乗せてもらうからな」

「ずるーい!」

「お前が言うことかーっ!」


 一通り言い合って、ふたりで同時にため息をつく。

 裕太はふと、気になったことをレーナに問いかけた。


「なあレーナ。ナインのこと、なにかわかったのか?」

「ううん。パパの知り合いのツテとかも使って調べてるけど全然。50点は?」

「こっちもネオ・ヘルヴァニアの動きはさっぱりだ。このまま永遠に何も起こらないままなら、それはいいんだが……」


「笠本くん、かっこよかったわよぉ! あ、レーナちゃんも」

「姫様も元気そうでなにより。ジャージ姿、似合ってるわよ。そういえば、愛しの進次郎さまはどこかしら? せっかく地球に降りてきたから会いたいんだけれど……」

「進次郎の奴は今日は金海さんと、その妹とお出かけだよ」

「ボロ負けするし、進次郎さまには会えないし、今日は厄日ねぇぇぇぇ!」


 がっくりと肩を落とすレーナの姿に、裕太とエリィは笑みを零した。




    ───Hパートへ続く

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