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第37話「ナンバーズ」【Fパート キーザの牙】

 【7】


 宇宙を飛行し始めてから20分ほど。

 巡航速度に保った状態で、ホッと一息をつく。


「捕まった時はどうなるかと思ったが……なんとかなったな」

「ええ、そうね……」

「レーナ、ナインのこと……いいのか?」


 後方から聞こえる覇気のない声を、裕太は感じ取っていた。

 初めて知った血を分けた妹と別れて、いかに気丈なレーナといえども全く堪えないわけはないだろう。


「もちろん、連れて帰りたい。けれど……わたしのワガママで50点やΝ(ニュー)-ネメシスのみんなを危険には晒せないから」

「そうだよな。連中……ネオ・ヘルヴァニアだっけか? 何を企んでいるんだ?」

「あれだけの兵士と設備……ただの武装勢力にしては統制が取れすぎていると思ったわ。それに、ナイン達ナンバーズのこともある」

「兵士たちも、多分あのドクターとかいう女性とナンバーズ以外はヘルヴァニア人だったよな?」

「まさか……ヘルヴァニア帝国を作り直すとか?」

「あるいは、もっと何か別の目的が……?」


『裕太、後方からミサイルだ! 数30!』

「多いなっ!!」


 咄嗟にハイパージェイカイザーを反転させ、腕をクロスさせて防御態勢。

 飛来したミサイル群をフォトンフィールドで正面から受け止める。


 晴れた爆炎の奥に見えたのは、あの時ナインを連れ去った重機動ロボ。

 オープン回線を使って、キーザの顔がコンソールへと表示された。


「将軍自ら追っかけてくるとは、よっぽど人材不足なんだな?」

「くっくくく……思い出したよ。メビウス時代から内宮を打ち破っていた奴だな、貴様は! あの時から私の邪魔ばかりをする!」

「内宮……? もしかして、人食い鬼(グール)フレームの時のことか!?」

「あの頃も良かったが、今はもっと充実している! だからこそ、これ以上の邪魔はさせん!!」


「もっと古い因縁から、お前の邪魔をしてやろうか。キーザ・ナヤッチャー!」


 ハイパージェイカイザーの後方からビームの矢が乱れ飛ぶ。

 裕太たちの脇を抜けて飛んだ光弾は重機動ロボへと向かうが、機敏な動きによって回避された。


「半年戦争以来だな、キーザ」

「貴様……スグルがまた私に牙をむくというのか!!」


 ハイパージェイカイザーの横に〈エルフィス(ストライカー)〉が並ぶ。

 外へとは漏れない特殊回線で、スグルからメッセージが届いた。


「メッセージはたしかに受け取ったよ裕太くん。こいつは私が抑える。裕太くんはΝ(ニュー)-ネメシスへ」

「だけど……俺達だって!」

「早く帰ってエリィを安心させてやれ。共振の後遺症で苦しんでいる上、寂しがって枕を濡らしている。エネルギーも無いのだろう?」

「でも!」

「50点! ……今のわたし達じゃ、力不足よ」

「くっ……わかった。頼みます」


 再びΝ(ニュー)-ネメシスの方へとハイパージェイカイザーの向きを変えた裕太は、悔しさに歯ぎしりしながらペダルに力を込めた。



 【8】


「スグル、貴様ロザリーをどうした?」

「あの娘、ロザリーというのか。我々の艦で丁重にもてなしているよ」

「私からチューイやゴッツイ、シューサイにサンマンにノーブル大隊長を奪っただけじゃ飽き足らず、更にロザリーをも奪うのか!」

「こっちも、お前たちには半年戦争でヨシュアにウォーレス、カミルとロレーナを殺られた。お互い様だろう」


 互いにビームライフルとミサイルを構え、いつでも火蓋を切って落とせる体勢をとる。

 先に動いた方が後手を取る。

 どちらかが動くまでの間は、逆に会話に集中ができる。


「何を企んでいる、キーザ。ネオ・ヘルヴァニアとは何だ?」

「言うはずがないだろう、スグル。退役した腰抜けは、早く故郷で老いさらばえていろ」

「老いたのはどちらかな、キーザ? 私は美しい妻と共に可愛い娘の成長を見続けて、むしろ人生が潤い活力にあふれている。君は……未だ独り身だろう?」

「貴様ァ……!」

「馴染みの縁でいいことを教えてやろう。半年戦争から今に至るまで、キャリーフレームが重機動ロボという大艦巨砲主義の忘れ形見などに、敗れた例はただの一つもない」

「フン、地球人どもの技術で強化された新型重機動ロボ〈ディカ・ノン〉を見ても同じことが言えるか!?」

「地球人がどうと言っておきながら、地球の技術を借りてるじゃないか。ネオ・ヘルヴァニアといっても大したことがないな!」

「……スグルゥゥゥッ!」


(かかったっ!!)


 挑発に乗ったキーザが、動き始めた。

 先に動けば、必ず後隙を晒す。

 そこを一撃加えれば、一瞬で片がつく。


「よしたまえ、キーザ。冷静さを欠いた君では彼には勝てない」

「なっ……! 止めないでください、ネオノア様!」


「ネオノア、だと?」


 突然オープン回線で響いた聞き覚えのない声に、スグルは神経を集中させた。

 コックピットのモニターに、仮面で目元を隠した男の顔が映し出される。


「スグルと言ったかな? 私の部下が失礼をしたね。私はネオノア……ネオ・ヘルヴァニアという新たな国を治めさせてもらっている男だ」

「新たな、国だと?」

「挨拶はまた今度にするとしよう。今日のところは私に免じて、戦いをやめてもらえないかな? その傷ついた機体1機で我々の軍団を相手はしたくないだろう」

「お見通し……か」


 スグルの機体は、ロザリーとの戦いで激しく損傷をしていた。

 急場しのぎで〈ブランクエルフィス〉の予備パーツを繋いだものの、機能は万全とは程遠い。

 この状態のまま、重機動ロボはもとよりキャリーフレーム群と戦えば、生き残れる保証はない。


「良いのか、私を逃して? コロニー・アーミィや地球圏の軍勢に報告するかもしれないぞ?」

「構わぬよ。我々はそのような者たちに恐れるほど国力は低くない。それに……いくら君の言葉とはいえ、全地球人を一言で信用はさせられないだろう?」

「……そうだな」


 スグルの言葉に何一つ動じないネオノアの態度に、これ以上の問答は危険だなと察した。

 武器を収め、キーザの重機動ロボ〈ディカ・ノン〉の方から視線をそらさずにゆっくりと〈エルフィスS〉を後退させる。


「少なくとも、当初の目的は果たせたから良しとするか……」


 戦場から立ち去りながら、スグルは思った。

 連れ去られていた裕太たちは救出でき、人死には出していない。

 謎の勢力の情報も、あらかた得れた。

 十二分な成果だと自分に言い聞かせ、戦わずして退かなければならない恥を埋め隠した。




    ───Gパートへ続く

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