第37話「ナンバーズ」【Eパート 脱出作戦】
【5】
「キーザ将軍、その女は……?」
「ん? ああ、レー……ゼロセブンを連れてくるようドクターから頼まれてな」
「わかりました」
すれ違う兵士に疑問を持たれる度、そうやって追及をかわす。
キーザに化けた裕太は演技をする度に、心臓をバクバクとさせていた。
(表情とかに表れてないといいけどよ……)
(大丈夫です! 表面の表情筋はこちらが制御していますから)
だが、収穫はいくつもあった。
ジェイカイザーの入った裕太の携帯電話の場所、ハイパージェイカイザーが格納された場所。
ここが木星と火星の間にある宇宙ステーションだということ。
そして、Ν-ネメシスを襲ったあの耳鳴りの正体。
「……まさか、あれがExG能力者同士のテレパシーだったとはなぁ。だから能力が皆無な俺やカーティスのオッサンは割と平気だったのか。あ、でも整備班の人たちも倒れてたけど能力者だったのか?」
「ExG能力の発現は宇宙で過ごした年月が関わっているから。僅かにでも発現していれば影響は免れないわ」
「つまり、この歳で初めて宇宙に出た俺は時間が足りなくて能力がないのか……」
廊下を歩きながら、小声で話す。
ExG能力のことを知るいいきっかけだと、裕太はキーザの姿のまま質問を重ねる。
「テレパシーは人によって、ラジオの周波数みたいなものがあってね。多分あの胎児……わたしの妹たちを使って増幅した声をΝ-ネメシスに放ったのよ。ナインを動かすために」
「じゃあ、レーナがすぐに動けた理由は……」
「ナインの周波数がわたしと近かったから、ノイズ混じりだけど声として聞けた。それ以外の人たちにとっては、脳みそに直接ドでかい雑音をぶつけられたような形になったのよ」
「そりゃあ、ぶっ倒れるわな……ああ、この部屋だ」
携帯電話があるという部屋の扉を少しだけ開き、隙間から中を見る。
人がいないのを確認してから突入、机の上に安置されていた携帯電話を手に取り電源を入れる。
画面に表示されたジェイカイザーの顔が、裕太の顔をにらみつける。
『ええい出たなヘルヴァニアの幹部め! この私は貴様らに屈しはしないぞ!』
「声のボリューム下げろバカ! 俺だ、裕太だよ!」
サツキに顔の部分だけ一瞬だけ変装を解いてもらい、ジェイカイザーを落ち着かせる。
何を言われるかと思っていたが、『女装してたほうが百倍いいぞ』という妄言だけで済んだのは幸いだった。
「ジュンナがいない以上、ハイパージェイカイザーに乗ってドンパチをやらかすのは得策じゃあない。とりあえずΝ-ネメシスにメッセージは送っとくか」
「格納庫へはここからなら近いわ。後少しの辛抱よ」
「ああ……っ!?」
ガチャリ、とドアノブが回る音。
裕太たちの背筋が、ピタリと凍りつく。
「私の部屋に……誰か居るのか? なっ!? 私がもうひとり!?」
「「強行突破ァッ!」」
「ごふうっ!!?」
部屋へと入ってきた本物のキーザを突き飛ばし、裕太とレーナは廊下へと飛び出した。
【6】
「ええい、そいつを止めろーっ! 何をしているー!」
「いえ、しかしキーザ将軍の姿をしていては銃を抜くわけにもいかず……」
「役立たずどもめ……! ゼロナイン、連中を止めろ!」
後方から聞こえるキーザの怒号。
裕太たちは格納庫の方向へと脇目も振らずにひた走る。
「ナインッ……!」
「ここから先へは……行かせんッ!」
裕太たちの進路を塞ぐように、拳銃を構えたナインが立ちふさがる。
後方からは追いついた兵士たちとキーザ達が退路をしっかりと奪っている。
「どうする……レーナ?」
「幸い、前はナインだけ。そして格納庫は目前、だったらあれを試してみる!」
「あれ?」
「ナインとわたしは周波数が近い、だったら頭の中のイメージをテレパシーで伝えられる!」
レーナの目つきが鋭くなり、ナインをにらみつけた。
その瞬間ナインが苦悶の表情を浮かべ拳銃を落とし、その場にうずくまって苦しみ始めた。
「う……あああっ!?」
「今よ!」
「助かったけどよ、レーナ……何をしたんだ?」
「さっき言ったでしょ、テレパシーでイメージを送ったの。あの子多分ピュアだから、あたしのお気に入りのデブケモホモ同人誌の内容は刺激が強いでしょうからね!」
「……なんてモン読んでんだよお前」
「ああ、勘違いしないでね? BLとかは趣味だから、恋愛観はノンケだからね?」
「進次郎との付き合い見てるから、んなこたぁわかっとるわ」
格納庫へと足を踏み入れ、整備員たちを押しのけてハイパージェイカイザーの足元まで到達する。
その瞬間床に鉛玉が食い込み、床に小さな穴を開ける。
背後へ振り返ると、青ざめた顔で拳銃を構えるナインの姿。
「ゼロセブン……貴様ぁっ!」
「あーらナイン、まだ足りなかった? くらいなさい! 日本でネタ的に人気の実写ゲイポルノの本編イメージ!!」
「ぐああああっ!!!?」
『ぐはぁぁぁぁっ!!?』
「……何でジェイカイザーまで苦しんでるんだよ」
『仕置で見せられた映像の記憶ががががぁっ!?』
「……そういえばそんなこともあったな」
コックピットハッチを外から開き、ハイパージェイカイザーの中へと飛び込む。
メインパイロットシートに裕太が腰掛け、後方の席へとレーナが座る。
「金海さん、変装はもういい。離れてくれ」
「わかりました!」
裕太から剥がれたサツキが、見慣れた人間体の姿でパイロットシート脇の空間に立つ。
操縦レバーを握り、指先から神経接続。
起動プロセスを手早く済ませ、ペダルにゆっくりと力を込める。
「おらおら、どけどけぇっ! 邪魔すると踏み潰すぞ!」
一歩足を踏み出すと、地響きと迫力で整備員達が逃げ回り始める。
人が居ない場所へ向かって頭部バルカンを掃射すれば、進行上からあっという間に人が居なくなった。
「……踏む気は無いくせに」
「うるせぇぞレーナ! エアロックを操作してっと……」
外へと通じるエアロックシステムへとジェイカイザーのOSを介して命令を飛ばす。
後方のシャッターが閉じ、空気が排出される音が小さな空間に響き渡る。
幸いシステムは共通規格だったらしく、難なく宇宙空間へと通じる大扉が口を開く。
「Ν-ネメシスは……結構距離はあるが行けない距離じゃないな」
『だが、エネルギーはギリギリだ。一発も攻撃にエネルギーは割けないぞ!』
「敵が追ってきませんように……ハイパージェイカイザー、発進!」
背部バーニアが火を吹き、裕太たちは暗黒の宇宙へと飛び出した。
───Fパートへ続く




