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第37話「ナンバーズ」【Cパート 医務室再び】

 【3】


 スグルとカーティスが戦闘を終えた頃には、Ν(ニュー)-ネメシスの乗員は全員目を覚ましていた。

 後遺症も若干の耳鳴りと軽い頭痛くらいで、とくに問題はなさそうだった。……大人は。


 エリィや深雪などの学生組は目を覚ました後も激しい頭痛に悩まされ、各人個室で横になっている。

 そんななか、カーティスは医務室を訪れていた。


「ったく……次から次へとお前らはベッピンさんを怪我人にしちまいやがって」


 船医が文句を言いながら、運ばれてきた女の額に包帯を巻く。

 カーティスは壁によりかかりながら、その様子を遠目で眺めていた。


「文句なら英雄のダンナに言ってくれ。エキサイトして、そこまでやっちまったのはあいつだ」

「……スグルのやつがここまでやるってことは、もしかしてこいつ恨みかなんかで怒り狂ってたんじゃねえか?」

「ダンナ曰くそうらしいが……お医者さんよ、お前さんもしかしてダンナの知り合いなのか?」

「知り合いってほど深いわけじゃねえ。ただカウンター・バンガード旗艦の船医やってただけだ」


 包帯を巻き終えた船医が、額の汗を手ぬぐいで拭う。

 そのまま座っていた椅子の背もたれに体を預け、天井をぼうっと見上げた。


「あいつはな、半年戦争ん時に仲間も結構失ったんだ。特にあいつの今の女房と出会った直後の戦いが酷かった」

「……聞かせてくれよ。そこまで言われたら気になっちまう」

「かんたんな話さ。戦闘でヘルヴァニア人兵士の旦那を亡くした女が、恨み一辺倒でこっちの戦艦に戦闘機で突っ込んできた。それをスグルの兄貴分だったヨシュアがキャリーフレームで身代わりになって、敵もろとも逝っちまった」

「そんなことが……」

「その直前にな、事故遭って脱出ポッドで漂流してたヘルヴァニアのお姫さんを拾ってたんだがな。スグルのやつ、ヨシュアが死んだ後そいつに八つ当たりしたんだぜ?」

「そんなことやって、よく結婚まで持っていったな」

「色々あったのさ。……これ以上言うと、そこで恨みがましそうに覗き込んでるスグルに、俺がブチのめされそうだからやめとくけどよ。あとそうだ、この女は目ェ覚ましたら安静にさせておけよ」


 立ち上がり、後ろ手を振りながら部屋の奥へと消える船医。

 彼が去ってから、スグルがゆっくりとした足取りで医務室へと入ってきた。


「ドクターのやつ、勝手に人の過去をバラすとはな」

「英雄のダンナよ、気に障ったんなら聞かなかったことにするぜ。俺もお前さんの気も知らず止めちまった」

「いや、カーティス。君には感謝している。私は……娘が見ている前で殺人を犯すところだった」


 スグルが震える手を、自らの手で握って抑える。

 それの震えは、過去のトラウマが想起されて抑えられない衝動か。


「そういえば、英雄のダンナ。ガキンチョとガエテルネンの嬢ちゃんは見てねえか?」

「いや……そもそも帰還していないようだ。未だに敵を追っているのか、それともやられたか」

「お前の娘さんが悲しむだろうよ。いや、お前さんにとっては娘についた虫が消えて満足か?」

「私はそこまで非情ではないよ。別れさせるなら本人たちを納得させて別れさせてやる。ただ追ったにせよ、やられたにせよ、敵の本拠地がわからなければ探しようがない」

「ってことは……この女のお目覚め待ちか」


 チラと、眠っている女を見る。

 すると彼女のまぶたがヒクつき、目を開いた。

 カーティスとスグルは、その様子を見てから懐の拳銃に手を触れる。

 いつ、相手が暴れ始めても抵抗できるように。


「……こ、ここは」

「とりあえず意識不明じゃねえようで何よりだ。嬢ちゃん、名前は何だ?」

「私は……私は……?」


 ゆっくりと上半身を起こし、両手で頭を抑え苦しみ始める女。

 ただならぬ様子に、思わずカーティスは駆け寄った。


「おいどうした、頭が痛いのか?」

「わからない……私は……私の名前は……なんですか?」



 ※ ※ ※



「……記憶喪失、か」

「血ぃ出るほど頭ぶつけたんなら仕方ねえ気もするがよ。どうするよ、せっかくの情報源がこれじゃ使い物にならんぜ?」

「あの女のことは君に任せよう。私がついていると、ふとした拍子に殴り倒しかねん」

「ナーバスだな、ダンナ。お前さんは娘さんを慰めにでも行ってやんな。まだ頭痛めてるんだろ、若い連中は」

「……そうさせてもらう」


 医務室を立ち去るスグル。

 その背中を見送ってからカーティスは、必死に思い出そうと苦しんでいる女の方を見る。


「おいおい、無理やっこ思い出そうとして思い出せるもんでもあるめぇ」

「でも……私が思い出さないとあなた達は困るんですよね? せっかく助けていただいたのに……」

「怪我人はおとなしく寝てるのが仕事だぜ。礼をすんのは元気になってから考えろ。女が苦しんでるのを見るのは趣味じゃねえ」

「……カーティスさん、優しいんですね」

「俺が優しい? けっ……鳥肌が立っちまうぜ」


 優しい笑顔を向ける女に対し、カーティスは照れ隠しでそっぽを向いた。




    ───Dパートへ続く

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