第36話「刻まれたゼロナイン」【Iパート ふたつの決着】
【9】
女の機体が持ったアサルトランサーの根本の銃口が火を吹き、宇宙に光の線を描く。
カーティスは素早くペダルを踏み込み、スラスターを吹かせて横へと回避した。
「ちっ……宇宙戦用にチューンナップしとくべきだったぜ。おい姉ちゃん、いい機体だなあそれ!」
「当たり前ですわ! この〈ラグ・ネイラ〉に地球人の機体ごときが……!」
「ほう、〈ラグ・ネイラ〉って言うのか? しかも地球人ときたか。お前さんヘルヴァニア人だな? まさかネオ・ヘルヴァニアってところから来たのか? あん?」
「この男っ……!!」
怒りの声とともに〈ラグ・ネイラ〉が急加速し、槍の一撃を放ってきた。
回避に十分な距離で回避運動に入った……はずだったが、宇宙で動きが鈍い〈ヘリオン〉の脇腹を刃がかすめる。
「ちいっ!!」
胸部バルカンを放射しつつ肩部ミサイルを発射。弾幕を撒きながら後退する。
距離をとった〈ヘリオン〉めがけ、〈ラグ・ネイラ〉が向けた槍の先端が展開。
内部の砲身がビームのチャージ光を放っていた。
「この後ろは……Ν-ネメシスか。回避すンなってか……!」
ブリッジクルーが無警戒時に気絶した以上、バリアの類は期待できそうもない。
せめてできるのは受け止め、可能な限りビームの威力を抑えるしか無い。
(勘弁しろよ……〈ヘリオン〉の耐ビーム装甲はそんなに良く出来ちゃいないんだぜ……!)
その場から動かず、防御の構えを取る〈ヘリオン〉。
アサルトランサーから、光の弾丸が放たれた。
(南無三ッ!!)
ビームの弾が、真空に弾け散った。
※ ※ ※
「やっと見えてきたぜ、重機動ロボ!」
「90点、あいつ動きを止めたわよ!」
ナインを乗せた重機動ロボを追っていた裕太たち。
ようやく視界内に収めたと思ったところで突然、重機動ロボがこちらへと振り向いた。
「向こうさん、やる気だぜ……? レーナ、お前は大丈夫か?」
「まだ頭がガンガンする。90点は大丈夫なのが納得いかないわ」
「戦闘機動は難しいか。じゃあ、あの手で行くぜ!」
重機動ロボの全身から放たれる無数のミサイル群。
白い煙の尾で宇宙へと縞模様を描きながら飛来したそれは、裕太のもとで大爆発を起こした。
爆炎の中から翠の光が伸び、ハイパージェイカイザーの腕がその身を包む煙を吹き飛ばす。
「危ねえ危ねえ、ジュンナが居ないからフルパワー全開は無理だが……!」
操縦レバーを押し倒し、ジェイブレードを握らせる。
翠の結晶が刃を包み、硬質な剣と成す。
バーニアを全開に、一気に距離を詰める。
「90点! ナインごとぶった切るんじゃないでしょうね!?」
「冗談! 四肢ぶった切って武装解除を……!?」
突如、ハイパージェイカイザーを取り囲むようにレーダーに表れる無数の光点。
それは、ミサイルの反応に他ならなかった。
「なっ!!!?」
「90点、あいつ無点火のミサイルを浮かべてたのよ! 罠だったわ!!」
「んなこと今更言われてもッ!!」
先程防いだものの、数倍の数のミサイルが全方位より襲いかかる。
フォトンフィールドが張れるのは1方向120度が限界。
どうあっても、防ぎきれない。
宇宙に、爆炎の花が咲いた。
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登場マシン紹介No.36
【ラグ・ネイラ】
全高:8.3メートル
重量:7.1トン
ネオ・ヘルヴァニアが運用しているキャリーフレーム。
名前は古代ヘルヴァニア語で「遅れてきた騎士」という意味。
どこかの企業の生産品ではなく、軍用キャリーフレームの汎用パーツを組み上げて作られたオリジナルのキャリーフレーム。
西洋の騎士鎧をモチーフとしたデザインをしており、大型の複合型槍兵器、アサルトランサーを装備している。
アサルトランサーには槍としての機能の他に、刃の根本の銃口から実体弾を放射するマシンガン。
加えて先端部を展開してのビーム発射という3つの攻撃機構が設けられている。
もともと、騎士鎧モチーフの機体というのは重機動ロボにもあり、モチーフの祖として旧ヘルヴァニア皇帝親衛隊機が存在する。
この機体はキャリーフレームでありながらその流れを踏襲しており、新しい親衛隊機としての願いが意匠に込められている。
【次回予告】
研究所に浮かぶ無数の胎児。
倒れた戦士たちを、その生まれてもいない眼が見つめていた。
惹かれ合い、離れていく 友、家族、そして敵。
かつての英雄と将軍が今、宇宙で再びぶつかり合う。
次回、ロボもの世界の人々37話「|ナンバーズ《数字を与えられし者たち》」
「……カーティス、厄介なことになった」
「厄介なことだと? どういうことだよ英雄のダンナ!」
「今日は、私の殺害人数に1を足す日になるかもしれん……!」




