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第35話「勇者VS英雄」【Gパート 肉を切らせて】

 【8】


「あっ! 深雪ちゃんこっちこっち!」

「まったく、どうして笠本さんが戦ってるんですか?」


 墓地から出た後、エリィからのメッセージを受け取った深雪はカーティスとともに闘機場へと向かった。

 なんでも、エリィの父と裕太が1対1で戦うだとか。

 大歓声の中ぶつかり合う2機を見ながら、深雪は小さな身体をエリィの隣の席に収める。

 2つ隣の席から、エリィと同じ髪色の女性がこちらを覗き込んできたので、深雪は彼女に向けて小さく会釈した。


「銀川のおばさま、お久しぶりです。試合の方、どうなってますか?」

「遠坂さんのところの深雪ちゃんも久しぶり。さっきまでうちの人のが優位だったけど、裕太くんも侮れないってところよ」

「当たり前よぉ! だってあたしの笠本くんが相手だもの! お父様とて楽勝とは行かないわよぉ!」

「なるほど。戦いはこれからってところですね。ところで……」


 深雪は眼鏡越しに冷ややかな目を、エリィとは逆の隣の席へと送る。

 そこでは特大サイズのポップコーンのバケツと、白い泡をかぶったビール入りのコップを手にカーティスが野次を飛ばしていた。


「昼間から、そんなに飲むんですか?」

「いいじゃねえかよ。試合観戦なんざ酒飲みながらじゃねえと盛り上がらねえからな! おらぁ、そこガンガンぶつかってけぇ!」


両隣を上品と下品に挟まれて、深雪はため息を付きつつも、試合に目を向けた。


(半年戦争の英雄と、ExG能力無しで互角……。やはり笠本さんは只者ではありませんね)



 ※ ※ ※



 裕太は、確かに学業という面では頭が良い方ではない。

 しかし、ことキャリーフレーム戦に関してだけ言えば、天才クラスの思考能力を持っていた。

 とっさの機転と理詰めによる戦いこそが、裕太の本領である。


 互いにビームセイバーを抜き合い、光の剣が交差する。

 ビーム同士がぶつかる斥力でバチバチと刃が光る中、一瞬の鍔迫つばぜり合いの最中に裕太は思考を巡らせた。


(このタイミングで近接戦を仕掛けたということは、射撃武器は向こうも無しか……!)


 図らずとも、有利な状況に持ち込めた。

 相手の腕前がどうであれ、接近戦にかけてはこと裕太の独壇場である。


 しかし、届かない。

 一撃がどうしても届かなかった。


 いかような振りでも、どのような方向からの斬撃でも、そのことごとくを正確に防がれる。

 ビームセイバーによるチャンバラに自信のあった裕太でも、これには堪えた。


 相手の狙いはわかっている。

 こちらに攻め続けさせ、疲弊したところで一撃を加える算段だろう。

 だが裕太は攻めの手を緩めるわけにもいかなかった。

 仕切り直しにと距離を取ろうとすれば、向こうのほうが推力が上なため逃げ切ることはできず、かといって攻撃を止めればそれこそ相手が待っている隙そのものを晒すことになる。


 剣道の打ち込み稽古もかくやといった攻め方を強いられ続ける。

 レバーを握る手に汗が滲み、裕太は頬から流れ落ちる汗で自身の疲労を自覚し始めていた。


 一人で戦うことが、これほど辛かったとは。


 疲労の中、裕太はジェイカイザーの声やエリィの存在が恋しくなっていた。

 ジェイカイザーと出会ってからというもの、裕太は常に誰かと一緒に戦っていた。

 久しぶりの孤独な戦いは、裕太に忘れかけていた母の言葉を思い出させる。


 “肉を切らせて骨を断つ、よ。裕太”


 それ自体は、変哲のない慣用句の一つである。

 しかしキャリーフレーム同士の戦いにおいては、自身の損傷を省みることなく敵を戦闘不能にすることは重要だった。

 特に裕太の母が生業としていた、犯罪者との戦いでは特に顕著だった。


 敵の狙いは明白。

 こちらが取れる手段は数少ない。

 その中で、ExG能力を出し抜いて一撃を入れられる手段を、裕太は講じた。


(イチか、バチかだ……!)


 操縦レバーを握る手に込める力を、少しだけ抜く。

 その加減は神経を伝わり機体に伝搬し、ひと目ではわからないような動きの鈍りとして表れる。

 防御に徹していた〈エルフィス(ストライカー)〉のビームセイバーが、ここで初めて獲物を捉える動きを見せた。


 守りは間に合わない。

 退くには速度が足りない。

 裕太の足は、ペダルを踏み込んだ。


 加速する〈エルフィスMk-Ⅱ(マークツー)〉。

 機体がぶつかり合い、1本のビームセイバーが宙を舞った。

 観客席からオオッっといった声が湧く。


 向かってきた裕太の機体を的確に、〈エルフィス(ストライカー)〉が捉えていた。

 地面に突き刺さった裕太のビームセイバーと、コックピット部をわずかに外して胴体を貫いたビームの刃が、誰しも裕太の敗北を印象づけていた。


 しかし、裕太の勝負どころは、ここからだった。

 ダメージにより外部を移す映像が乱れるコックピットの中で、裕太は念じながらコンソールを操作した。


「ビームシールド、展開ッ!!」


 押し付けた腕の狙い。

 それはビームシールドの攻撃武器への転用だった。


 そもそもビームシールドとは、薄く広いビームの膜を張ることによって相手のビーム攻撃を斥力で弾き、実弾を融解させ無効化する障壁である。

 高速回転させたビームセイバーがその残留粒子によって簡易的なビームシールドを形成するように、ビームシールドを直接押し当てれば近接武器になり得るのだ。


 そして、ビームセイバーではなくシールドで攻撃する意味。

 それは前動作の無さである。

 攻撃行動の初期動作を見てから回避の判断ができるExG能力者に攻撃を当てるには、攻撃の前フリを見せない必要がある。

 そのため、ノーモーションで作動できるビームシールド以外に、当てられる攻撃が思い当たらなかったのだ。 


「届いてくれっ……!!」


 裕太は祈り、手に力を込めた。

 操縦レバー越しに、確かに手応えは感じていた。



 しかし、機体が持たなかった。


 脇腹部を焦がした〈エルフィス(ストライカー)〉と、右肩から頭部にかけてを切り離され倒れる〈エルフィスMk-Ⅱ(マークツー)〉。


「挑戦者、ダウーーーン! 勝者、銀川スグルゥゥゥゥ!」


 裕太は、生涯において3度目となる敗北を喫したのだった。




    ───Hパートへ続く

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