第35話「勇者VS英雄」【Fパート 英雄の気迫】
【7】
開始と同時に放たれた光弾を裕太は横にかわす。
〈エルフィスMk-Ⅱ〉の頭部バルカン砲で牽制しつつ接近を試みるも、弾をすべて回避された上に後方へ飛び退かれ距離が詰まらない。
武器をビームライフルに持ち替え、数発の射撃。
小刻みなバーニア吹かしで巧みに空中で軌道を変えながら、待ってましたとばかりに接近する〈エルフィスS〉。
慌ててビームセイバーへと持ち替えようとライフルを降ろそうとした瞬間、光の剣が一閃を放ち、ライフルの銃口が断面を赤熱させながら宙を舞った。
「ちいっ!!」
相手に向かってビームライフルを投げ捨てつつもそのライフルに向けて機関砲を斉射。
ライフルのエネルギーパックが衝撃で爆発するもすでにそこには敵機の姿はなし。
〈エルフィスS〉は再び距離を離しつつもビームライフルを連射。
裕太はビームシールドで防ぎつつこちらも距離を離し、一旦互いに射程外まで離れていく。
(相手の射撃は鬼のように正確、かつ接近戦にも隙がない……)
額ににじむ汗を服の袖で吹きながら、この一瞬で得た情報を整理する。
瞬間判断能力ではExG能力持ちに敵いはしないが、裕太が勝機を見出すには得意な土俵に誘うしか無い。
(となると、接近しなきゃな……!)
先のビームライフルをめぐる攻防の中で、裕太の中に見いだされた可能性。
それはこちらのライフル投棄に対して、距離を取るという選択肢を相手が取ったことだった。
もしも格闘戦に自信があれば、あそこで取るべき行動は懐に飛び込んでの一撃。
それをしなかったということは格闘戦に対して、何かしらの恐れを持っている可能性があるということである。
ペダルを踏み込み、建造物の間を抜ける。
レーダーを見ながら敵の位置を捕捉。
〈エルフィスMk-Ⅱ〉の手に持つ武器をアサルトライフルに持ち替えさせつつ距離を詰める。
予想通りに、レーダーの光点が動く。
相手が距離を保とうと移動を始めたようだった。
移動先を狙い、アサルトライフルを発射。
ばらまかれた巨大な鉛玉が、〈エルフィスS〉が向かおうとしていた先を塞ぐように弾幕となる。
こうなれば、被弾を恐れて方向を替え、その隙を突いて一気に距離を詰められる。
はずだった。
〈エルフィスS〉はビームセイバーを抜き、機体の手首を高速回転させることで簡易ビームシールドを形成。
鉛玉は残留するビーム粒子の膜に飲み込まれていき、弾幕の途切れと同時にもう片方の手に握られたライフルが反撃とばかりに吼える。
裕太も咄嗟に反転し光弾を横に回避、と同時にライフル下部のグレネードを発射。
炸裂により巻き上げられたコンクリート片が煙幕となり、2機の間に霧の膜が生まれた。
この間にグレネードの装填をと腰部に手をかけた途端、煙を抜けて飛来するビーム。
煙幕越しとは思えないほどの正確な射撃は回避の遅れた〈エルフィスMk-Ⅱ〉を捉えるには充分だった。
肩部の端をアサルトライフルごと貫かれ、裕太は手持ちの射撃兵装をすべて失ってしまった。
(これが英雄の腕前ってわけかよっ……!!)
鉄砲は全滅したが、武器が全てやられたわけではない。
下手に戦いを長引かせれば不利になると踏み、裕太は戦法を切り替えることにした。
晴れた煙の中から、容赦なくビームを連射する〈エルフィスS〉。
裕太は強引にビームシールドを頼りに接近しようと、軸をずらしつつも前進をする。
後方へ飛び退くようにバーニアを吹かせた敵機。
十分に距離を離した相手は、そのまま重力に従って着地をしようとする。
無駄に高度を上げないのは、空中での動きはスラスター頼みになるため直線的になりやすく、射撃の的になる可能性が高いからである。
しかしいくら優れたExG能力者と言っても、前情報なしにこちらのオプション兵装までは把握していないらしい。
賭けに勝った裕太は先程手にとったグレネード弾を勢いよく転がし、頭部機関砲で狙い撃つ。
着地しようとしたところで後方に起こった火薬の炸裂には対応が間に合わなかったようだ。
〈エルフィスS〉の背部バーニアが小さな誘爆を起こし、その衝撃で手からビームライフルがこぼれ落ちる。
すかさず裕太はペダルを踏み、武器を拾う隙を与えぬように接近。
ビームセイバーの切っ先を地面に転がったビームライフルへと引っ掛け、爆発はさせないまでも使用不能にすることに成功した。
「やるね、裕太くん。グレネードランチャーの弾をああいう風に使うとはね」
「せめて一矢はってとこです。勝負はここからですよ!」
「いいね、そのガッツ。半年戦争のときのキーザを思い出すよ」
「キーザ?」
「こっちの話さ。では、ここからが本番だ!」
2機のエルフィスが、再び同時にバーニアから火を吹いた。
───Gパートへ続く




