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第35話「勇者VS英雄」【Eパート 勇者の覚悟】

 【6】


「レディース、アンド、ジェントルメーン! 本日のフレームファイトは特別マーッチ!」


 頭上から、けたたましいアナウンサーの声と大歓声が響き渡る中。

 会場へ向けて機体を運ぶため上昇する大型エレベーターに、裕太は揺られていた。

 背後で膝をつき、コックピットハッチを解放している〈エルフィスMk-Ⅱ(マークツー)〉をチラと見、ため息をつく。


「なーんで、こうなっちまったんだろうなあ」




 時は数時間前に遡る。

 エリィの実家に挨拶しに言っている際に、彼女の父スグルへとかかってきた一本の電話。

 それは今日のフレームファイト大会で行う、エキシビジョンマッチの相手が病で倒れたという報だった。


 この大会は木星圏でも有名な名物大会であり、毎年エキシビジョンマッチとしてかつての英雄と前年優勝者によるタイマンの戦いが行われていた。

 しかし、今日この日にスグルと戦う予定だった相手が病気で出られなくなり、替わりの者として白羽の矢が立ったのがスグルの目の前にいた裕太。


 パイロットとして認められているのも、けして悪い気分ではない。

 しかし、エキシビジョンマッチに出るということはそれすなわち、地球圏最強のキャリーフレームパイロットたる銀川スグルと戦うということでもある。




(勝てるわけねぇだろぉぉぉ!)


 公平を期すために、機体は用意されたものを使う。

 それはすなわち、ジェイカイザーの性能に頼った優位性は得られないということである。

 加えてAIの同乗もなしともなれば、裕太一人の操縦技能での真っ向勝負。

 つまりは、苦手な射撃の腕前をもろに被るのだ。


 相手は能力的には完全無欠な上、高いExG能力持ち。

 ハンディキャップとして向こうの機体は一世代前のものらしいが、正直ハンデになっているかはわからない。

 しかし。


(仮に相手が銀川の親父じゃなくて、それでも同じ技量だったとしたら……弱音は吐けねえよな)


 もしもこの戦いが、敗北すれば仲間の身が危ないような戦いだったら。

 もしも相手が軍人崩れのならず者で、その凶行を止めるための戦いだったら。

 そんな相手に「手加減してください」とは言えないのだ。


 開いた〈エルフィスMk-Ⅱ(マークツー)〉のコックピットハッチから、パイロットシートに滑り込む。

 ハッチを閉じ、操縦レバーを握って神経接続。

 ビリッとした指先の感覚が、裕太の頭を覚醒させる。


 まずは武装のチェック。

 基本となるビームセイバーとビームライフル。

 エルフィスタイプの固定兵装である頭部機関砲はジェイカイザーに搭載されているものと使い勝手はかわらなさそうだ。

 オプション武装として用意されているのは、裕太のリクエストで装備されたビームシールドとグレネードランチャー付きの実弾型アサルトライフル。

 すべての武器を再確認したところで、起動プロセスが完了したようだ。


 ゴン、というエレベーターの止まる音とともにコックピットを包むディスプレイに光が灯る。

 裕太の周りに、歓声を送る観客と六角形の戦場が映し出された。

 戦いの舞台となるスタジアムは、障害物代わりとなる建造物がそこかしこに置かれた広大なフィールド。

 本来であれば5対5で行われるフレームファイトの公式試合が可能なだけあって、その戦場は小さな町一つ分に相当する広さを持っている。


 なお、観客席と戦場の間には時間を停止させた膜・クロノスフィールドによるバリアーが張られており、流れ弾で観客に危険が及ぶようなことはないようになっている。

 そのため、攻撃に関しては外れた弾の向かう先を気にせずに射撃を行うことができ、戦い以外のことに意識を向ける必要はない。


 双方のコックピットもまた、絶対にパイロットを保護するクロノスフィールドを搭載しているため、互いに相手を配慮する必要もない。


「青コーナー! 地球生まれのスーパールーキー! その戦歴はもはや勇者級! 笠本ぉぉぉお、裕太ぁぁぁっ!!」


 威勢のいいアナウンスとともにワァァ、という大歓声が会場を包み込む。

 観客の応援を受ける感覚は久々だが、けして心地の悪いものではなかった。

 


「赤コーナー! 木星が誇る太陽系最強パイロット! 半年戦争の大英雄! 銀川ぁぁぁ、スグルぅぅぅ!」


 向かい側の大エレベーターとともにせり上がってきたのは、半年戦争でのスグルの愛機・初代エルフィス。

 バックパックは形状から察するに、あれは機動性重視のストライクパック。

 確かに初代エルフィスは一世代前だが、ストライクパックを背負った〈エルフィス(ストライカー)〉はビーム・スラスターなる推進機構によって運動性は現行の最新機にも引けを取らない。

 以前にエリィが「お父様のお気に入り」と言い長々としていた説明が思い起こされた。


 不意に、正面のコンソールにスグルの顔が映し出された。


「裕太くん、どうだい? 緊張しているかい?」

「いや、どうやってあなたを出し抜こうかと考えを巡らせてて、それどころじゃないですよ」

「それは楽しみだ。いい戦いにしよう」


 通信が切れ、向こうの〈エルフィス(ストライカー)〉が腰部につけられたビームライフルに手を添える。

 裕太もペダルに足を載せ、戦闘の開始を待つ。



「それでは、フレームファイト。レディー……ゴーッ!」


 2機のバーニアが、同時に炎を放った。




    ───Fパートへ続く

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