第34話「シット・イン・マインド」【Gパート 決着の涙】
【8】
「カエデちゃん、君の心意気は伝わった。後は俺たちに任せてくれ」
「でも……はい。どうかご無事で」
「ああ!」
一瞬の白光とともに姿を消す〈ショーゾック〉。
その跡から走り避難するカエデの姿を確認してから、軽部は〈ザンドール〉へと向き直った。
「照瀬、相手の状況は」
「ビームの射撃兵装は今ので潰せた。あとはビームセイバーとビームシールドだ」
「光の剣盾相手なら……チャンバラをやるには不利か」
ビーム兵器は、対応兵装を持たない相手に対しては一撃必殺に等しい武器である。
刃状にビームを展開するビームセイバーだけでなく、ビームシールドでさえも発振されているビームを押し付けられてはたまったものではない。
警察機体たる〈ハクローベル〉、競技用の〈アストロ〉。
軍用機でない2機に耐ビーム兵装などあるはずもなく、数では優位を取っていても油断のならない状況である。
「軽部。ここはエレベーターガード時代に編み出した、あれを使うときかもしれん。腕は落ちてないよな?」
「ああ、照瀬。毎日のように部員と模擬戦やってるのは伊達じゃねえところを見せてやるぜ!」
「よしわかった……行くぞ!」
照瀬の掛け声に合わせて、軽部はペダルを踏み込んだ。
バーニアから炎を吹かせ、〈ザンドール〉への距離を一気に詰める。
先行する照瀬機を迎撃しようと、横薙ぎされたビームセイバーを屈んで回避し、懐に潜り込む〈ハクローベル〉。
反撃とばかりに電磁警棒を振るうも、敵機は後方へと飛び退き空を切らされる。
しかし、それこそが狙いだった。
「軽部ェッ! 俺を踏み台にしろォッ!!」
「背中、借りたぜぇッ!!」
後方の〈アストロ〉が屈んだままの〈ハクローベル〉の背中を踏みつける。
照瀬機はそのまま軽部機を持ち上げるように姿勢を上げ、勢いを背面越しに受け取った〈アストロ〉が跳躍した。
前と上方という2方面からの同時攻撃に、対応を迷うように〈ザンドール〉が足を止める。
「ツイン!」
「ガード!」
「「アタァーーック!!」」
重力を活かした踏みつけ蹴りと真正面からの警棒の一撃が同時に敵機へと突き刺さる。
頭部をもがれ、胴体へと電磁警棒を突き刺された〈ザンドール〉はそのまま後方へと派手に倒れ、道路へとその機体をめり込ませた。
慌てて脱出する〈ザンドール〉のパイロットだったが、後方に待機していた複数のパトカーにサイレンを唸らせながら逃げ場を塞がれる。
こうして、白昼堂々と発生した愛国社によるキャリーフレーム暴走事件は、犯人の手に手錠がかけられたことで終結した。
この事件における二人のヒーローは、その機体の拳を無言で打ち付け、勝利を祝う。
事件の行く末を見守っていた野次馬の群れが、歓声という形で彼らを祝福した。
【9】
「軽部さん、素晴らしい戦いでしたね!」
「ちょちょ……カエデちゃん?」
コックピットから降りた軽部を待っていたのは、感極まったカエデの抱擁だった。
若い女性に抱きつかれるという初めての状況に、先の戦いのヒーローもたじたじである。
その様子を見てか、他人事のように照瀬がハハハと笑った。
「仲いいなぁ、お二人さん。女日照りの身としては、嫉妬しちまうよ」
「何を言っているんですか照瀬さん! ふたりの息のあったコンビネーション攻撃、思わず見とれてしまいましたよ」
「まぁ、軽部とは古い仲だからあれくらいは、な?」
「お、おうよ!」
「いいなぁ……」
肩を抱き合う軽部と照瀬を見て、カエデがぽつり。
寂しそうな表情で瞳を潤ませた彼女が、表情を隠すように顔を俯かせる。
「私……この世界に来たばかりで友達とかもまだいないから、長い時を過ごしたお二人が、本当に羨ましいです。嫉妬するほどに」
「カエデちゃん……」
「わかっているんです、当然のことだって。私はこの世界に刺客として送られた、あなた達の敵。だから、こうやって普通の人間のように暮らせているのは、この上ない贅沢なんです」
顔を上げ、目尻に雫を湛えたまま、カエデが無理やり作った笑顔を軽部へと向けた。
「だから、これ以上の贅沢は望みません。私は一人ぼっちでも……」
「何を言っているんだよカエデちゃん」
軽部が発した言葉に、驚いたような表情を見せるカエデ。
勇気を振り絞って、軽部は彼女の震える両肩に手を載せた。
「最初はそうだったかもしれないけど、今はマジメにやってるんだ。幸せを求める権利はある。友達を作ることだって許されるよ」
「軽部の言うとおりだ。お前さんの助力があったからこそ、今日の戦いだって勝てた。もう、俺達の仲間だよ」
「軽部さん、照瀬さん……!」
涙を拭い、今度はとびきりの笑顔で軽部へと抱きつくカエデ。
軽部は驚きながらも、平静を装いつつゆっくりと彼女の細い腰へと腕をまわした。
しばらくそうしていると、照瀬が面白くなさそうに背を向け、タバコに火を灯す。
「ま、とはいえだ」
「え?」
「無免許に加え、許可証なしの参戦は褒められんからな」
「えっと……逮捕とかされちゃうんでしょうか?」
「……普通だったらな。まあほら、助けてもらった恩もある。後日にそれらの試験を受けに来て、合格すれば免罪だよ」
意地悪を仕掛けたかったのだろうが、カエデの態度にビビったのが丸わかりである。
照瀬はバツが悪そうに「仕事に戻る」と言って、倒れたキャリーフレームの方へと駆けていった。
※ ※ ※
「今、現場から連絡が入った。先の事件の犯人も、やはりヘルヴァニア人だったそうだ」
机に携帯電話を置いた訓馬がそう伝えると、ジュンナは小さく頷いた。
「やはり、宇宙派のヘルヴァニア人達によって、何かが起ころうとしているのは間違いなさそうですね」
「ああ。ことは地球の……いや、太陽系全体に関わることかもしれん。私も微力ながら調査には協力するよ」
「頼みます。それでは」
深く丁寧なお辞儀をして、部屋を出ていくジュンナ。
彼女の背中が閉じられる扉で見えなくなってから、訓馬は再びコンピューターのモニターに目を向ける。
「私としては今、ヘルヴァニアよりもこちらのほうが気になるのだがね……」
ジェイカイザーの設計図の隅。
搭載する人工知能と書かれておきながら空白のままの枠をにらみながら、老いた目を細める。
人工知能があれほど、人間クサく振る舞うことに、疑問が生じていた。
ジュンナでさえ、感情はあるものの希薄で、言ってしまえばクールな性格という枠から出ていない。
ジェイカイザーのような熱く、愉快で、まるで人間そのもののような人格がどこから来たのか。
それが、今の訓馬が抱く最も大きな疑問だった。
「ジェイカイザー、お前は何者なのだ? 兄上よ、あなたは禁を犯してまで、なぜジェイカイザーを作ったのだ?」
疑問に答えてくれる相手はいない。
訓馬以外は無人の部屋の壁だけが、彼の質問を受け止めるも無言を返すだけだった。
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登場マシン紹介No.34
【ハクローベル】
全高:8.1メートル
重量:5.9トン
日本の中でも、特にキャリーフレーム事件が多く発生する代田署へと先行配備された、七菱製の最新型警察用キャリーフレーム。
前身機であるクロドーベルから、脚部がよりスマートになっているがドルフィニウム合金製の装甲によって安定感を確保。
更にパワーアップしたオートバランサーによって軽業師の様な芸当も理論上は可能であるなど、運動性が遥かに向上している。
名前は前身機の由来である「黒いドーベルマン」から発展し、「白い狼」からもじっている。
武装として、民間機だけでなく軍用機に対しても効果抜群の電磁警棒を引き継ぎつつも、中距離火器として帯電したリベット弾を打ち出すスタンリボルバーが新たに採用された。
【次回予告】
ついに木星へとたどり着いた裕太が連れてこられたのは、エリィの実家だった。
彼女の実父であり半年戦争の英雄である銀川スグルに「娘はやらん」と告げられてしまう。
あれよあれよと言う間にスグルとキャリーフレーム戦を行う羽目になった裕太に、勝ち目はあるのか。
次回、ロボもの世界の人々34話「勇者VS英雄」
『相手は銀河最高峰レベルのパイロットだが、恐れるに足りん!』
「恐れない要素がどこにあるんだよ! 勝てるわけ無いだろ!」
『大丈夫だ! 我々は勇者である! つまりは主人公なのだからな!』
「相手も戦時中は主人公みたいなもんなんだぞ……!」
『ぬううっ!?』




