第34話「シット・イン・マインド」【Dパート 遭遇】
【5】
「そういや、神楽浜の方はどうだった?」
向き合って最初の話題は、照瀬からだった。
「初戦敗退。主力の内宮が抜けたのが痛かった。地区大会は決勝の義賀峰もエースを欠いていたから何とかなったが、全国は辛いよ」
「カグラハマって何ですか?」
そう言って首をかしげるカエデ。
異世界出身の彼女が知らないのも無理はないな、と思いつつ軽部は説明モードに切り替える。
「正式名は全国高校闘機大会。高校生によるキャリーフレームバトル・フレームファイトの全国大会だよ」
「輝竹島神楽浜町の神楽浜総合闘機場でやるから神楽浜。野球で言ったら甲子園みたいなところだ」
「フレームファイト……」
「まあロボット同士をバトらせる競技みたいなものさ。俺は高校でキャリーフレーム部の顧問やってるからな」
事実、全国大会たる神楽浜に行っていたためしばらくこの町を離れていたのだ。
行くからにはベストエイトとかには食い込みたかったが、やむを得ない事情とはいえ主力を欠いたチームでは初戦が関の山だった。
「行けただけいいじゃねえか、神楽浜」
「野球部の方は甲子園勝ち進んでるからな。同じく名門部として期待されてる身としてはそうも言ってられないわけだ」
コーヒーを飲み干し、店員におかわりを注文する。
カラのカップを手に持った店員がテーブルを離れたところで、軽部はふと思い出した。
「そうだ、照瀬。お前、俺に用事があって呼んだんじゃないのか?」
「ン……まあそうなんだが、女の子がいるトコで話すのもなぁ」
「下世話な話か?」
「いや……まぁ、いいか。最近、お袋が結婚はまだかと急かしが酷くてな」
そう言って携帯電話のメッセージアプリの画面を見せる照瀬。
そこには2日に一度単位で催促する文章が返信も待たずに敷き詰められていた。
「……気にするなよ。慌てて作ろうと思って相手なんか見つかるもんじゃないし、変な女に引っかかったらそれこそ泥沼だぞ?」
「わかっちゃあいるが、お袋の心配も理解できちまうんだよ。30過ぎて国家公務員やってんのに浮ついた話ゼロ、って言われたら俺だって焦る」
「別にいいんじゃないですか?」
「「え?」」
黙っていたカエデの突然の援護。
思いもがけない方向からのフォローに、三十路ふたりがコチンと固まる。
「ええっと……ほら。恋も出会いも来るときは一瞬ですし、明日突然あっいいなと思う人と出会うかもしれないじゃないですか」
「ハッハッハ……異世界人に諭されちゃ仕方ないな」
「それ、関係あります? タズム界でも女の子は恋もするし結婚もしちゃうんですよ?」
「いやいや、カエデちゃん。君はいいことを言った! そのとおりだよ、悩んでも仕方ないんだ。せめて、出会いのときが来たときに恥じないよう、毎日を一生懸命やることが俺たちにできることだ!」
数秒笑い合う男二人。
ふぅ、とため息をついて携帯電話の画面に向かった照瀬をよそに、軽部はカエデへと耳打ちする。
「……カエデちゃん。コンビニの知り合いとかでいいから、合コンとか開けないかな」
「ゴーコンって、男女が何人かであつまるあの?」
「そうそう。頑張るとはいえ、出会いがないと始まらないからさ。頼むよ」
「軽部さんも参加するんですか?」
「そりゃあモチロン……」
「じゃあ嫌です」
「えっ、どうして?」
「それは……」
カエデが頬を赤らめて何かを言いかけたその時だった。
背後で大爆発が起こり、乗用車が宙を舞う。
悲鳴が大通りを包み込み、皆が一方向へと逃げるようにかけていく。
「な、何だ!?」
「はい、こちら照瀬巡査部長! 隊長……え? 愛国社のテロ……ええ、知ってます。なぜなら……」
通信機越しに太田原と話す照瀬の前でズシンと地響きが走り、テーブルの上のカップが揺れた。
道を塞ぐ自動車を、巨大な緑色の脚が蹴り飛ばし、ビルにぶつかった車は爆発し炎上をする。
「今、目の前でその事件が起こりましたからね」
…………Eパートへ続く




