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第33話「降臨祭の決戦」 【Gパート 黄金の真実】

 【9】


「かあ……さま……!?」


 銃弾を受けた胸から血を吹き出し、リンファが倒れる。

 ドクドクと流れ出る生命の紅が、床を染めていく。


「……ハッハッハ! バカだな、お前は! 姫巫女を救うために殺されたんじゃ、本末転倒じゃねえか!」

「母様! 母様、どうしてわらわを……!!」


 シェンは駆け寄り、ヤンロンがいるのも忘れて衣装を血に染めた母を抱き起こした。

 身体に空いた生々しい穴から、とめどなく血が流れ出る。


「シェン……これが、あの人の望みだったから……。あなたのことを守ってくれと、頼まれたから……」

「あの人? 姉様あねさまか!? だからといって、母様が死んでは……!!」

「いえ、違います……。あなたの母は、リンファは……」

「母様……何を言って……っ!?」


 その時、シェンは自分の目を疑った。

 凶弾を受けたリンファの傷跡が、みるみるうちにふさがっていく。

 流れた血が金色に変わり、吸い込まれるようにリンファの身体へと集まっていった。


「あなたの母上は、1年前に亡くなりました」


 まるで撃たれたことが無くなったかのように、立ち上がるリンファ。

 シェンとヤンロン、この場にいる二人はあまりの事態に言葉を失い、固まっていた。


「この……死にぞこないがッ!!」


 一度は降ろした銃口を、再びリンファへと向けるヤンロン。

 しかし、その銃が鉛を吐く前にヤンロンの身体をどこからか現れた狼が体当たりで吹き飛ばした。


「母様……? これは……!? いや? あなたは? ……母様なのですか!?」

「全ては1年前、反政府軍の放った銃弾があなたを捉えた時に始まりました。シェン、あなたを庇ったリンファはその傷で息を引き取ったのです」

「じゃが……たしかにこの1年、母様はいた! 確かに……」

「“私”が成り代わっていたのです。国の混乱を避けるために」


 リンファの身体が、黄金像のように金色に染まる。

 そのまま、まるで輝く粘土のように形を変え、シェンが見慣れた……この1年間求めていた者の姿となった。


「あね……さま……!!」


 それは確かに、襲撃事件の後に姿を消した姉様あねさまの姿。

 外から流れ着き、町で人気ものになり、 リンファの世話役となった女性の姿そのものだった。

 そして、先ほどヤンロンに体当たりをした狼もまた、金色の粘土となり形を変え、金髪のおさげをした女の子の姿へと変わる。

 その子は、姉様あねさまの手を握りにっこりと笑った。


「お母さん、お役に立てましたか?」

「ええ、スレイブ032……金海サツキ。ありがとう」


姉様あねさま、これはどういうことじゃ!? わらわは何も理解できぬ!」

「私達は水金族と名乗る、分子レベルの擬態能力を持った液体生命体です。そして私はすべての水金族を産み落としたマザー。そしてこの子は、32番目スレイブであるサツキです」

「水金族……?」


 目を白黒させるヤンロンとシェンへと、姉様マザーは語った。

 今から十数年前、マザーは太陽系のここ・小惑星帯メインベルトへと迷い込んだ。

 漂う隕石を吸収しながら成長する内に、光国グェングージャのあるスペースコロニーを発見。

 直系の分裂体を生み出し、周辺の宇宙船で事故死した地球人の女性の姿へと変えて、光国グェングージャを訪れたという。


 最初こそよそ者ゆえに拒まれもしたが、優しい心を持った人たちによって暖かい歓迎を受け、マザーは徐々に人間に対しての興味を持った。

 宇宙船の存在から、光国グェングージャの他にも人間が住む場所があることを予測したマザーは、本体からさらに分裂体を生み出し宇宙に放ったという。

 その分裂体は宇宙を漂う間にも隕石やスペースデブリを食べてまた分裂し、そうやって無数に産まれたスレイブの内、成長が著しかったものを人間へと擬態させ、地球社会の中で「ヒト」を学ぶように促した。


 それは感情であり、それは精神であり、それは心だった。

 スレイブが学んだ情報は宇宙に浮かぶ本体を通してマザーへと伝達。

 精神を徐々に成熟させていったマザーは、光国グェングージャの人々とのコミュニケーションで学んだことを実践し、そして彼らの社会に自然と溶け込んでいくことに成功した。

 リンファの世話役として宮殿に選ばれたのも、ちょうどその頃だったという。


 その後も太陽系各地で人間として生活するスレイブたちから情報を貰いながらも、シェンの成長を見守っていた。

 当時兵士の一人だったヤンロンから好意を向けられてからは、愛を知るために32番スレイブであるサツキに感情を学ばせたりもした。

 なお、生前のリンファはマザーが人間でないことと、その特性を知った上で信頼をおいていたらしい。


 しかし、転機が訪れてしまう。

 1年前の銃撃事件である。

 その時、シェンを庇い凶弾を受けた本物の女帝リンファは重症を負い、マザーに後を託して息を引き取った。

 リンファの最後の願い、それはマザーに女帝リンファを演じさせ、国の混乱を避けるとともにシェンを守ること。


 マザーはリンファとなった後、女帝が嘆いていた無能力者を差別する政策の尻拭いを始め、少しでもリンファの名誉を保とうとした。

 しかし先日の襲撃で、兵士を辞めたヤンロンが反政府軍にくみした理由が元の姿を捨てた自分だと知ったことで心が動いたという。

 自分の存在が不幸を生んでしまったのなら償わなければ。

 その思いで今日、ヤンロンとシェンの前で正体を明かすことを決めたと……。



 マザーの説明を聞き終え、ヤンロンが表情を歪ませる。


「なんだよ……。じゃあ、俺は愛する人に銃を向けるために反政府軍に入ったってのか? これは傑作だ……」

「リンファさんのために黙って置くのが得策と思っていましたが、そのためにあなたが傷ついたのならば……謝罪します」

「頭を下げるな、俺がますます惨めになっちまう。俺は、お前のためにお前を殺そうとしていたんだ」


 立ち上がり、手に持っていた短機関銃を投げ捨てるヤンロン。

 彼はそのまま背を向け、外へ向かって歩き始めた。


「ヤンロン、どこへ行くのじゃ!?」

「俺は、この国がこのままでいいとは思ってねえ。いつか必ず、この国を解放する」

「ですが……」

「ヘッ……ヘルヴァニアにつくのがこの国のためだとわからせるために、あがくだけさ」

「待つのじゃ、ヤンロン!!」


 シェンが追いかけようとしたその時、深緑の装甲をまとった巨大な腕が舞台の裏口から伸び、ヤンロンを掴んだ。

 その腕の先には、色が変わり片腕を失った〈クイントリア〉の姿。

 腕に掴まれたヤンロンは、真紅の髪の女の子が操縦するコックピットへと飛び込み、閉じるハッチの奥へと消えた。


「ヤンローーーンッ!!」


 シェンの叫びを振り切って、〈クイントリア〉は空の彼方へと飛び去り、あっという間に見えなくなった。





  …………Hパートへ続く

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