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第33話「降臨祭の決戦」 【Dパート 漆黒の牙】

 【6】


 バキバキに痛む背中を抑えつつ、裕太はパイロットシートに腰掛け直した。

 あくびをしながらレーダーに気を配っていると、コンソールに表示される内宮の顔。


「なんや、辛そうやな。それにしても、何でわざわざ独房に寝に行ったんや?」

「トイレに行ったら帰り道がわからなくなったんだよ。廊下よりはマシだろと思ってな、いてて……」


 少し慣れたとはいえ劣悪な寝床は裕太にダメージを蓄積していく。

 しかし、その不調を言い訳にせぬよう気合を入れなきゃいけないのもまた事実。

 降臨の儀式を前に舞台へと集まる観衆を見れば、この人々を守るために戦わなければと覚悟も決まる。


 時間は正午。

 草原の中に立てられた舞台の周囲は降臨祭でお祭りムード。

 その周囲を守るように配置された3機の〈ザイキック〉が警戒する中、裕太たちは会場からやや離れた位置で待機していた。


 このポジションの意図は一つ。

 敵主力を確実に迎え撃つことである。

 確認した中で最も手強い反政府軍の戦力〈クイントリア〉は、ハイパージェイカイザー以外では太刀打ちはできない。


 先陣を切るか、あるいは後詰で来るか。

 そのどちらでも対応できるような配置がこのポジショニングだった。


「内宮は大丈夫か? その機体」

「昨日に慣らしはさせてもろたけど、まあまあって感じや。操縦系統は基準仕様やから問題はないとして、ガンドローンが満足に扱えるかっちゅうところが不安やな」

「お前ならできるよ」

「気休めでも嬉しいわ」

『裕太、シェンちゃんが出てきたぞ!』


 ジェイカイザーに促され、警備の〈ザイキック〉から送られている映像に目を向ける。

 厳かな飾り付けをされた舞台の上にシェンが姿を表し、観衆に向かって一礼をする。

 普段の格好とは違う薄目の衣装を着込んだ彼女は、幼さを感じさせない色気を醸し出している。


 タン、と靴で舞台を踏み鳴らし、巫女たちの楽器演奏とともに始まる舞踊。

 踊りの衣装についているひらひらとした装飾が、シェンの動きを追うように舞い、跳ね、空を薙ぐ。

 目を閉じて回転し、ステップを踏み、小さな体が舞い踊る。

 その見事な儀式の舞に、裕太は目を奪われていた。


『あれが神への踊りか。なるほど、私の心を打つ良い踊りだ!』

『あなたはただ、彼女の薄手の衣装にいやらしい視線を送っているだけでしょう?』

『ぐぅ……』


 聞き慣れた夫婦《AI》漫才に乾いた笑いを浮かべつつ、シェンの踊りを見届ける。

 演奏の終わりとともにシェンが一礼し、舞台の奥へと消えていったところで画面に警告が走った。


『ご主人さま、レーダーに感です』

「いよいよか。行くぞ、内宮!」

「がってん!」


 ペダルを踏み込み、ハイパージェイカイザーのバーニアが吼えた。

 


 【7】


 戦端を開いたのは、黒い球体から放たれたビームだった。

 咄嗟に回避したハイパージェイカイザーと〈キネジス〉の間を抜けた光弾が、青々とした草原に黒い焦げ目を刻む。

 直後に飛来した〈ザイキック〉が反政府軍所属を示す緑の装甲に光を反射させながら、ビームセイバーを振り上げつつ内宮へと攻撃。

 〈キネジス〉はその一閃をビームセイバーで受け止めつついなし、背後を取り〈ザイキック〉のバーニア部ごと片腕を切り落とす。


 一方、球体から放たれるビームの嵐を、空中で巧みに軌道を変えつつハイパージェイカイザーが回避する。

 数十秒の回避の後に、内宮機と離されるように誘導されていたと気づいた頃に、漆黒の装甲に身を包んだ〈クイントリア〉がビームセイバーを抜き接近戦を仕掛けてきていた。


「くっ……! 分断が狙いだったのか!」

「我らの主はお前の戦闘データを欲している。付き合ってもらうぞ」


 広域通信で〈クイントリア〉から伝えられる、ゼロナインの声。

 その発言の意図を考える暇も与えられず、敵機の左肩に残っていた球体が宙に浮いた。


「インベーダー、奴へ喰らいつけ」


 ゼロナインの冷たい声に呼応し、インベーダーと呼ばれた球体状のガンドローンがその周囲に輪状のビーム刃を形成しつつ回転する。

 間を置かずに高速で飛来する黒い球体を、反射的に形成したフォトンフィールドで受け止める、が。


『裕太、かわすんだ!』

「にいっ!? 耐えられねえのか!」


 回転するビーム剣の乱打は、一撃の衝撃を軽減するフォトンフィールドとは相性が悪かった。

 僅かな時間に無数の斬撃を受けた翠色のフィールドはいともあっさり砕け散り、回避の遅れたハイパージェイカイザーの胴部にインベーダーの光る牙が浅く突き刺さる。

 慌てて後方に飛び退きながらジェイブレードを抜き、射撃モードでフォトン弾を発射。

 しかし狙いの逸れた光弾は最低限の動きで球体に回避され、お返しとばかりにビームが放たれた。


「やっぱ、一人だと照準が甘いか……!」

『私達も支援はしていますが機体制御に処理を取られている分、手動での臨機応変な射撃管制が無いと厳しいですね』

『裕太も私も射撃に関してはノーコンだからな!』

「自慢げに言ってる場合かよ……っと!!」


 2,3発ビームを回避した後、放たれた4発目のビームをビームセイバーで打ち返す。

 急な反射に回避が間に合わず、インベーダーへと光弾が突き刺さる。


『やったか!』

「やってねえっ!!」


 ビームを受けた球体から黒い塗料が剥離し、その下から深緑の装甲が顔を出す。

 そういう防御兵装だったのか、それともビームの当たりそこないか。

 画面に表示された警告を見て反射的にペダルを踏み込み、眼前を下から飛来したビームが通り過ぎた頃にはどちらかと考えている余裕はなくなっていた。


「ExG能力を持たずにこれほど戦えるとは、面白い」

「るせぇっ、こっちはいつもギリギリなんだよ!」


 ハイパージェイカイザーの頭部を真下に向けてバルカン斉射。

 弾が届くどころか射撃前に回避行動を取られ、無人の野に吸い込まれる弾丸が虚しく土煙を巻き上げる。

 背後を取られた形にはなるが、すぐさまスラスターを噴射して振り向きざまにビームセイバーで斬りかかる。

 不意打ち返しをした形の一撃であったが、呆気なく〈クイントリア〉のビームセイバーで受け止められてしまう。


「なる程。反射能力は常人以上ではあるが、能力者には足りない」

「こいつ……強い!」


 相手がグレイの時以外で、初めて腕の差で苦戦を強いられる裕太は、冷や汗で頬を濡らした。




  …………Eパートへ続く

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