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第33話「降臨祭の決戦」 【Cパート 夜の語らい】

 【4】


「なるほど。わらわの祖先の故郷たる惑星からの亡命者が、使徒様の住む星へと……」


 すっかり日も落ち、明日の降臨祭を迎えるまでの準備をすべて終えた裕太たち。

 シェンの部屋に3人で集まったのは、彼女へと後回しにしていたイェンス星についての説明をするためである。


 訓馬もとい、フォルマット・ストレイジの出自。

 ジェイカイザーを造った科学者デフラグ・ストレイジの存在。

 シェンだけでなく、事情を知っていなかった内宮も興味深そうに裕太が語る話に相槌を打つ。


「このコロニーがイェンス星飛び出したのて、何百年も昔やないんか?」

「わらわの知る歴史では、神が光国グェングージャを産み落としたのは150年前あたりと記されておる」

『えらく大昔の話だな』

「と言っても150年って俺たちにとっちゃ長い年月だけど、銀河レベルの考え方だと割と短いらしいしなぁ」

『ご主人様、そもそも地球文明の発展が早すぎるのですよ。地球だと100年どころか、10年の開きですら別世界ではありませんか』


 ジュンナの言いたいことも最もである。

 通常、文明の発展や変化は銀河レベルの常識だと何百年に一度技術の発展が起こるという。

 しかし、地球のテクノロジー発展速度は日進月歩。

 高度情報発展時代にあった21世紀前後など特に、数年の過去があっという間に歴史書の出来事レベルと揶揄されるほど、人々の生活が変異していたという。


 人型機動兵器の発展一つとっても、旧ヘルヴァニア帝国で50年選手の重機動ロボが当たり前な中、地球では新型キャリーフレームが3年も前線を張れればいい所。

 これもひとえに地球の兵器メーカー各社の熾烈な開発競争と、宙賊の存在など兵器運用が必要となる太陽系情勢がなせる技である。

 

 地球文明が銀河のイレギュラーであるということを、裕太たちは改めて痛感する。


「……とにかく、そうと分かったら俺たちにとっても明日の戦いは他人事じゃない。ここはジェイカイザーの故郷のようなものだからな」

『嬉しいことを言うじゃないか裕太! 私も明日はフォトンリアクターを全開にして戦うぞ!』

「なんだかんだ言っても、あんさん達は相棒同士なんやなあ」


「相棒同士といえばじゃが、前から気になっておったのじゃが……使徒様とコヤツは、恋仲なのか?」

「「へ?」」


 笑い合っていた中に突然投げ込まれたシェンの発言に、裕太と内宮は同時に固まった。

 そんな二人の様子など意にも介さないように、シェンは言葉を続ける。


「えらく仲が良いようじゃし、同じ場所から来た男女じゃ。そういう関係かと思っておったのだが、違うのかの?」


 顎に手を当て首をかしげるシェンに、裕太と内宮は黙って顔を見合わせ、互いに頬を赤く染める。

 確かに、内宮は以前に裕太へと告白した。

 その好意を裕太もわかっているし、嫌だとも思っていない。

 しかし、裕太にはエリィの存在もある。

 二人の女性による板挟みへの回答を、裕太は未だ出せないでいた。


 言葉失った二人の代わりに助け舟を出したのは、裕太の携帯電話から声を発するジュンナだった。


『お言葉ですが、彼らの関係は単なる恋愛感情では語れないような関係にあります。シェンさまが理解をするのには経験が不足しているかと』

「むぅ、機械のくせに言うのう。まあなんじゃ、聞いてみただけじゃよ。深い意味はないぞ?」


 バツが悪そうに視線を逸らしそっぽを向いたシェンに、裕太と内宮は乾いた笑い声を送った。



 【5】


「ったく、何で男のトイレが1階にしか無いんだよ……」


 窓の外から聞こえる虫の音を聞きながら、裕太は明かりの消えた薄暗い廊下をひとり歩く。

 内宮とシェンが寝静まった後、尿意に目を覚ました裕太は用を足しに部屋を出た。

 幸いにも首輪の紐は寝てるシェンが掴んでいなかったため出歩くのは簡単だったが、シェンの部屋のある2階には男性用トイレが無い。

 広い宮殿内を虱潰しらみつぶしに歩き回り、やっと見つけたトイレに駆け込み、スッキリしたまでは良かったのだが。


「……あれ、部屋に戻るにはどっちだっけか?」


 階段を登り、あたりを見渡し、頭を抱える。

 トイレを探すのに無我夢中で、往路をすっかり忘れていた。

 巨大な宮殿の中は非常に入り組んでおり、あまり内部構造を把握していない裕太にとっては迷路にも等しい。


 おぼろげな記憶を頼りに廊下を歩いていると、人影がひとつ裏手のバルコニーへと出ていくのが見えた。

 巡回の兵士だったら道を聞こうと思い、その影を追う。

 人影が兵士のものではないことに気づいたのは、人工太陽の放つ月明かりを真似た淡い光に照らされたリンファが、バルコニーで椅子に座ったまま振り向いてからだった。


「あら、あなたは……?」

「ちょ、ちょっと道に迷っちゃいまして……アハハ」

「ふふふ。せっかくですから、少しお話でもしませんか?」


 足早に立ち去ろうとした裕太を、柔らかな声が止めた。

 ここで下手に逃げ出して不審に思われるよりは、話に付き合ってほとぼりが冷めたあたりで道を聞くのがいいだろう。

 そう思った裕太は、リンファの誘いにゆっくりと頷いた。


 バルコニーへと足を踏み入れ、リンファの正面に位置する椅子へと座った裕太は、改めて彼女の顔を観察した。

 ほうれい線が少し浮き出つつもシェンに似た整った顔立ちに、スラリと伸びた黒い長髪。

 柔らかくも儚げな笑みを浮かべるその姿は、とても反政府軍から命を狙われる暴君には見えなかった。


「笠本さん。やむを得ず、牢屋へと閉じ込めていまい申し訳ございませんでした」

「え……」


 突然頭を下げ、謝罪するリンファに裕太は戸惑う。

 シェンが言うには、裕太が牢に入れられたのはExG能力が無い故に反政府軍の関係者と間違われたからである。

 光国グェングージャでも一番トップの存在であるリンファが、このように謝るとは思ってもいなかった。


「いや、まぁ……牢屋にブチ込まれたことはムカついているけれど。俺なんかに謝ったら体裁とかまずいんじゃないですか?」

「いえ。あなたは光国グェングージャの為に戦ってくれる戦士で、ジェイカイザーの担い手であるあなたには謝らなければなりません」

「わ、わかったから頭を上げてくれ」


 状況に耐えかねた裕太に促され、頭を持ち上げるリンファ。

 本当にこんな女性が、恨まれるほどの悪政を行ったのかがわからなくなる。

 シェンは一年前の降臨祭で襲撃を受けたあと、女帝は人が変わったようだと言っていた。


「リンファさん、あなたは怖くないんですか? 明日、もしかしたら殺されるかもしれないのに」

「恐怖はありません。女帝として行ったごうが精算されるだけですから。神像の前で裁きがくだされるのであれば、民たちも納得するでしょう」

「でも、あなたが死んだらシェンや宮殿の人たちは悲しみますよ」

「遅かれ早かれ、別れは来ます。それが寿命によるものか、人の手によるものかの違いなだけです」


 微笑みながら、女帝リンファは自らの死をも厭わぬ言葉を綴る。

 どこか、自分のことなのに他人事のような考えを述べる彼女に、裕太の中にモヤモヤとした感情が渦巻いた。


 この人は、死んでいい人間なんかではない。


「俺は、あなたを死なせやしませんよ。正直、俺は光国グェングージャのことなんてよくわかってません。ジェイカイザーの故郷のようなものと言っても、ここはコロニーですから別の場所です」

「では、なぜ?」

「人の死によって生まれる悲しみを、見たくないだけです。だから、明日はあなたを守ります」


 裕太がそう言うと、リンファは一瞬驚いたような顔をしてから、ニッコリとほほえみ直した。


「ふふ、ありがとう。娘があなた達といたがる理由がわかったような気がします」

「娘? シェンが?」

「さて、もう夜も更けます。あなたもお部屋にお戻りなさい。では、良い眠りを」


 そそくさと、逃げるようにバルコニーを去るリンファ。

 彼女の背中が見えなくなってから、裕太は重大なことに気がついた。


(部屋の場所、聞きそびれた……!!)




  …………Dパートへ続く

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