第33話「降臨祭の決戦」 【Bパート 作戦懐疑】
【2】
「それは、間違いありませんね?」
「はい、女帝様。私が神術にて感じ取った様相なので、間違いはないかと」
女帝リンファが座る玉座の間。
無数の兵士たちとともに彼女の前へと集まった裕太と内宮は、シェンが述べた敵の戦力について耳を傾けていた。
昨日、裕太と共に反政府軍の基地へと拉致されたシェンは、並外れたExG能力によって敵の残存戦力を感じ取っていたという。
それによると、キャリーフレームが7機ほど。うち1機は黒いキャリーフレーム〈クイントリア〉であろう。
あくまでも昨日の情報なため、今日に戦力補充が行われる可能性もあるが、少なくともキャリーフレームが減ることはあれど増えることはないだろう。
一件の後、宇宙と繋がるエアロックは警備が厳重化され、大掛かりな外からの持ち込みが行われればすぐさま連絡が来る体制が整えられている。
それから、武装した構成員は約30名。
こちらの数は多少増減するであろうが、兵士の数ではこちらが上回り、秘蔵の銃器を開放するとのことなので戦力としては数字上優位。
一方、キャリーフレーム戦力はハイパージェイカイザー、シェンが乗っていた〈キネジス〉、それから量産機の〈ザイキック〉が3機ほどとやや心細くある。
前の戦いで大破した〈キネジス〉が数に入っているのは、すでに修復が完了しているためだという。
女帝の手により解放された過去のテクノロジーによって、人型機動兵器の扱い方は技術者たちに浸透しているらしい。
そうでなければ、ワンオフの機体を一日二日で元通りに修復することはできない。
しかし、防衛戦の際にシェンが〈キネジス〉を操縦できるわけではない。
姫巫女という役職であるシェンは、降臨祭の儀式で自らの業務を遂行する必要がある。
こればかりは、降臨祭というものの習わしを遵守する必要があるため、どうしようもないことだということは理解している。
彼女の代わりに〈キネジス〉を戦列に加えるため、白羽の矢が立ったのは内宮。
姫巫女専用機は神聖な者のみが搭乗するべきという考え方もあり、操縦の腕が立ち使徒様と崇められる彼女はまさにうってつけの存在だった。
「ひとつ質問ええか? 祭りの舞台を見てきたんやけど、あんな作りやったら敵のビームでリンファはんもろとも吹き飛ばされかねえへん。そこについて対策はあるんか?」
「対策はありませんが、確信はあります。あくまでも彼らの目的は私の失脚。つまりは観衆の前で反政府軍が女帝である私を殺害する、その瞬間を見せなければならない。それに……降臨祭は光国中の民が集まりますから、無差別な破壊を振りまくのは向こうにとって支持者を失う悪手となります」
「つまりは大火力砲で一掃とか、遠距離からの狙撃とかはないわけやな? なら色々と光明がみえてくるっちゅうもんや」
「舞台の上はわらわが儀式を行いつつも目を光らせるから安心せい。使徒様たちには、直接乗り込む兵を援護する機械人形を抑えてもらえれば」
「わかった、大船に乗った気で居いや!」
【3】
「あんな大口叩いて、大丈夫なのかよ?」
作戦会議を終え、格納庫へと向かう廊下の途中。
裕太は内宮に対してそう問いかけると、それまで自信満々だった彼女の顔に陰りが現れた。
「正直なところ、不安だらけやわ。銃持っただけのペーペー兵士がアテになるとは思えへん。そのうえ前提が、敵さんが誠実であることの一点張りやからな」
それは裕太も感じていた。
防衛に向かない草原に建てられた木のヤグラ。
ガラ空き同然の防備に不安を感じるなという方が無茶である。
しかし。
「神像様の眼前で堂々たる行いを外せば神罰が下るのじゃ。光国に生まれし者の魂に刻まれた絶対の掟に、反政府軍と言えども逆らえはせんよ」
「なあシェン。その神像ってジェイカイザーのことか?」
「無論。連中がなぜ昨日、無人の機械人形や余所者を繰り出したか。その理由は単純。神像様へと直接、この国の者はを仕掛けられないからじゃよ」
「神像さまねぇ……」
内宮に聞いたときから疑問に思っていたことがひとつあった。
それは、この国で崇められている神様的な存在と、ハイパージェイカイザーの外見が瓜二つなこと。
単純に造形が似ているというレベルではなく、像を参考にハイパージェイカイザーを作ったのでは、と勘ぐるレベルでそっくりなのだ。
格納庫へとつながる引き戸が開けられ、その中を見れば謎はさらに深まる。
キャリーフレームのような人型兵器を格納できるにもかかわらず、格納スペースはキャリーフレームを想定としたものより一回り大きい。
そのサイズは、キャリーフレームとしては別格の大きさを誇るハイパージェイカイザーを想定したとしか思えないのだ。
機械的な格納庫に見合わない巫女服姿の整備員たちが、ジェイカイザーの各部を磨いている。
その様子を見上げていると、裕太の携帯電話がブルルと震え、立て続けにジェイカイザーとジュンナのアイコンが画面に浮かび上がった。
『ワハハ、ここは最高だぞ裕太! フォトンリアクターに至るまで隙の無い整備、地球でも受けたことはない!』
「まるでお前の整備法を知ってるみたいだな?」
『ご主人様、あながちそれは間違っていないと思われます』
「どういうことだ?」
意味深な言葉を発するジュンナに対し、首をかしげる裕太。
何についてかを教えるかのように、画面にジェイカイザーの合体シーケンスを描いた映像が映し出される。
『この宮殿の技術者たちによって、ハイパージェイカイザーの自動分離機能がアクティブになりました。操作ひとつで合体前の2機の状態へと一瞬で分離できます』
本来であれば、訓馬の立ち会いのもとに分解作業を行わないとできなかった合体の解除。
地球では資材と技術者の不足が原因でできないと言われていたことが、ここ光国で可能となった。
「もしかして……」
科学技術を一度は捨てたかのような文化。
ジェイカイザーを神と崇め、完璧に整備する技術。
そして、かつてヘルヴァニアの支配下にあったという歴史。
それらの断片的な情報をつなぎ合わせることは、お世辞にも頭がいいとは言えない裕太にも簡単なことだった。
「ここは、イェンス星のコロニーなのか……?」
「いえんす? なんやそら」
「そういや内宮は知らなかったか。訓馬の爺さんの故郷の惑星だよ」
──私は旧ヘルヴァニアの占領惑星、イェンス星の生き残りだ。
夏休みの前、老人が語った言葉が思い出される。
高度な科学技術による汚染から、豊かな母星の自然を守るために技術を封印した文明。
しかし、戦いの知識をも封印したことでヘルヴァニアに為すすべなく占領されたという。
『では、この国は……言ってしまえば私の故郷ということにもなるのか?』
「コロニーだから語弊はあるかもしれないけど、そういうことになるな」
『そうか……』
感慨深そうに口を閉じるジェイカイザー。
彼が自らの出自に関して、あまり情報を持っていないということは知っている。
光国に来たのは全くの偶然であったが、この様な形で故郷に帰ってきたとなっては思うことがあるのだろう。
「なんじゃなんじゃ。わらわをさしおいて盛り上がりおって」
「いて、いてて。首輪を引っ張るな!」
シェンが引っ張る首輪に手をかけながら抵抗する裕太。
すかさず彼女を内宮がどうどうとなだめにかかる。
「まあまあシェンはん。後でゆっくり教えたるさかい、今は堪忍したってや。うちら、整備状況を見に来たんちゃうんか?」
「使徒様がそういうのでしたら……そうですね。皆のもの!」
凛とした声が格納庫中に響き渡ると、一斉に巫女たちが作業の手を止めて集まってきた。
シェンは彼女たちの中へと入っていき、作業の進捗を一つ一つ確認していく。
面倒な説明が先延ばしになったことで、裕太はゆっくりとため息を吐いた。
…………Cパートへ続く




