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第32話「黒鋼の牙」【Hパート 失われた絆】

【7】


 彼女がまだ赤子だった頃、このコロニーに一人の女性が流れ着いたという。

 外から来た人間として最初は忌避されていた。

 しかし彼女の持つ邪念のない純粋な優しさは人々の警戒心を徐々に解いていき、ひと月も経つ頃には町の人気者になったという。

 その頃、幼いシェンは大人が手を焼くほどのやんちゃぶりを発揮しており、暴れ子獅子と揶揄されるほどの状態だったらしい。

 しかし不思議と、その女性と触れ合った幼いシェンはおとなしくなり、すっかり懐いたのだった。

 その功績をシェンの母である女帝に認められた女性は宮殿に招かれ、シェンの育て役として任命された。

 シェンや周りの人達から姉様あねさまと慕われた女性。

 彼女はかつては宮殿で警護兵をしていたヤンロンとも恋仲のような関係となり、その関係をシェンも誇らしく思い応援していたという。


 しかし、1年前に悲劇が起こった。

 先ほどシェンの口から語られた反政府軍による降臨祭での襲撃事件。

 事件の後、姉様あねさまと慕われた女性は姿を消したという。

 町や宮殿では、女性の行方について数々の噂がたった。


 曰く、外の人間が迎えに来て連れ帰った。

 曰く、事件の際に攻撃に巻き込まれ命を失った。

 曰く、宮殿を離れ人しれぬ場所で今も暮らしている。


 どの説も、決定打になる証拠はなく、噂は一つずつ語られることは無くなった。

 そして最後に、圧政を敷いていた女帝に嫌気を指したのではないかという説が残った。

 襲撃事件以前の女帝は機械人形キャリーフレームの運用を始めとした兵器の建造。

 並びに神術……つまりはExG能力が発現しなかった人間を僻地へ追いやるなどの政策を行い、少なからず人々を苦しめていた。

 そのことが廻り巡って、反政府軍が立ち上がるきっかけともなった。


 警護兵だったヤンロンが反政府軍についたのは、おそらくは恋人だった女性あねさまを奪われた恨みを、すべての根源である女帝にぶつけるため。

 女帝の敵となるために、仇の勢力の頭領になったヤンロンの存在もまた、シェンの心を痛めていた。


「そんなことがあったのか……」

姉様あねさまが居なくなってから、母様は人が変わったようにお優しくなられた。最近など、人々に触れ回った神術の有無による差別をなくそうと試みようとしているほどじゃ。けれども、姉様あねさまを失った悲しみが癒えぬ限り、ヤンロンは母様を付け狙うであろうな」


 シェンの頬を、涙が伝った。


「なぜじゃ……。なぜ姉様あねさまは居なくなってしもうたのじゃ……。姉様あねさまさえ居なくならなければ、ヤンロンもわらわも、今も共に宮殿で笑って過ごせておったというのに」


 裕太は、彼女に掛ける言葉が見つからなかった。

 大切な人を失った悲しみは、裕太にも痛いほどわかる。

 それが肉親に近い人物であるなら、なおさらだ。

 しかし、これほど込み入った事情の渦中を幼い身でひとり戦うシェン。

 口が裂けても「気持ちがわかる」とは言えないと思うのは、裕太の優しさの一つの形であった。

 ただ、彼女を慰めるように背中をタオルでさする。

 それだけが今の裕太にできる精一杯のフォローだった。



 ※ ※ ※



 湯から上がった後、シェンを彼女の部屋へと連れ帰った裕太。

 夜になり布団の中でシェンが寝息を立て始めてから部屋の隅で携帯電話を取り出す。

 基地からの帰り道でハイパージェイカイザーに乗った際、内宮の携帯と中にいるAIを交換した裕太は、久々にジェイカイザーと夜風の中語り合っていた。


『聞いたぞ裕太! シェンどのと共に入浴するとはけしからん! 今度のときは私も連れて行け!』

「うるせえ。そんなに良いもんでもなかったぞ。首輪つけられて引っ張り回されたし」

『ほほう、首輪か! 私も気の強い女性に首輪をつけられて犬と呼ばれながら引き回されてみたいものだな! ワハハ!』


 久々に相棒の変態テンションを浴び、腹立たしくもすこし安心感を得る裕太。

 ふとジェイカイザーがヘルヴァニアと戦うために産まれたマシンだということを思い出し、シェンやヤンロンのことを彼に教えてみた。


『ふむ……そのヤンロンという者が言ったヘルヴァニアの後継という存在が気になるな』

「新しくてフレッシュとか言っていたが、もしかして別の帝国が来ていたりするのか?」

『わからぬ。しかし私は今となっては、ヘルヴァニアを悪くは思いたくはないな』

「どうしてだ? 昔はあんなにヘルヴァニア殺すマンだったのに」


 かつての言動を思い出しながらも、相棒の変化に戸惑いを覚える裕太。

 ジェイカイザーは、少し考え込むような間を挟んだ後、神妙な顔つきを画面に写しながら口を開いた。


『銀川どのやナニガンどのなど、ヘルヴァニア人でありながらも良い者を多く見てきたからかもしれん。地球人やヘルヴァニア人、あるいはタズム界の人間やここ光国グァングージャの者たち。どこの人間かという大きな括りでまとめるのは簡単だが、一人ひとりがそれぞれの考え方で味方をしてくれたり、敵になったりする。一概に何人なにじんだからとかで善悪を考えるのは愚かなのではないかと最近は考えているのだ』


「お前らしくない成長だな」

『失礼だな裕太! 私だって色々と考えているのだよ! どうすればジュンナちゃんと蜜月関係になれるか……とかな!』

「前言撤回。お前は成長していない」

『ひどいぞ裕太!!』


 数日ぶりに笑い合いながら更けていく夜の時間。

 明後日の降臨祭、そこで起こる戦いの前に裕太はひとときのやすらぎを堪能していた。



 ※ ※ ※



「なあジュンナはん、聞いて~な。笠本はんたら、うちが浴場に入ってもひと目もくれずシェンはんと語り合っとったんやで?」

『あらたな恋のライバル出現かもしれませんね? これでマスターを含めて4人目ですか。ご主人さまもつくづくモテる人ですね』

「はぁ~ショックやわ~。うちってそんなにオンナとして魅力ないんやろか……って、4人? うちと銀川はんとシェンはんとして、一人多いんちゃうか?」

『私もご主人さま争奪戦には参加しているつもりですよ? むしろひとつ屋根の下で共に暮らす間柄ですから、もっともご主人さまの伴侶に近い存在かもしれませんね』

「なんやて!?」

『ふふふ、冗談ですよ』

「ホンマかいな……」


 一方その頃、内宮は寝床の中で新たなライバルに戦慄していたのであった。



───────────────────────────────────────


登場マシン紹介No.32

【ザイキック】

全高:7.2メートル

重量:3.8トン


 光国グァングージャで運用されている量産型キャリーフレーム。

 正規軍と反政府軍の両陣営で運用されている機体であり、装甲の色で勢力が別れている。

 宮殿を警護する正規軍は紫のカラーリング、反政府軍は緑色のカラーリングとなっている。

 両陣営で装備の差はなく、ビームライフルとビームセイバー、及びガンドローンを搭載している。

 光国グァングージャ内ではガンドローンのことを「シキガミ」と呼称しているが、特に機構に差異があるわけでもなく、あくまでも土地独自の呼び方なだけである。

 反政府軍には神術、つまりはExG能力に長けた者がいないため、ガンドローンは飾りとなっている。


 機体すべてをいちから光国グァングージャで建造したわけではなく、機体を構成するベースはコロニーに流れ着いたJIO製キャリーフレーム「ザンク」である。

 ザンクは数え切れないほどの数が太陽系内で撃墜・廃棄されており、その無数の残骸が漂っている。

 特に現在、光国グァングージャのコロニーが存在する小惑星帯・メインベルトでは火星と木星という2つの惑星の重力に引っ張られあった岩石が滞留しており、その中にはキャリーフレームの残骸も無数に混じっている。

 そのため整備・修理するための資材には事欠かず、機械類の生産力に乏しい光国グァングージャでも安定した運用が可能となっている。

 キャリーフレームを扱うために禁忌とされていた過去の科学知識を用いているため、事情を知っている人間からは疎まれている存在でもある。



【次回予告】


 反政府軍・黒鋼くろがねの牙が襲撃を予告しているにも関わらず決行される降臨祭。

 シェンと女帝リンファを守るため、裕太はヤンロンの襲撃に備える。

 そこに姿を現したのは、〈クイントリア〉を駆るゼロナイン。

 そして、ヤンロンの凶弾がリンファへ向けて放たれた時、光国グァングージャの時代が動く。


 次回、ロボもの世界の人々33話「降臨祭の決戦」


『そういえばシェンどのは何歳なのだ?』

「わらわは華の14歳ですよ。神像様」

『ええい、のじゃロリだから数百歳のロリババアだと思ったのに! 裏切られたぞ!』

「何言ってんだこいつ」


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