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第32話「黒鋼の牙」【Cパート 防衛戦】

 【3】


「うおおっ!? 地震か!?」

『ここはコロニーですから、地震はありえませんよご主人さま。これは……襲撃のようですね』


 地下牢でズーハンと格子越しに雑談していた裕太は、突然の揺れに戸惑っていた。

 情報を整理するなら、攻撃を仕掛けているのは反政府軍という連中であろう。

 見張りをしていた兵士たちも、慌ただしく声を張り上げ走り回り、状況への対応に追われているようだ。


 とは言え、牢に囚われている身としては文字通り身動きが取れない。

 脱走のチャンスと言うならば、絶好の機会であることに変わりはないのだが。



 ※ ※ ※



 ハイパージェイカイザーのコックピットに座った内宮は、緊張に手を震わせていた。

 未知の敵と戦うことへの恐怖を抱いているのはもちろんの事。

 初めて戦闘目的で搭乗するジェイカイザーのメインパイロットシートの冷たさが、機体の正規のパイロットではない内宮に悪寒を走らせる。


「なあ、ジェイカイザー。うち、行けるかな?」

『内宮どのならいける! 心配は無用だ!』

「えらい前向きやな? なにか良いことでもあったんか?」

『フッフッフッ、美人な巫女たちに私のボディを集団で磨いてもらったのだ!! ああ……ここは天国か? それとも楽園か!』

「……あんさんに聞いたうちがバカやったわ。なんか不安になるのがアホらしなってきたわ」


 巫女服の袖を思いっきりくり、操縦レバーに手をかける。

 指先に走る刺激とともに神経が身体と機体を一体化させる感覚に身を震わせ、ペダルに足を乗せる。

 コックピットの内側を覆うディスプレイに光が灯り、正面に開けた草原が映し出された。

 右隣には、同様に出撃体制にあるシェンが搭乗する〈キネジス〉の姿。


「使徒様。敵は表に3機、裏手に4機来ています。裏手は私が受け持ちますので、表はお願いいたします!」

「うちらの他に戦力は無し、か。軽く蹴散らして合流するわ!」

「ご無理はなさらぬよう。いざ!」


 ほぼ同時にバーニア・スラスターから炎を吹かせ飛び出すふたり。

 上昇の後に反転し、宮殿の裏へと回る〈キネジス〉を尻目に、ハイパージェイカイザーに滞空させながら内宮はレーダーに視線を移す。

 くの字型の陣形を組んだ光点が三つ。

 シェンの言った敵機で間違いはないだろう。


「来よったで、ジェイカイザー。そういやエネルギーは大丈夫なんか?」

『丸一晩ゆっくりと蓄えることができたから満タンだ!』

「せやったら、遠慮は無しや!」


 レバーをぐいと倒し、ひねりこむ。

 ハイパージェイカイザーの腕が、腰部にマウントされたジェイブレードを引き抜き、構える。

 刃が展開、射撃モードに移行したブレードを持ち替えながら、正面から飛来する敵機体を迎え撃つ体制を取る。


「射程内まで3……2……1…………今や!」


 展開したジェイブレードの間を翠色の光が走り、空を駆けた。

 視界内に入った3機のキャリーフレーム〈ザイキック〉が空中で身体を傾けつつバーニアを吹かし、光弾を回避する。


(……何や、この感じ?)


 敵の回避行動に既視感を感じる内宮。

 陣形を広げつつ構えたビームライフルを発射する〈ザイキック〉の攻撃を回避しつつ、トリガーを惜しみなく連打する。


 巧みな動きでフォトン弾を回避し、直後に反撃とばかりにビームを放つ敵の姿を見て、内宮は既視感の正体を掴んだ。


「この動き……! ジェイカイザー、敵機に生体反応は!?」

『ぬ? ええと……なに!? 内宮どの、敵は無人だ!』

「思った通りや。多分こいつら動かしとんのは、 IDOLA(イドラ)や!!」


 ビームセイバーを抜いた〈ザイキック〉の1機が距離を詰め、剣を振りかぶる。

 咄嗟にジェイブレードを近接モードに移行させ、フォトン結晶の刃で受け止めつつ後退。

 内宮はお返しにとペダルを踏み込んでキックを放つが、ハイパージェイカイザーの巨大な足が触れる前に敵機はバーニアを噴射して回避する。


『そのイドラとやらは何なのだ?』

「うちがメビウス電子で開発協力しとった人工知能や! そのデータ取りのために、うちはジェイカイザーと戦っとったんやで!!」

『もしや、裕太と出会って間もない頃の?』

「せや! あの時いろんな機体で挑んでたんはこいつを作る為やったんや! けど……なんでこないなところでメビウスのAIが出てくるんや!?」



 ※ ※ ※



「ふむ……今日の反政府軍は動きが違うのう?」


 宮殿の裏手に攻撃をかけてきた〈ザイキック〉を相手にしながら、シェンは思案していた。

 今までの反政府軍は、同じ〈ザイキック〉を使ってはいたが、シェンの手にかかればシキガミと呼んでいるガンドローンで一掃できるほどの腕前しかなかった。

 しかし、今回の襲撃でやってきた眼の前の3機は違う。

 シキガミの放つ光線を巧みに回避し、同時に射撃で反撃を行ってくる。

 

「じゃが、わらわの神術の前では赤子よ!」


 目を閉じ、集中力を高める。

 僅かな前動作から、相手の動きが手にとるようにわかり、数秒後の相手の位置が透けて見える。

 狙って当てるのではなく、攻撃を置く。

 シキガミから放たれる光線に自ら当たりに行くような形で、〈ザイキック〉の装甲にダメージが入っていく。

 剣を抜いて接近し、一閃。

 鋭い突剣の一撃を胴体に受けた敵機が、内部で爆発を起こし四散する。

 爆炎の中を抜け、飛びかかる2機の〈ザイキック〉。

 しかしそのふたつの巨体に、周囲に飛ばしておいた8機のシキガミによるビームの雨が突き刺さる。

 関節部を切り取られるように光線で抉られた敵は、四肢をバラバラに分解させながら落下していった。


「これで3つ。残る1機は……ぬうっ!?」


 不意の方向から放たれた太いビームを片足に受けながら、シェンは〈キネジス〉を跳ねさせる。

 続けざまに別方向から2,3発と飛んでくる光線に対して回避に徹しつつ、ビームを放ってきた敵の方へと視線を向ける。

 それは、回転する黒い球体だった。

 球体の中心部分が一瞬光ったと思うと、そこから光線が放射される。


「反政府軍の新兵器? いや、しかし敵の数が合わぬ……まさか」


 球体がスラスター炎を噴射させ、動きを変える。

 向かう方向は、遠くで静止したまま動かなかった残り1機の敵の方。

 接近する反応が視界内に入り、黒い巨体を顕にする。

 全く未知の機体は、その両肩のスペースに先ほどまでビームを放っていた黒い球体を格納。

 手に持つビームライフルをシェンに向けながらも、肩の球体と同時に3本のビームを放射した。


 シェンはペダルを踏み、レバーを捻じり、〈キネジス〉を空中でくるりと回転させ、光線をかわす。

 同時にシキガミを操作し、黒い敵機の背後へと回す。


手練てだれのようじゃが、神術を持たぬ反政府軍にはこの攻撃はかわせまい!」


 シェンが得意顔でシキガミに発射命令を出す、その瞬間だった。

 敵機の両肩の球体が分離し、空中で高速回転しながらビームを乱れ撃つ。

 いや、ビームの一発一発がひとつの撃ち漏らしもなく、正確に〈キネジス〉の放ったシキガミへと放射していた。

 攻撃と飛行能力しか備えていないシキガミにビームの直撃が耐えられるはずもなく、焼き付いた残骸となったシェンの下僕が地上へと落下していく。


「まさか……あの球体は、シキガミ!?」


 シェンがそう気づけたのは、すでに球体が側面よりビームの刃を出し、回転しながら接近しているところだった。

 迫る光の輪が近づき、〈キネジス〉の両腕に突き刺さる。

 同時に、背部のスラスター部を損傷した機体は、浮力を失い落下を始めた。





  …………Dパートへ続く

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