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勇者系ロボットが目覚めたら、敵はとっくに滅んでた ~ロボもの世界の人々~  作者: コーキー
第一章「覚醒! その名はジェイカイザー!」
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第4話「ドラマの中の戦争」【Dパート 忍び寄る影】

「やぁーやぁー! よく来てくれましたね!」


 井之頭が陽気な声で裕太たちに手を振り、額から汗を流しつつ河川敷の坂を駆け上がってきた。

 額の汗を拭いながら礼をする井之頭に、裕太は軽い会釈を返し月並みな挨拶を返す。

 こちらへどうぞ、と案内するように先導する井之頭についていくように、裕太たちは河川敷へと降りていった。

 川沿いに広がる平地ではテレビスタッフが乗っていると思われる数機の〈ハイアーム〉が撮影機材や大道具とみられるものをせっせと運んでいた。

 その中で、裕太は〈ハイアーム〉2機がかりで運ばれている、キャリーフレームではなさそうなロボットが目に留まった。

 そのロボットはずんぐりした丸い胴体に紫色のトゲトゲとした肩パッドめいた装甲がついており、遠目でもひと目で悪い印象しか受けないデザインをしている。


「井之頭さん、あのロボットは何ですか?」

「ああ。あれは撮影でやられ役にする大道具ですよ。どうです、悪そうでしょう?」


 井之頭に言われて裕太は納得した。

 確かに、あの外見なら劇中劇の一瞬の登場でもひと目で悪側だとわかるだろう。

 そのとき、悪役ロボットを見ながら顎に手をやり考え込んでいたエリィがポンと手のひらに拳を乗せた。


「井之頭さぁん。あのロボットって、もしかしてベースは旧ヘルヴァニアの重機動ロボ〈マグナドーン〉じゃないかしらぁ?」

「あれ? わかっちゃいました? 外装は結構変えたつもりだったんですが」

「マグナドーンは肩パーツの位置が特徴的で、中型機の割には背中のフレームのラインが大型機と同じ形をしていてマニュピレーターも体型の割にはやや大型ってお母様が……あっ」


 早口で解説をまくし立てる姿を見てかぽかんと口を開けたまま固まる井之頭を見て、エリィは顔を赤くしながら恥ずかしそうに首をぶんぶんと横に振り。


「いやぁーん! こんなんじゃお嫁に行けないわぁ! 笠本くぅん、責任取ってぇ!」

「自損事故だろ! 責任持てるか!」


 ふたりのまるで夫婦げんかのようなやり取りを見てか、井之頭はあんぐりとしたまま呆然としていた。


「あれは、エリィさんなりの愛情表現なのでしょうか!」


 的はずれなサツキの指摘に進次郎はやれやれといった様子で「違うと思うぞ……」と静かに否定した。



 井之頭はコホンと咳払いをして場を鎮め、改まった様子で口を開く。


「それでは早速シーンの撮影でもやってみましょうか。笠本さん、キャリーフレームはまだ到着していないので?」


 辺りをキョロキョロと見回す井之頭の様子を見て、裕太は一般的なキャリーフレームの輸送手段を思い出した。


 キャリーフレームを運ぶとき、専用の大型トレーラーに寝かせるように搭載するのが一般的である。

 といっても建設会社のような大規模な組織でない限り、自前のトレーラーを持っていない場合が多いため、その場合はキャリーフレーム運搬を担っている宅配業者に頼んだりする。


 裕太は「驚かないでくださいよ」と前置きして、撮影スペースから少々離れた開けた場所に足を運び、携帯電話を取り出して空高く掲げた。


「来いっ! ジェイカイザー!!」


 裕太の叫びに応じるように地面に見慣れた魔法陣が現れ、その中からジェイカイザーの本体が姿を現した。

 手には前回の事件の後に大田原から贈呈されたシールドとショックライフルを手に持ってる。

 完全に姿を現してから、ジェイカイザーが勝手に動き出し決めポーズのような格好をして声たかだかに。


『愛と平和と奥様の心! 正義の光で守ってみせる! 機甲戦士ジェイカイザー、ただいま見参ッ!』

「……なんだよ、その決め台詞?」

『テレビに出るならと徹夜で考えていたのだ!』


 興奮したような声を出しながらかがみ込んでコックピットハッチを開くジェイカイザーの姿に呆れながら、裕太はジェイカイザーに乗り込んだ。


「いいねぇいいねぇジェイカイザーくん! 一流の俳優ロボットになれるよ!」


 ジェイカイザーのことをどう思っているのか定かでないが、ノリノリでジェイカイザーをおだてる井之頭の声に、ジェイカイザーが音声を弾ませた。


『だとさ、裕太! ロボット俳優を目指すのも悪くないかもしれないぞ!』

「おだてられてんだよてめぇーは!」


 そう言いながら操縦レバーを握り、指先から神経接続を行う裕太。

 そのままジェイカイザーを撮影場所の方へと歩かせて悪役ロボットの前に立たせると、足元から拡声器越しの井之頭の声が聞こえてきた。


「よーし、それじゃあ笠本くん! ぶっつけで本番いってみようか!」


 裕太はよーし、と意気込みながらジェイカイザーのショックライフルを背部のハードポイント(突起)に取り付け、右足から武器を取り出し手に持った。


『ジェイ警棒!』

「……って警棒じゃ格好がつかないか」


 と自分にツッコミを入れつつ警棒を右足に戻した裕太は、足元の井之頭が少し離れたところに置いてあるコンテナを指差していることに気づく。

 その方向にメインカメラを向けると、コンテナの上にキャリーフレームサイズのヒーローチックなデザインの剣が置いてあった。


「そう言うと思って、模造刀ですが用意してありますよ!」

『かっこいい剣じゃないか! 私は気に入ったぞ、裕太!』

「いい趣味してるぜ……っと!」


 裕太はジェイカイザーにその剣を握らせようと近づいて、脚を何かにぶつけた。

 足元に目を向けると、そこには黄金こがね色に輝く巨大な金ダライが無造作に置かれていた。


「井之頭さん、これもまさか撮影に使えって言うんじゃないですよね?」

「いやいや、それはこの後に撮影するキャリーフレーム漫才の小道具ですよ!」


 キャリーフレーム漫才というのがどのようなものかは想像できなかったが、深く機構としたら話が長くなりそうなので黙って模造刀をジェイカイザーに掴ませる。

 そして井之頭から送られた演技指示に従い両手で剣を握りしめ、あたかもヒーローが必殺技を使う前のようなポーズをとった。


『戦争が終わったと知らされはや数週間……! 演技とは言えようやっとヘルヴァニアのマシーンと交戦ができるとは……!』

「相手は動かないデクの坊だし、動かすのは俺だけどな」

「よーし、それじゃあかっこいい啖呵をきりながらズバッとかっこよくお願いしますよ! ……アクション!!」

『世に脅威を与える悪の手先め! このジェイカイザーが成敗してくれる!』


 合図とともに声を張り上げるジェイカイザーに合わせ、裕太はペダルを踏み操縦レバーをぐいっとひねる。

 するとジェイカイザーが跳躍し、そのまま落下エネルギーを斬撃に加えるが如く勢い良く素振りをした。

 すると、悪役ロボットが真ん中から真っ二つに裂けるように割れ派手な爆発を起こし、黒い爆煙が辺りを包み込んだ。

 足元で撮影を見学していたエリィ達は煙を吸い込んでケホケホと咳き込んだ。


「ちょっとぉ! ケホッ……井之頭さん、爆発派手すぎじゃないのぉ!?」


 手で口を押さえながら咳き込み抗議するエリィの横で、サツキは涼しい顔をしながら擬態で作り出したであろうガスマクスをかぶりながら。


「こういう時は備えあればなんとやらですよ!」

「ケホッ……サツキちゃん、天才の僕でもこの事態は想定できないぞ……」

「おかしいですね……こんなに爆発が派手なはずは……!?」


 狼狽した様子で井之頭が言うと、徐々に黒い煙が晴れて視界がはっきりしてきた。

 そして、その煙の中からジェイカイザーでも、悪役ロボットでもない巨大な影が姿を表した。

 キャリーフレーム特有の人型のボディに、重厚な装甲を身にまとったそれは妖しく一つ目のカメラアイを威圧するように光らせた。



    ───Eパートへ続く

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