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第32話「黒鋼の牙」【Aパート 光国の朝】

 【1】


 チュンチュンと、微かに聞こえる鳥の鳴き声が裕太の目を覚ました。

 明かりとして燃える松明が放つヤニ臭さが、ツンと鼻を刺激する。

 投獄されて一夜明け、変わらない状況にため息をつく。


『おはようございます、ご主人様』

「おはよう……。い、痛え、全身がバキバキする」


 痛む背中を軽く叩きながら立ち上がる。

 身体が悲鳴を上げるのは、ひとえに寝床が粗末だからだ。

 藁のような柔らかい植物の枯れ草だけを集め、一箇所にまとめただけの寝具。

 枕も無ければ掛け布団もない、まるで家畜のような寝床は、ベッドという贅沢に慣れた裕太の身体ひしひしと一晩中突き刺さった。


 うんと強めの伸びをして、キョロキョロと周囲を見る。

 扉の横にはドロドロのお粥のような臭い飯。

 廊下の先には兵士の影。

 寝る前は空室だった向かいの牢屋の中には、見覚えのある小さい姿があった。


「お、ニイチャン起きたみたいだな!」

「おいおいズーハン。お前また捕まったのか」


 ニコニコと牢屋の中で微笑む少年の姿に呆れる裕太。

 聞けば、朝食にするために畑から野菜を盗もうとした所をとっ捕まったらしい。


「お前も懲りねえな」

「いんや、こんなにオイラが捕まるのも珍しいんだぞ?」


 この少年が歪んだ価値観を持ったまま大人になるんじゃないかと思いながら、裕太は鼻が曲がるほど匂いのきつい飯が盛られた茶碗に手を伸ばす。

 慣れない土地での過酷な扱いに、裕太の心身は疲れ果てていた。



 ※ ※ ※


 

「おはようございます、使徒様」


 朝日を模した光を放つ人工太陽の暖かさにまどろむ内宮へと、シェンが頭を下げた。

 眠い眉をこすりながらも「おふぁよう……」とあくびと共に返す。


「本日は朝食の後、我らの主君・女帝様へのご挨拶を予定しております。よろしいでしょうか?」

「よろしいもなんも、嫌やと言うても聞かへんやろ。……せや、女帝言うたら、もしかせんでもシェンはんのオカンやないんか?」

「はい。女帝様は我が母上様でもあります。慈愛と先見に満ちた偉大な御方です」


 母親に対しての度を越したかしこまり方に違和感を抱く内宮。

 しかし、この国はどうも常識からかけ離れたところがあるため、そういうものだろうと一人で納得する。


(違う常識ぶつけ合うて、揉めるんは面倒やしな……)


 小さくいびきをかく携帯電話を掛け布団の中へと突っ込んでから、内宮は寝汗で汚れた巫女服を脱ぎ捨てる。

 一糸まとわぬ肌に空気が触れる感覚に、身を震わせる。

 コロニーの中だということを忘れるほど澄んだ空気は、浴びていて気持ちのいいものだった。

 シェンが差し出した新しい巫女服を纏い、帯をキュッときつめに締める。

 着替える前と変わらない格好に着替え終え、携帯電話を布団から取り出し画面をつつく。


「おい、起きぃや」

『ふがっ……! 良い朝だな内宮どの! おほっ、そこに脱ぎ捨てているのは昨日の巫女服! くうっ、着替えシーンを見損ねたかっ!』

やかましい(じゃかぁしい)わボケェ! 朝メシの後にシェンはんのオカンに謁見やてよ。うちらの品位が下がるようなマネせんといてくれな?」

『了解した!』

「……ホンマにわかっとるんやろなぁ?」


 ただでさえ細い目をより一層細め、内宮はジェイカイザーを睨みつけた。




  …………Bパートへ続く

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