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第31話「光国の風」【Fパート 暗き闇】

 【6】


 裕太は藁の寝床に座り、携帯電話の画面を見る。

 ズーハンが寝息をたててから二時間ほどが経過したようだ。

 時刻と日付が携帯電話で確認できるのは助かるが、バッテリー残量が心もとない。

 せめてハイパージェイカイザーのコックピットに持ち込めれば、時間経過で蓄積されたフォトンエネルギーを使って充電できるのだが。

 そんなことを考えていると、砂利を踏み鳴らす足音が聞こえてきた。

 また兵士が臭い飯でも運んできたのかと、鼻をつまんで身構える裕太。


「お、よかったよかった! 笠本はん!」

「内宮、無事だったのか!」


 地下牢に姿を表した内宮と、鉄格子越しに手を握り合い喜ぶ裕太。

 どうやらジュンナの推理はあたっていたようで、綺麗な巫女服に身を包んだ内宮は、彼女が大切に扱われている何よりの証拠である。

 互いに無事を確認し、ほっと胸をなでおろす。


「で、なんで鼻をつまんどったんや?」

「いや、また臭い飯が運ばれてくるかと……」

「うちと違ってひどい扱い受け取るようやな……どれ、うちが出してあげられへんかな……?」


 前かがみになり、牢屋の扉に顔を近づける内宮。

 ダボッとした巫女服の隙間から、裕太は彼女の胸にあるふたつの膨らみが覗き見えていることに気づき、慌てて赤くなった自分の顔を手で覆った。


「笠本はん、どうしたんや?」

「えと、その……内宮、みえてる……」

「見え……? ぴゃあっ!?」


 自分の状態がやっとわかったようで、顔を真赤にして可愛らしい声をあげ、慌てて胸元を押さえる内宮。

 しかし今度は押さえつけられた胸の先端が、薄い布越しに尖って見えてしまう。

 これ以上言うと内宮が錯乱しかねないので、裕太は心臓をバクバクさせながらも言わないことに決めた。


「もう嫌やわぁこの服ぅ……。それにこのカギ、全然よーわからんし……」

「そ、そのカギ俺も見たことがないんだよ。どうしたらいいものか……ん?」


 ザッザッ、と聞こえてくる足音。

 誰かが来たことは確かだが、困った状況になった。

 この地下牢は入り口はひとつで、長い廊下の先に独房が4つある。

 この独房のあるエリアは行き止まりになっており、隠れる場所がないのだ。


「内宮、誰か来た。離れたほうがいい」

「へ? へ? どうしよ、うちここ近づいたらアカン言われとったんや」

「せめて俺と話してたとわからないようにしろ、急げ!」

「は、はひ!」


 慌ててその場を駆け回った挙げ句、空っぽの牢屋の格子に捕まる内宮。

 確かに裕太からは離れたが、これでは行動が意味不明すぎる。

 彼女の行動に呆れていると、足音の主が独房エリアに姿を表した。


「コソ泥ボウズ。そろそろ頭が冷えただろう……おや?」


 ズーハンを釈放しに来たらしい兵士が、珍妙な状態になっている内宮を見つけたようだ。

 乾いた笑いを兵士に送る彼女の姿は、あまりにも痛々しい。


「さ、散歩してたら迷ってしまったんや! 困ったなあ、アハハハ……」

「使徒さま、ここに居てはいけません。ささ、部屋へとお戻りになってください!」

「せ、せやな。ほなほな」


 緊張でギクシャクした歩き方のまま、廊下の方へと去っていく内宮。

 彼女が問題なく帰れたことに安心する裕太を、兵士が槍を持ったまま一瞥する。

 兵士がゴンゴンと鉄格子を叩くと、ズーハンがゆっくりと起きあがり、口からよだれを垂らしながらあくびをした。


「ふああ。もう出られるのかい?」


 反省の色が全く見られないズーハンであったが、気にすること無く兵士は槍の先端を外して鍵穴へと差し込み、回す。

 するとカチャリという音とともに扉が開き、ズーハンが牢屋からゆっくりと出てきた。


「もう二度と泥棒なんてするなよ」

「あいよ! じゃあニイちゃん、お先に~」


 そう言ってズーハンは出口の方へと走り去っていった。

 そして兵士も後を追うように居なくなり、ついでなのか燭台の炎を消していった。

 自分が入っている場所以外、すべての独房が空っぽになり寂しさを感じる裕太。

 明かりを失い、闇に染まっていく空間が寂しさをさらに助長させていく。


 しかし、希望はある。

 内宮が無事であったこと、それと鍵を開ける方法がわかったことだ。

 どうやらこの牢屋の鍵は、どういう仕組みかはわからないが兵士の槍で開けるみたいである。

 明日になって、内宮がうまく動いてくれれば脱出の目処は立つなと考え、裕太は藁の寝床に横になった。


『ご主人様』

「なんだ、ジュンナ?」

『ご主人様はあのようなチラリズムがお好きなのですか? でしたら家に戻られた際、私も下着をつけずに家事をしようと思いますが』

「ばっっっ! 別にそんなんじゃねえよ! 馬鹿なこと言ってる暇があったら何かマシなこと考えろよ!」

『……気を紛らわす冗談のつもりでしたが、かしこまりました。では、おやすみなさいませ』


 この分だと内宮もジェイカイザーに振り回せれてそうだなと思いながら、寝心地の悪い寝床に身を任せて裕太は目を閉じた。

 今日という一日は、あまりにも濃ゆかった。

 央牙島のチンピラ退治に始まり、遠坂艦長との会話。

 それからΝ(ニュー)-ネメシス攻防戦に、グレイとの死闘。


 そこまで思い出して、グレイがどうなったのかが謎なことに気がついた。

 別の場所に飛ばされたのか、あるいはこの近くにいるのか。

 考えても仕方のないことだが、やることのない裕太にはその思案すらもよい暇つぶしだった。


 謎の多いコロニー国家・光国グァングージャ

 なるべくなら長居したくないなと思いながら、裕太の意識は眠りへと落ちていった。



 【7】


 光国グァングージャの外れに位置する寂れた村。

 その一角に存在する薄暗い木造家屋の中、跪いた男が口を開いた。


「……ズーハンという子供の言っていたことが本当だとすれば、外の人間が地下牢に囚われているとのことであります」

「ほう、そうか……それはいい情報だ」


 ワイングラスを傾け酒をあおった男は、ニヤリと笑みを浮かべた。

 報告を共に聞いていた周囲の者たちがガヤガヤと騒ぎ始める。


「俺たちの反政府活動も、そろそろ仕上げをする段階だ。野郎ども、準備は怠るなよ」

「「「イエッサー!」」」


 部屋中の男たちが、一斉に拳を高く突き上げる。

 酒を飲んでいた男が立ち上がり、同様に拳を上げる。


「この光国グァングージャを我等の手に!」

「「「「光国グァングージャを我等の手に!」」」」



「そして…………」



「我らの新たな祖国、ネオ・ヘルヴァニアのために!!」

「「「「ネオ・ヘルヴァニアのために!!」」」」


 この時、時代がゆっくりと動き始めていることに、裕太も、内宮も、シェンたちでさえも、誰も知らなかった。



───────────────────────────────────────


登場マシン紹介No.31

【キネジス】

全高:7.3メートル

重量:3.7トン


 光国グァングージャの姫巫女、シェン専用のキャリーフレーム。

 全身を赤を基調とした刺々しい装甲に包んでいる。

 光国グァングージャではキャリーフレームのことを機械人形と呼び、その全てにガンドローン・式神を搭載している。

 キネジスもその例に漏れず、背部ユニットに式神を6機搭載している。

 他の武器としてはレイピアのような外見をした刺突剣や、ビームセイバーを装備している。

 反応速度が以上に高いシェンのためにピーキーなセッティングをされており、他の者には操縦をすることは不可能。

 外界のキャリーフレームに比べて異様に重量が軽いのは、装甲としての強度はそのままに光国グァングージャの技術でしか生み出せない合金によって軽量化を施しているからである。

 そのため、運動性は全キャリーフレームの中でも抜きん出て高い。


【次回予告】


 光国グァングージャで一夜を明かす裕太と内宮。

 ある日、光城グァンチォンに反政府軍が襲撃をかけ、城は混乱に包まれる。

 そんななか、裕太に接触を図る反政府軍。

 その時、裕太の出した返答は。


 次回、ロボもの世界の人々32話「黒鋼の牙」


「ここで敵さんにさらわれたら、うちのヒロイン度爆増間違いなしや!」

『では、私もヒロインになりたいのでさらわれてご覧に入れましょう』

『ジュンナちゃん、私が助けに行くぞぉぉぉ!』

『結構です』

『ぐはぁっ!!』

「厳しいツッコミやな……」

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