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第31話「光国の風」【Dパート 光国の少年】

 【4】


「ごちそうさま……うぇっ」


 兵士によって運ばれてきた、鼻が曲がるほど臭い飯を食い終えた裕太。

 口の中のジャリジャリ感を水で洗い流して飲み込み、一息つく。


「なんでこんな目に合わなきゃならないんだよ……」

『今は身動き取れませんし、辛抱してくださいご主人様』


 ジュンナの言うことはもっともだった。

 狭い牢獄の中、あるのは石の椅子と藁の寝床、そしてトイレ用と思われるツボがひとつのみ。

 頑丈な鉄格子で塞がれ、見たこともないような構造のカギで閉じられた扉。

 身ひとつで脱獄できるとは思えない、しっかりとした牢屋に閉じ込められていては行動の起こしようがない。


「内宮もこんな目にあってるのかな」

『さあ、それは……』


「なあ、ニイちゃん。ニイちゃんってば」


 正面から聞こえた声に視線を上げる。

 ちょうど向かいの牢屋の中にいる少年が、鉄格子から腕を出してチョイチョイとしていた。

 少年が着ている服は、衣服というよりは服の形にこさえたボロ布といった印象。

 見ただけで、貧しい身の上が想像できる。


「何だ?」

「ニイちゃんってさ、外の人だろ?」

「外……このコロニーの外ってことか? まあ、そうなるかな」

「オイラが思ったとおりだ! へへっ、自慢になるぞぉ!」


 牢屋の中ではしゃぐ少年。

 口ぶりからすると、このコロニーの住人らしい。

 裕太はとりあえず、少年に色々聞いてみることにした。


「なあ、えーっと……」

「オイラはズーハンってんだ、よろしくな!」

「えっと、俺は笠本裕太だ。よろしく」

「ユータか、よろしく!」

「よし、じゃあズーハン。ここは何なんだ?」

「ここか? ここは光城グァンチォンっていうお城の地下だよ。上は女帝様や姫巫女様が住むでっかい宮殿なんだ」


 聞き方が悪かったな、と裕太は思った。

 建物の名前が知りたかったわけではないが、ひとまず女帝と姫巫女という役職の人間が住むところだということはわかった。

 ふと、〈キネジス〉なる機体に乗って戦いを挑んできた少女が姫巫女と名乗っていたことを思い出す。


「なるほど……。じゃあズーハン、このコロニーはなんて言うんだい?」

「ころにー? なんだそりゃあ」

「えーと、この国……この世界っていうのかな。何か呼び方はないのか?」

「ああそういうこと! 大人はみんな、ここが光国グァングージャって言ってるぞ」


 聞いたことのない地名。

 名前から何か類推出来ないかとは思ったが、中国風で有ること以外は全然読み取れなかった。

 視線を下げ、携帯電話の中にいるジュンナに相談する。


「……なあ、ジュンナはどう思う?」

『先ほど私が言った、未知の文明であるという線が色濃くなりました』

「ユータ兄ちゃん。板っ切れと喋れるのか!」


 ジュンナと話しているところでそう叫ぶズーハン。

 彼は携帯電話というものを知らないようだ。

 そもそもコロニーの中だというのに圏外という時点で予想は出来ていたが。


「そうだ、ズーハン。君はなんで牢屋にいるんだ? その割には結構元気そうだけど」

「オイラ? オイラは町で菓子盗んだらドジしてとっ捕まって反省中だ。ま、夜になったら帰してくれるから平気だけど」

「ああ、そう。俺も出られるかな?」

「ユータ兄ちゃんは難しいんじゃないかな? 兵士のオッチャン達、ユータのことハンセイフがどーのこーのって言ってたし」

「反政府ねぇ……。違うって言っても聞き入れてくれないだろうなあ。……反政府ってことはそういう連中がいるのか?」

「女帝様の命を狙う悪いやつだよ。神術が使えないからって農村送りにされたことを、連中は僻んでるだけだって母ちゃん言ってた」

「神術?」

光国グァングージャの人間のほとんどが使える術だよ。喋らなくても意思が伝わったり、ちょっと先に起こる事がわかったりするヤツ。オイラも少しだけど使えるよ!」


 その特徴は裕太にも聞き覚えがあった。

 コロニー生まれの人間にときどき発現する特殊能力、エクスジェネレーション能力。

 思えば、ここに来た時の戦いで敵はExG能力がないと使えないガンドローンを多用していた。

 ほぼすべての住人が能力が使える国、というのがこのコロニーの正体なのかもしれない。


『ははぁ、わかってきました』

「何がだ、ジュンナ?」

『ご主人様が捕まった理由と、内宮さんが別で連れて行かれた理由です。ご主人様は無能力ですが、あの人には後天的ですがExG能力が与えられています』

「つまり、俺は能力なしだから厄介者である反政府軍と間違えられ、内宮は能力があるから偉い人間と思われているってことか?」

『ご名答。普段からそこまでの理解力が示せていれば、期末テストの点数ももうすこし高かったでしょうに』

「うるせー」


 それにしても妙だな、と裕太は考えた。

 携帯電話も知らず、兵士の格好もズーハンの出で立ちも古めかしいのに、キャリーフレームとガンドローンという宇宙進出時代の産物は存在している。

 それに、キャリーフレームの性能は現状の最新機と張り合えるハイパージェイカイザーと渡り合える高性能。

 古めかしい景色と最新の機械兵器のちぐはぐさには、疑問が隠しきれない。


「なあ、ズーハン。次に聞きたいことだけど……」

「グー、グー……」

『寝てますね』

「いつの間に……」


 貴重な情報源に沈黙され、裕太はまた退屈になってしまった。





  …………Eパートへ続く

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