第31話「光国の風」【Cパート 相反する扱い】
【3】
「ここに入っていろ! 逃げ出そうとは思うんじゃないぞ!」
鎖かたびらに身を包み槍を持った兵士の手で、乱暴に独房へと放り込まれる裕太。
兵士が立ち去ってから、裕太は痛みに耐えながら立ち上がった。
壁にかかった燭台の炎だけが明かりの薄暗い閉鎖空間。
床は砂利だし、壁は苔むした石造り。
お世辞にもいい環境とは言えない。
「くそーっ、何なんだよここは!」
『牢屋、独房、刑務所。このどれかだと思われます』
ズボンのポケットから聞こえたジュンナの声に気づき、携帯電話を取り出す。
電波は相変わらず圏外だが、捕まったときに没収されなかったようだ。
「どれかって言うか、どれもっていうか……」
『それよりもご主人様、ここに来るまでの風景はご覧になりましたか?』
「いや……コックピットから引きずり出されてすぐボコボコにされたからな。痛てて……」
『このコロニーの形態は、私が知るコロニーのどれとも合致いたしません』
「何だって? それってどういう……」
『建築様式、装備等は古代中国のものと類似しておりますが、完全でもない。恐らくは未知の文明によって成り立つコロニーではないかと思われます』
「でも、日本語話してたぞ?」
『ヘルヴァニアも異世界《タズム界》も公用語は日本語に酷似する言語でした。ですのでそれはアテにならないかと』
「そうか……」
独房の隅の、藁が積まれたような簡素な寝床に裕太は横になった。
携帯電話の中にいるデータはジュンナだけ。
内宮とジェイカイザーの身を案じながら、裕太はぼんやりと炎のゆらめきが照らす天井を眺めた。
※ ※ ※
「な、なぁ……ジェイカイザー。うちら、なんでこないなことになっとるんや?」
『私に聞かれても困るが……』
綺羅びやかな畳敷きの広い宴会場。
ステージの上で舞を踊る女性たちを前に、豪華な食事の盛られた卓。
なぜか携帯電話にジェイカイザーがいる状態でここに連れてこられた内宮は、未だ事情が飲み込めないでいた。
「神の使徒よ。楽しんでおられますか?」
戦いの中で聞いたものと同じ凛とした声が背後から聞こえてくる。
内宮が座布団に座ったまま振り向くと、頭の左右で黒い髪を結った変わった髪型の女の子が、長い髪と羽織ったマントを揺らしながら歩いて来た。
見た目12、13歳ほどにしか見えない少女が、戦いの中でシェンと名乗っていたのを思い出す。
「使徒やて?」
「突然のことで混乱されているのはわかっております。あなた様は神像を繰り我らを救いに向かわれる途中、反政府軍の者に神像を奪われ人質となっていたのでしょう?」
つらつらとデタラメなストーリーを語るシェン。
嘘をついているようには見えないことから、どうやら彼女らの中では“そういう”ことになっているらしい。
「何言うとるんかサッパリや。笠本はんはどこに行ったんや?」
「あなたをさらった男なら、今は独房に封じております」
「独房やて? うちも笠本はんも反政府軍とかやないんや! はよう出したってーや!」
内宮の懇願を聞き、哀れむような表情になるシェン。
これは十中八九、話が通じていない。
「可哀想に、あの男に誑かされたのですね。混乱が解ければ、あなたは使命を思い出すはずです。それまでは、わたくしどもでお助けいたしますからごゆるりと」
マントと長髪を翻し、宴会場から立ち去るシェン。
こちらの事情で話をしても、妄言扱いされてしまうようだ。
内宮は一旦冷静になり、漂流中に空いた腹を満たすため箸に手を付けた。
…………Dパートへ続く




