第30話「炸裂! ダブルフォトンランチャー!」【Gパート 死闘】
見る人が見れば、一方的な虐殺にも見えただろう。
圧倒的力を誇るΝ-ネメシスの勢いに、成す術なく呑まれる黒竜王軍。
圧勝ぶりにパイロットたちが安堵し、残るは前方に陣取る一個小隊のみとなったところで、奴が動いた。
一枚の氷の刃が飛来し、主砲塔の銃身を切り裂く。
溢れ出るエネルギーの暴走を前に、裕太は艦橋の前へと飛び出し、レバーを内側へ倒す。
バツの字を描いたハイパージェイカイザーの両腕から緑の光が吹き荒れ、至近距離で発生した爆発を受けとめる。
「予定より早い! やはりフィクサの入れ知恵か!」
「笠本はん! 前の魔術巨神はどうするんや!?」
主砲の爆発は、思った以上に戦果を出していた。
三つの主砲塔のうち1つを巻き込み飲み込んだ爆発は、エネルギーの漏洩をもたらしたのか、残った一つの砲塔からも光が消え失せている。
準備が整えられる暇があるなら知れずとも、眼前に敵群が控えたこの状況。
すでに大軍向けの範囲兵器が使い潰された以上、取れる手段は一つしかなかった。
「ジェイカイザー、ダブルフォトンランチャーを使う!」
『しかし、それは奴との……グレイとの戦いに取っておくのでは!?』
「どのみちこのままじゃ艦が死ぬ。だったら!」
コンソールを操作し、ウェポンブースターを起動。
ハイパージェイカイザーの全身を、フォトン結晶が包み込み、鎧のように形状を変化させる。
二本のジェイブレードが宙に浮き、ガイドワイヤーを伸ばす肩部へと、吸い込まれるように移動した。
2機連結のフォトンリアクターの全力を、射撃モードのジェイブレード二本から発射するダブルフォトンランチャー。
前回の発射ではその反動に耐えきれず、ハイパージェイカイザーの両腕が機能不全に陥った。
その解決策として、訓馬博士が導き出したのは、肩部にランチャーのジョイント部を設け、その反動を上半身全てで持ちこたえること。
テストもされずに実戦へと相成った兵器の発射プロセスが、秒を惜しむ勢いで着々と進行する。
「笠本はん! 照準バッチシや!」
「いっけえぇえ! ダブルフォトンランチャー!!」
戦士から光が放たれた。
エメラルドグリーンの波が敵の集団へと襲いかかる。
眩い空間の中でその形状を歪ませ、形を失う魔術巨神。
長いような十秒を終え、輝きが失われる。
その時だった。
「ご苦労だったなぁっ! 笠本裕太ぁっ!」
横合いからハイパージェイカイザーの巨体を突き刺し、空へと投げ出す蒼い脚。
体制を整える間与えずに加速し、空中で巨体を吹き飛ばす竜戦士。
「グレイ、てめぇぇぇっ!」
「貴様らの自己防衛の手によって、こちらの仕事を減らしてくれて感謝するぞ!」
雹竜號が裕太の乗るハイパージェイカイザーを突き飛ばし、両肩のユニットを展開する。
あの構えは、奴の必殺の一撃の前動作。
「このような形で決着とは不本意だが、こちらも事情があるのだよ」
「こいつ! フィクサにそそのかされて!」
「笠本裕太、死ねよやぁぁぁぁっ!!」
青の竜騎士が螺旋を放つ。
あの二つの吹雪をかわすほどのスキはない。
裕太の答えは、決まっていた。
「ダブルフォトンランチャー、発射!!」
再び引かれた引き金が、勇者の光を呼び起こす。
互いにぶつかる蒼と翠の光。
しかし、その光は徐々に、ハイパージェイカイザーの方へと押されていっていた。
「クソっ! やはり2連射じゃエネルギーがたりないかっ!」
『残量エネルギー低下中、出力50%を切りました』
冷静なジュンナのアナウンスが、危機的状況を語る。
ハイパージェイカイザーを纏う結晶の鎧が剥離し、力を失ってゆく。
裕太が死を覚悟したその時、通信越しに声が響いた。
「空間歪曲砲、発射!」
吹雪とフォトンのエネルギーがぶつかり合うまさにその場所を、白い光が貫いた。
同時にコックピットが激しく揺れだし、あらゆるセンサー類が一斉にエラーを吐き出す。
「な、な、なんや!?」
「遠坂、一体何が!?」
異常状態の中で、状況に追いつけず混乱する裕太と内宮。
そんな二人へと、深雪が静かに言葉を送る。
「……幸運を祈ります」
その声が、裕太の記憶が途切れる前の最後の言葉だった。
…………Gパートへ続く




