第30話「炸裂! ダブルフォトンランチャー!」【Fパート 奮闘】
【6】
「ライフリアクター、出力確認!」
「出力19%! エネルギー充填97.88%です!」
報告を聞き、深雪はギリと歯ぎしりした。
Ν-ネメシスの動力炉・ライフリアクターに必要なエネルギー源を、人間そのものから風呂の残り湯で代用するまでは良かった。
しかしこの代替方法は変換効率があまりにも遅く、エネルギーの充填に時間がかかりすぎるという弊害を孕んでいた。
ひとたび充填率が100%まで溜まれば、数カ月は充填分で事足りる。
その間にまた残り湯をエネルギーへと変換すれば、次の数ヶ月までの間にエネルギーは問題なく蓄積することが可能だ。
だからこそ、最初の100%までがあまりにも遠すぎた。
最初の出撃などは、わずか数%の充填率で出撃をし、戦果を上げることには成功した。
しかし不完全なエネルギーの放出は各部への異常という形で半日後に牙を向き、その補修に数日を費やす羽目にもなった。
100%の状態の発進でなければ、この艦は充分に性能を発揮してはくれないのだ。
キャリーフレーム隊が稼いでくれている残りの数パーセントがたまり切るまでの僅かな時間が、もどかしかった。
「む……!? 艦長、遺跡上空に反応っ! 空中要塞です!」
「何っ!」
レーダーへと映るひとつの光点。
それは紛れもなく、黒竜王軍の空中要塞〈エルカーゴ〉。
「エルフィスさんの結界で、島の直上への転移は防いでいたのでは!?」
「敵は転移をしたのではありません! 高度なステルス能力をもって接近したものと推測します!」
「キャリーフレーム隊は!」
「1機、〈エルフィス MkーⅡ〉のみ帰還ルートですが、片腕を損傷! 迎撃には火力足りません!」
うかつだった。
これまで黒竜王軍がステルス的な能力を使用した例がなかったため無警戒だった穴を付かれたのだ。
この遺跡を覆う壁や天井は、所詮は石造りなため要塞の砲撃には耐えられまい。
そうなれば、真上からエルカーゴのビームを食らうことは、この艦の死を意味する。
あと1分で終わる充填だったのにと、深雪は放心した。
その時だった。
「艦長、西方向より高熱源! ネメシスからのビームキャノンです!」
予想外の方向から飛んできた光の帯が、敵要塞を貫いた。
衝撃で傾いた〈エルカーゴ〉から発射された光線が、水面へと突き刺さり飛沫を上げる。
大破し、居住区としての役割をも放棄したネメシスには誰も居ないはず。
突然の出来事に唖然とする深雪の前に、モニターに人影が映りだす。
「……深雪。私は父親として失格かもしれんが、親としての務めは果たさせてもらうぞ」
「どうして……」
「若い者に言われたのだ、親ならば自分で赴けとな。寂しい思いをさせてすまなかった」
「謝るくらいなら、どうして……」
「深雪、私は──────」
「敵要塞健在! ネメシスに向け砲撃します!」
父の言葉を遮るように、半壊した〈エルカーゴ〉から発射される光線。
ネメシスの艦橋を貫く光、途絶する通信。
少女の瞳から、一粒の涙が落ちる。
「ずるいですよ……。最後だけまともな父親面をしても、子供は喜ばないのに……」
涙を拭いながらも、ブリッジクルーが伝える充填100%を知らせる報は、聞き逃さなかった。
「遺跡ハッチ展開! 抜錨せよ、Ν-ネメシス発進!!」
「抜錨! Ν-ネメシス発進します!」
艦の頭上を覆う天板がスライドし、夕焼けがかった島の上空から日が差し込む。
同時に艦体が浮遊し始め、その姿を大気に晒す。
「行ってきます。……お父さん」
涙を飲み込み、少女が吼えた。
「Ν-ネメシス、突撃せよ!!!」
【7】
「直上、敵要塞攻撃態勢!」
「クラスタービーム、発射用意! プリズム発射は不要だ!」
「了解、クラスタービーム発射用意!」
クルーの復唱を耳に入れつつも、深雪は状況の整理を行う。
敵の数は無数、味方機は劣勢、損傷を受けた〈エルフィス MkーⅡ〉が甲板へと帰還。
導き出される推論、確立する解決策、あとは体外へと放出するだけ。
幼き少女の身体から練りだされた智力が、声となって艦橋を伝搬する。
発射されるクラスタービームの帯が、敵要塞の中心へと突き刺さる。
内部でエネルギーの誘爆を起こしたその巨体が、内部崩壊という形で弾け崩れる。
人の命を表す光か、紅き血の光を迸らせ加速する船体。
加速によって生じるGが、深雪の小さな体へとのしかかる。
身を守る歪曲フィールドを矛へと変え、敵陣へと食い込むΝ-ネメシス。
「側面多連装ビームキャノン、一斉射! 左右両方ともだ!」
「了解! 左舷、右舷側面ビームキャノン、一斉発射!」
戦場を梳かす櫛のように、船体の両脇から光の縞が帯となって伸びてゆく。
Ν-ネメシスの死角となっていた側面を保護するべく、ネメシスより移植した付け焼き刃の砲塔たち。
元の主を失った銃身が、怒りを晴らすかのように唸りを上げ、直線上にいた敵を梳かしてゆく。
「味方機に帰還命令を飛ばせ」
「艦長、攻撃をすり抜けた敵機接近! 数4!」
「主砲塔回頭、狙いは大まかにして即時発射!」
「了解! 空間歪曲砲、発射!」
艦首から伸びる三門の主砲塔が回頭しつつも、その内に秘めたエネルギーを砲身より溢れさせながら歪んだ鞭を振るう。
接近を許した敵機体が光の渦へと呑まれ、その姿を存在ごと歪ませて消失する。
その余波となるエネルギーの奔流が囲う敵を次々と巻き込み、レーダーより消し去ってゆく。
残る一機が艦橋前に現れ、巨大な刃を振りかぶる。
眼上より飛来した片腕の〈エルフィス MkーⅡ〉が、手に持つビームピストルを侵略者の喉元へと突き刺し、照射。
頭部を失った敵機を蹴り飛ばし、岩礁へとその身を落としてゆく。
そうしている間に帰還命令を受けたキャリーフレームが、次々と甲板へと着地する。
どれもが装甲に受けた傷と途切れ途切れのバーニア光で消耗を主張しており、敵軍を抑える戦いの過酷さを語っていた。
「キャリーフレーム隊の帰還を確認!」
「戦況を報告!」
「敵残存30%、依然として戦意喪失していません!」
「ならば戦闘続行、奴らを根絶やしにする!」
…………Gパートへ続く




